第11話 魔石ではなく魔人石
僕たちはひとまず寮へ戻ることにした。その帰り際で、何か買おうという話だ。元々適当に王国内を回る予定だったが、急遽、城に連れて来られたため無きものとなった。
僕とタツヤはノーブル王国の食べ物などには特別興味があった訳では無い。僕達は言わば飼い主のペットのようなものだ。セキハに連れ回されているただのペットである。
しばらくすると、商店街に出た。四方八方から、いい香りがする。商店街を抜けると買うつもりのなかった、ハンバーガーを持っていた。匂いにつられて無意識に買ってしまったのだ。転生者は液晶パネルに手を置き、認証することで無料でなんでも買えるから損は無いのだが。
一方セキハは右手と左手に食べ物を沢山抱えていた。そしてタツヤは何処から持ってきたか分からない本を読みながら歩く。どんだけ自由なんだこの2人は……。
商店街を抜けてから30分ほど歩いた。
ノーブル王国は巨大な城を中心とし、円形状に街や学校などがある。だから迷っても城の位置を把握しておくことで簡単に戻ることができるのだが……。
「あれここら辺に学校があったはずじゃ……」
僕は謎の肉を使ったハンバーガーを食べながら歩き、学校へ向かっていたのだがそこは街だった。何故そうなってしまったのかをいち早く気づいたのはタツヤだった。
「俺たち、門の前に転移されたよな。もしかして反対側だったんじゃないのか」
「あれ……よく見たら城の模様が少し違う……」
セキハは城の方を見て言う。
――僕たちがカーラルによって転移された場所は反対側の門だったのだ。つまりここは学校と真反対の場所である。
「ということは……つまり」
「反対側まで歩かないといけない………ってコト?!」
「面倒くさすぎるぅぅぅぅ!」
スターターセットを使って走れば、直ぐに着くだろう。だが街でのスターターセットは、学校の規約により禁止されている。つまり、走ったらスターターセットが適応されてしまうため、歩かなければならないのだ。違反したら死刑だと思っておくべきだ。(違反してもよっぽどの事がない限りそうはならないと思うが)この制約のせいで僕たちは反対側の学校まで歩きで行かなければならない。
◆ ◇ ◆
「戻ってきた〜!!!」
セキハはいつも以上ににこやかだった。結局4時間ほどかかって何とか学校にたどり着いた。僕らは日が落ちる前に戻ってこれたのだ。
「俺は図書館に行く。ちょっと調べたいことがあってな」
「私は興味無いから、部屋に戻るね。じゃあまた!」
セキハはスタスタと自分の寮に帰って行った。うん。自由だ。
「キサラ。お前はどうする」
「僕もタツヤに着いて行くよ」
僕はタツヤと一緒に学校内の図書館に来た。以前来た時は、ラミューと会話をしただけで、満足してしまった。
「で、調べたいことって何?」
「魔石だ」
「何それ?触ったら魔力が増幅する石?」
「本によると、この石を食べれば、魔力が10倍に跳ね上がるらしい。でもどこにあるか分からない。今からそれを調べる」
「何。タツヤは魔石を食べようとしてるの?」
「……」
「……?」
「いや……そうだ」
「そうなのか」
「いや冗談だ」
「冗談かい。じゃあなんのために」
「なんとなくだ。知識を増やすのは重要ことだからな」
毎回質問をしている理由である。知識(情報)を増やすことは重要だと、今まで何回聞いたことか。
タツヤは図書館内を徘徊し1冊の本を持ってきた。そして外の景色が見えるカウンター席に座る。ラミューが座っていた場所と同じ席だった。僕はその横に腰掛ける。
「どう。なにか見つかった?」
真剣な眼差しで本を読むタツヤ。
「これは……」
「何……?」
「魔石は架空のもので実際には存在しません……と書いてあるな」
「今までの話は何だったんだよぉ!」
ほんとに今までの話はなんだったのだろうか。
「いや違う」
「何が……?」
「魔石は存在しないが魔人石は存在するようだ」
「いやどういうこと……」
「ほらここに書いてあるだろ」
渡された本を朗読するとタツヤの言う通り、本当にそう書いてあった。
「魔人石は発光した黒色の石で高所に生成される……」
「ということは俺たちが転生した場所にあるんじゃないか?」
「でもあそこは深い渓谷があるだけだと……思うけど」
「その渓谷の中にあるかもしれないな」
「でもどうやって取る。飛べない限り100%死ぬと思うけど」
「それは追追考える」
タツヤは本気だ。絶対知識を増やしたいという理由じゃない。
この人――ただ単に魔人石が欲しいだけだ。
「俺はもう少し調べる物がある。キサラはどうする」
「僕は寮に戻るよ」
「わかった。ありがとな」
図書館に来たにもかかわらず、ほぼタツヤの話を聞いていただけだった。魔人石……。
一応頭に入れておこう。情報を増やすのは重要だ。とタツヤが言っていたからね。
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