第10話 休暇の日

僕達は休暇期間に入った。この学校は1年の最後のに長期休みが入る。簡単に言えば、4月から12月まで訓練をし、1月から3月までは休みとなる。つまり夏休みや冬休みを圧縮して最後に持ってきているというイメージだ。この休みが終われば、無条件で上の学年に進級できる。しかもこの期間は学校外も解放され、ノーブル王国内ならどこへでも行けるようになるらしい。


僕はセキハ、タツヤと共に寮のエントランス前で待ち合わせをしていた。全員私服である。校内にある服屋でいつしか買ったものだ。


「遅いよキサラ〜!」


(いやあなた達が早すぎるんだよ……)


僕は5分前行動を重視している。だがこの2人はいつも20分くらい前からそこにいるのだ。主に食事の時には、毎回2人の方が早い。まあこっちから合わせればいいのだが、何も言ってこないのでいつも通りの行動をしている。


「で、どこ行くか決まってるのか」


「とりあえず適当に回ろうよ。私たちずっと学校にいたからまだノーブル王国のこと何も知らないし」


そう――ノーブル王国のMAPなど、何処にも無い。セキハの言うように、適当に歩くしかないのだ。魔剣士育成学校は割と高いところに位置している。ここから街をある程度見渡せるのだが、とてつもなく広いのは見れば承知の上だ。まあ適当に歩いて迷ったとしても、王国の中心にある城の位置を確認すれば戻ってこれる。


「こんにちは」


会話をしていると、何処からか微かな声がした。この声は……カーラルだ。僕達の視界を遮る壁からスっ…と現れる。


「あ、カーラルさん。何故ここに?」


「君たちに見せたいものがあってね。待ち伏せしてたんだ」


見せたいものとは何なのだろうか。僕は瞬時に思い出した。レビアが言っていた国王直々の呼び出しだ。


「見せたいもの……?」


「私に着いてきて」


僕たちはカーラルの後を着いて行く。その道中でタツヤは声をかける。


「あの、どこに行くんですか?」


「城よ」


「なんで俺たちを城に?」


「いいから着いてきて」


カーラルは一瞬だけ一瞥し、足を止めることなく前へ進む。学校から城までが遠い。1時間くらいかかっただろうか。学校から見える城は近いのだが、遠回りしないと城へ行けないため時間がかかるのだそう。


そんなこんなで僕たちは今、城の敷地内にある門をくぐろうとしているところだった。その門番らしき人が立っている。


「国王の城なんてどうやって入るんですか?」


とセキハが言う。


「私はカーラル・ノーブル。この国の王女よ」


「え……今なんて……」


「王女……ってことは娘ってことか」


タツヤが顎を手で押えて顔をしかめる。


「うん。そうよ」


セキハとタツヤは驚いた表情をしていたが、僕はラミュー先生から事前に教えて貰っていたため「ふぅん」程度で聞いていた。


「なんで学校に王女が居るんですか!なんで俺たちをここに連れてきたんですか!なんで魔法が使えるんですか!」


タツヤはいつも以上に早口で3連続質問をした。タツヤの頭のネジが外れているようだ。怒涛の連続質問にカーラルは困惑していた様子だった。


「と、とりあえず着いてきて」


カーラルはサラッと流し門を通過する。僕達もついて行くが、門番には何も言われなかった。彼女が王女とだということを理解し、通したようだ。


城の前にも番人が居た。王女カーラルは、番人に対して相槌をし、何も言わず城の内部へ入る。番人も王女だと理解し、僕たちを通した。そのままカーラルについて行くと城内の個室に案内された。


「クラパルド・ノーブル国王……。お連れしました」

国王はベッドに横たわり目を瞑っていた。


「寿命が近いのは本当だったんですね」


ラミューを疑っていた訳では無いが、やはり国王は疲弊しているようだった。以前国王を見た時より、ヨボヨボしくなっている印象だった。


「キサラ君。なんでそのことを……?」


「色皇魔術師のラミューさんに教えてもらったんです」


「なるほど。私が王女だと明かした時、驚きもしなかったのはラミューに教えて貰ってたからってことですね」


「はい。そうです」


国王はゆっくり目を開け、王女を見る。


「父上。お連れしました」


もう一度、カーラルは国王に向かって、僕たちを連れてきたことを報告をした。国王は僕を一瞥する。この時点で、国王が王女に連れてこさせたのは、僕目当てだということが瞬時に理解出来た。


