第7話 VSカーラル
ラミューと会話をしてから3ヶ月たった。今日もしっかりカリキュラムを終わらせ食堂へとやってきた。
いつもの席でいつもの2人が待っていた。
今日僕が食べるのはやっぱり何の肉を使っているかよく分からない『肉の定食』だ。だがこれが柔らかくて上手い。旨みが疲れた体に染みる。(スターターセットで疲れてはないけれど)
「ねぇキサラってさぁ疲れないの?」
唐突にセキハから聞かれた。
「うーんまあそうだけど」
「疲れてないと寝れなく無い?睡眠の質絶対悪いでしょ」
「いや――全然寝れるけどね」
「へぇー」
疲れてなくてもすんなり寝れるのは前世でずっと寝込んでいたからかもしれない。
「そういえば明日から今のカリキュラムは終わるらしいな」
ラミュー先生はちょくちょく僕たちの訓練に顔を出していたが、これから本格的に忙しくなるため、今のカリキュラムは終了となった。
「もう筋トレはやりたくなーい」
「そうだな。本を読むだけで十分だ」
酒に溺れたような女と質問役のメガネの会話は毎回こんな感じだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――次の日
「では特別訓練を行う。内容は4期生の上級生一人と戦ってもらう」
「ということは私たちは……?」
セキハが小声で言う。
「5期生だ。言い忘れていたがこの学校は2年制。つまりお前らは来年で卒業となる」
周りはガヤガヤとしていた。自己解釈で3年制か4年制だと思っていたのだろう。まさかの2年制に周りは驚きを隠せていなかった。僕はラミュー先生の話でもう聞いている。本を読みながら、耳だけ聞いている感覚だった。
「では今から4期生を呼ぶ」
レビアはいつもの指パッチンをすると目の前に髪を切り揃え下ろした1人の女性が転移された。
「5期生の皆さんこんにちは。私の名はカーラルよ。短い時間だけどよろしくね」
カーラル……間違いない。ラミューが言っていた王女のことだ。しかし何故王女が魔剣士学校にいるのだろうか。ラミューと会話をしていた時はすんなり受け入れてしまったが、転生者以外がこの学校に在籍するのは果たして良いのだろうか。
「カーラルの足が離れたら勝利となる。もし……」
「もし勝利したらなにか貰えたりしますか」
レビアがまだ何か言いたそうな、最悪のタイミングで質問役のメガネが問う。
「カーラルに勝利したら次の学年に上がる前に魔法を教える」
「魔法って……」
「まあ見れば分かる。カーラルと対戦したいものはいるか」
前から思っていたことがある。レビアは○○すれば分かる理論を提唱しているということだ。ここまで僕たちは何を教わっていない。全て自分次第ということだろう。剣技も魔力の制御も全て自己流だ。
そんなことはどうでもいい。魔法ってなんだ魔法は!僕は30秒ほど考えピンと来た。今まで魔法は色皇魔術師によって使えないものだと思っていた。だが魔法と魔術は違う。つまり僕にも魔法が使える可能性がある!!
「じゃあ私から……」
「俺がやります」
質問メガネ男が手を挙げ立候補した。いつもより威勢が良い気がする。
「じゃあお前ら2人でいけ」
「分かりました」
「俺がセキハと……?」
「立候補したじゃないか」
「まあそうですけど1対1じゃないと理にかなってないというか」
「全然いいよ。2対1でも」
カーラルは笑みを浮かべ、おしとやかに声をかける。
セキハとタツヤ、そしてカーラルはお互いに向き合い対峙している。セキハとタツヤは剣先を下に向け剣を構えていたが、カーラルは目を瞑り、落ち着いている様子だった。
色皇魔術師のラミューとの戦いの際は、嵐の前の静けさの様な畏怖を感じた。戦う前に強いという情報が脳裏に存在していたからだ。だが今回の戦いはあまり緊張感を感じない。王女のつよさはどれほどのものなのか、この目に焼き付けよう。
「では始め」
レビアが開始の合図をし、戦いが始まった。タツヤは一直線上にカーラルに向かって走り、宙を飛ぶ。そして剣を頭上から振り下ろす。一方セキハは右から周り、剣を消す。攻撃する気がないのだろうか。セキハの戦闘スタイルは速攻連撃型である。いつもならタツヤのやっているようなことをセキハがするのだが、今回は違う。恐らく力ずくで押し倒そうとしている。
「ハアッ!!」
「防御魔法デフィーサ」
カーラルは目を開けて詠唱した。右手から繰り出された魔法はタツヤの攻撃を華麗に防ぎ、攻撃を跳ね返す。これが魔法……だ。胸の高鳴りが止まらない。
そしてセキハは前傾姿勢になり、無理やり押し倒そうとしていたところだった。
「疾風魔法ブラスカ」
カーラルは詠唱すると左手から風の魔法を繰り出し、セキハは大きく吹き飛ばされ、外壁にぶつかった。魔法の風圧により砂埃が宙を舞う。
「これが魔法……」
セキハは直ぐに立ち、呟いた。
攻撃を防がれたタツヤはセキハの方を見ていた。
「へー。魔法って凄いな」
「ふっふー。良いでしょう」
自慢げにカーラルは言う。
「吹き飛ばされたい?」
「面白そうなアトラクションだ。ぜひ頼む。ダメージを喰らわない性質を利用させてもらうよ。だけどこの勝負、勝ちに行く」
タツヤは自信に満ち溢れていた。
「どうやって勝つつもり?」
「恐らく、俺たちは普通に戦っても勝てない。じゃあどうするか。相手の技をトレースすればいい」
ここまでの流れを見て僕は思った。タツヤは持っている全ての魔力を剣に集め攻撃した。だがそれは魔法で簡単にかき消されてしまう。――となるとやるべきことは1つ。本気で勝つためには相手の魔法をトレースするしかないのだ。
「疾風魔法ブラスカ!」
タツヤは見よう見まねで動きを真似し、詠唱した――だが何も起こらなかった。
その一瞬、時間が止まったように場が凍りつく。
「やっぱりダメかぁ……」
遠くで見ていたセキハは悔しそうな表情をしていた。
「ちなみに言っておくけど、転生者の中で初めて魔法が使えるようになったのは私だけなの」
「先生どういうことですか。全員魔法が使えるようになるんじゃ……」
思わず僕は焦りで先走ってしまった。
「そんなことは一言も言っていない。魔法の使い方は教える。だが使えるとは限らない」
(そんな馬鹿な……)
僕はまたしても落胆した。夢が壊された気分だ。
「この地に生まれたものは魔法を習得できるものは多く存在する。だが転生者という枠組みだとカーラルしかいない」
とレビアは言う。
その間、タツヤは何回も詠唱を繰り返していたがやはり何も起こらなかった。まるで壊れたロボットのようだ。
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