第6話 筋肉と過去
ここは教室。ラミューの試験が終わり、今は自由時間を過ごしている。僕たち3人は集まり、会話を楽しんでいた。
「色皇魔術師に褒められるなんて羨ましいなぁ」
「お前だって褒められてただろ。いい攻撃だって」
「でも力がない
「筋トレすればいいんじゃないのか」
「え〜したくないなぁ」
「授業のカリキュラムに入っていたとしてもか」
「そうなったらまあやるけど〜」
セキハが酔ったような感じで話しているがいつもこんな感じだ。仲が深まったからなのか不明だがいつの間にか教室にいる時と食事の時だけはこんな感じになっている。
「力っていうのは魔力のことなんじゃないかな。何も言われなかったタツヤと腕相撲したら負けるだろうし」
僕は二人の会話に混ざる。
「いややってみないと分からないだろ」
「試してみる価値はある。手抜かないでよ」
「当たり前だ。本気で行く」
急遽タツヤとの腕相撲が決まった。
「じゃあ私が審判やるねー」
セキハは拳を固定する。
「準備はいい?いくよREADY〜GO!」
始まったと同時に両者は力を加える。腕がプルプルと震え、ちょうど真ん中で留まっている。今のところ互角だ。
「クッッ!」
だが、徐々に僕の右腕が外側に傾いていく。1病院経つ事に、力を加えにくい体制になる――そして
「あ、負けた」
特に逆転劇もなく、普通に負けた。
「と、いうことは力は筋肉の方じゃなくて魔力って訳だ」
その理論が正しいのなら、僕はタツヤに魔力で負けた――ということになる。いやそれは無い。1対1の訓練ではほぼ互角だったはずだ。
「でも最初の実力を計る試験の時、俺たちは圧倒的な差をつけられて、セキハに負けたよな?となるとキサラはセキハの魔力を上回ったってことじゃ」
「どうだろう。いつも訓練に付き合って貰ってるけどそんな感じはしないけどな〜」
結局魔力についてはよく分からないままだ。レビアがいずれ分かるとは言っていたがそれはいつになることやら。
◆ ◇ ◆
――次の日
「今日から普段練習に加えてこのカリキュラムをやってもらう。ラミュー先生が作成した物だ」
レビアが指パッチンをすると全員の机に紙が配られた。朗読をしていると重大なことに気がついた。
(あれ。筋トレあるじゃん)
「ではしっかりやるように」
速やかにレビアは去る。
「昨日の話はなんだったのよ」
隣のセキハが僕に叱責する。
「イヤイヤ……僕に聞かれても」
見間違いでは無い。間違いなく書いてある。【筋肉トレーニング】腕立て伏せ100回腹筋100回スクワット100回計5セットと。
教室での腕相撲は無きものとなった。結局筋肉は必要だったのだ。やはり筋肉は全てを解決する……!と思っていたのだが、振り返ってみると僕は腕相撲に負けて当然だった。僕の利き手は左。そしてメガネの利き手は右。無意識に相手に合わせてしまったのだ。つまり、魔力ではなく利き手の違いで勝敗がついたということになる。自分の優しさが負けを誘ったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
やはりスターターセットは凄かった。筋トレをしても疲れない。痛みもない。なんて最高なのだろうか。だが周りを見てみると、生徒は全員疲れ切っている表情をしている。
僕はカリキュラムを早く終わらせ、図書館に行くことにした。ここ最近までこの学校に図書館があることを知らなかった。読書好きのタツヤから教えてもらったのだ。
異世界の本には少し興味がある。自動ドアを抜け、中に入ると木と本の香りが入り交じった落ち着く香りがした。――適当に館内をブラブラと歩いていると
「あれラミュー先生じゃないですか。なんの本を読んでるのですか」
ラミューは窓側のカウンター席に座っていた。右手で頬杖をつき、本を読んでいた。
「ああ。キサラ君か。これはノーブル王国の過去を記した本なの」
「ノーブル王国の過去……」
「横に座りな。立ってるのは疲れるだろうし」
「は、はい」
言われるがままに座る。ラミューからは香水のようないい香りがする。