「もうすぐ寿命が来る。1年持つか持たないかの瀬戸際だ。私が死ぬと結界が剥がれ魔物が大勢入ってくるだろう。せっかくここまで作り上げてきた王国を無下にはしたくはない」


「父上の役は私が引き受けると言ったじゃないですか」


カーラル王女の声のトーンが下がる。


「今のお前なら、私の代役を務めることは出来るだろう。だが民の命と子の命、どちらが大切かと言われればもちろん子だ。自慢の娘だからな。たとえ国がどうなろうと、お前だけは生きるんだ」


「俺も逆の立場だったらそうすることでしょう。もしその時は全力でこの国を守ります」


「私も同感。転生者として第2の人生を与えてくれた。だから協力したい」


タツヤとセキハは話の内容を理解し、国王に優しい言葉をかけた。


「キサラ君……だったかな。転生者で初めて魔法を習得したという」


「はい、まだ初級魔法だけですけどね……」


「お主がノーブル王国をいや、世界を救うと思っておる。期待しているぞ」


「国王様にお褒めになられるとは光栄です。ありがとうございます」


「話したいことは終わった。カーラル、キサラ君を連れてきてくれたことに感謝する。好きなタイミングで退出してくれ」


「では失礼します。父上」


何事も無かったかの如く、速やかに退出する。個室から離れ、城の中心地に戻ってきた。


「国王に私たちを合わせたかっただけ?」


「正確に言えばキサラ君にかな。国王の命令でね」


「じゃあ俺とセキハはなんのために来たんだ」


国王の目的は僕だ。そう思うのも無理はない。


「もう1つ見せたいものがあるからよ。転移魔法メタスタシー」


カーラルが詠唱すると、僕は城の屋上に転移されていた。


「ここは……」


「城の屋上よ」


所々に様々な色の花が植えられている。恐らく花壇だろう。なんの花かは分からないが、見た目はチューリップのような花だ。


ここは想像以上に高い。位置的には高層ビルくらいだろうか。満天の青空に美しい王都の景色。そして太陽の暖かい日差し。必要なもの全てが揃った完璧な場所であった。


「というか転移魔法が使えるならわざわざ歩かなくても良かったのでは?」


「私の転移魔法はまだまだ未熟だからね。そんなに遠くへは転移出来ないの」


転移魔法にはある程度制限があるようだ。


「にしても凄い綺麗」


あまりの美しさにセキハが声を漏らす。

城の屋上ではノーブル王国の街並みを全て視界に収めることが出来る。今までの人生で、体験出来なかったことである。周りを360°見渡していると、1つの国が見えた。


「カーラルさん。あの国は……」


「ハンブル国。昔ノーブル王国と対立していた国」


予想通り見えていた国はラミュー先生が言っていたハンブル国だった。ここから判断するに、ノーブル国から一番近いのはハンブル国で間違いないようだ。それを知ったところでなんなんだという話ではあるが、情報を増やすことに損は無い、とタツヤが言っていたからだ。彼が質問を繰り返すように、一見いらないような情報でもいつか役に立つだろう。


僕たちは何も喋らず、20分ほど景色に見とれていた。それくらい、綺麗で可憐で最高の景色だったのだ。


「付き合わせて悪かったね」


「いい景色見せてもらいました。ありがとうございます」


「俺も以下同文だ」


「じゃあ君たちを城の前に転移させるね。私はやることがあるから」


「ありがとうございます。もし何かあれば協力します」


「わかったキサラ君。ではまた」


カーラルは転移魔法を詠唱した。僕たち3人は城の門の前へ転移された。カーラルはどこかへ消えた。

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