第8話 理不尽には理不尽を

「タツヤもういいよ。魔法が使えないことがわかったんだから」


セキハが声をふりしぼり、タツヤに言った。ロボットだったタツヤは動きを辞める。


「投了するの?」


「いや違う。戦略的撤退だ」


タツヤはカッコつけていた。2人は僕たちの方戻って来る。


「じゃっ!次よろしく」


セキハがニコニコしながら帰り際に僕の肩をポンと叩く。一方タツヤは無言だ。


やはり僕に順番が回ってきた。


「キサラ。行け」

レビアに言われてカーラルの近くへ行く。足取りが重い。小学1年生の時のランドセルくらい重い。


「キサラ君ね。さあかかってきなさい」


タツヤとセキハの戦いを見てきた僕にはこの人に勝つ算段が見えなかった。剣技で勝てないとなるとこの人に勝つためには魔法をコピーするしか無い。あの二人が出来なかったとはいえ、魔法が使えないとわかっていても試してみる価値はある。


ひとまず魔法のことは一旦忘れて攻撃を仕掛けてみよう。普段ならスターターセットありきの動きを駆使して戦うのだが、最初は相手の魔法がどんな感じなのか見ておきたい。


「ハアッ!!!」


「疾風魔法ブラスカ」


「グアッ!!」


僕は砂埃と共に大きく吹き飛ばされる。魔法で防御されては弾き飛ばされる。どうすれば1歩でも下がらせることが出来るのだろうか。


「さあどうする?キサラ君」


僕は病気という理不尽に抗ってきた。この戦いも理不尽だ。僕は転生者だが相手はノーブル出身。しかも国王の娘という遺伝の暴力。この理不尽に勝つためにはどうすれば良いのか。


――そう。理不尽は理不尽で返せばいい!


僕は一直線上にカーラルに向かって走る。そして膝を曲げ、宙を舞う。真上から左手で剣を振り下ろす。


「上からでも変わらないよ」


――剣と剣が接触し金属音が耳に鳴り響く。

だが僕には右手が空いている。一か八か魔法に賭ける。


「疾風魔法ブラスカ!」


「なっ……そんなすぐ使いこなせるわけ……。グアッ!!」


僕の右手から噴出された風はカーラルを巻き込み壁に衝突させ、壁にヒビが入った。


「カーラルを動かした……」


「あいつマジか……」


「魔法……だよな」


見ていたクラスメイトは唖然としていた様子だった。


しばらくするとカーラルはゆっくり上体を起こし立ち上がった。


「見よう見まねで魔法をすぐに使いこなせるなんて完全に予想外だった。防ぐ余裕もなかったよ。君は間違いなく強くなるだろうね」


「いや……たまたまですよ」


こうゆうのは大抵失敗するのがお決まりだが、いとも簡単に魔法を使えてしまった自分に驚いた。いままで運が悪かったのは、このためだったのだろうか。手の震えがなかなか収まらない。


「よくカーラルに勝利した。素晴らしい。キサラ君に盛大な拍手を」


今まで厳格だったレビアが少し笑った。そして周りからは祝福の拍手が聞こえる。この幸福感は今までに味わったことがなかった。何かを達成することはこんなにも気持ちいいものなのか。




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