「60年ほど前、ノーブル王国は元々ただの農村だった。そこから発展し着々と勢力は大きくなっていった。だが、その途中で別の国がノーブル王国に攻めてきた。それがハンブル国。ハンブル国の言い分は先に攻撃を仕掛けたのはノーブル王国だと言った。しかしノーブル王国は実際攻撃をしていない」
座ると同時に黙々と喋るラミュー。
「それって……どういうことですか」
「私はなにか裏があると思うの。キサラ君はどう思う?」
「どう思うって言われても……」
ノーブル王国とハンブル国。何かの因縁がありそうだ。
「まあキサラ君には関係ない話だったね」
「色皇魔術師って普段何をされてるんですか?」
色皇魔術師にあえる機会は今後なかなかない。ということで、僕は何も考えずに口を滑らせてしまった。
「ノーブル王国の見回りや魔物の駆除、国王の命令にしたがって、仕事を受けたりとかかな」
「へー大変なんですね」
「そうでも無いよ。のんびりとやらせてもらってる」
「というか魔物はこの世界にも存在するんですね」
「この王国は国王クラパルド・ノーブルによって特殊な結界が貼られていてね。外に魔物が湧くからそれを定期的に駆除してるって感じかな。あなた達転生者や民は結界から出れないようなシステムになってるけど私は出られる。それで魔物を減らしてるの」
レンガ造りの建物に入る前、僕は結界を発見した。あの結界はノーブル王国全体に貼られていたということか。民を守るために……。
「ちなみにスターターセットも国王の力なの。あの結界は寿命を削るから、転生者に分散して与えている。転生者に対して対価を払い育成することで、ノーブル王国の守りを少しでも固めようとしている」
「へ〜。そういう意図があったんですね」
僕達転生者は単なる国王の奴隷に過ぎない。だが対価が大きい。国王なりの考え方なのだろう。
「国王が死ぬとどうなると思う?」
ふと外の方を見てラミューは言った。
「結界が無くなり魔物が襲ってくる……」
「そう。もしそうなった時のことを考えないとこの国には終わる。ノーブル国王の寿命は一刻と近づいているからね」
「色皇魔術師は4人いるって言いましたよね。それなら簡単に守り切れるんじゃないですか」
「5年前、突如としてノーブル王国の周りに魔物が湧き始めた。ノーブル国王はそれを直ぐに察知して、何の迷いもなく結界を貼った。私は魔物を駆除したりしてこの5年間情報を集めてきた。だけど明確な情報は出てこない。想定外のことだって起き得る。国王が死んだ時守り切れるかどうかは分からない」
「国王の寿命は近いんですよね?あの転生者を殺すために魔法を使ってよかったのでしょうか。余計に寿命が縮まるんじゃ」
「あの時は私がやったの。ノーブル国王は詠唱だけしてね。力の延命と王の威厳を保つために」
パズルのように埋まっていく情報。そしてノーブル王国の運命。これからどうなるのだろうか。心配だ。
「もうすぐカーラル・ノーブルという女性と戦うことになる」
「カーラル・ノーブル……国王の娘……てことは王女」
「そう。君の1個上の先輩なのよ」
「この学校に先輩なんていたんですね。クラスの人しか合わないから存在しないと思ってました」
「カーラル王女は4期生で君は5期生。魔剣士学校は2年で卒業してその後は仕事をする。今まで合わなかったのは校舎が違うからだね。どうして別れてるのかは私には分からないけど」
5期生ということは結界が貼られてから転生者を入れて魔剣士を育成していたということだ。僕は危ない時期に転生してしまったのかもしれない。
「じゃあ1クラスしかないのは何か理由があるのでしょうか」
「転生者が年々減っているからだね。ちなみに1期生は50人くらい居たらしいよ」
「へ〜そうなんですね」
「私はやることがあるからここら辺で。じゃあまたどこかで会いましょうキサラ君」
そう言ってラミューは本を持ち席を立つ。
「興味深い話が聞けて良かったです」
ラミューは本を元の場所に戻して、速やかに去っていった。
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