第5話 VS色皇魔術師

3ヶ月ほどたっただろうか。この学校生活にいつの間にか馴染んでいた。セキハ、タツヤと共に訓練を積み重ねている。


最初の戦闘訓練では剣の扱いに慣れず、セキハの猛攻をただ受け止めることで精一杯だったが、日々の訓練により、剣の扱い方やスターターセットによる攻撃パターンも覚え、訓練という枠組みではなく、ただただ1対1の戦いを楽しんでいた。


自分含め各々成長していたがやはりセキハには追いつけないと自覚している。行動パターンを理解し対応できるようになったものの、やはりセキハの方が一枚上手だ。実力の差は一向に埋まらない。僕とタツヤが成長している過程でセキハもまた成長しているのだ。


――朝のホームルームにて。


「今日は特別なゲストをお呼びしている」


教卓に立ちレビアは言うと、1人の女性が扉を開け、教室へと入ってきた。


「皆さん、こんにちは。色皇魔術師しきおうまじゅつしの『セライド・ラミュー』と申します。どうぞお見知りおきを」


どこかで見たことのある顔だと思ったら、城に転移された時、国王の隣にいた青髪の美しい女性だった。片耳には水色のイヤリングを付けている。


色皇魔術師しきおうまじゅつしとはなんですか?」


いつもの質問役タツヤが手を上げ問う。


「説明しましょう。色皇魔術師しきおうまじゅつしとはノーブル王国で生まれた人間にしか現れない希少な魔術師のことです。出生時は皆黒髪ですが、生まれてから10歳までのどこかのタイミングで稀に髪の色が変わる現象があります。そして15歳になるとその色に応じた魔術が使えるようになります。王はそれを色皇魔術師しきおうまじゅつしと呼び、私たちは国王から仕事を受け生活しています。つまり色皇魔術師しきおうまじゅつしとは《神からの贈り物》ということなのです」


髪の贈り物なのか神の贈り物なのかよく分からないが、ラミューの話によると、色皇魔術師しきおうまじゅつしはノーブル王国の出身かつ運ゲーを制さなければならないと言うことだった。ということは国王の隣にいた髪が黄色い男も恐らく色皇魔術師しきおうまじゅつしだろう。そりゃあ王の側近に置かれるわけで偉いわけだ。


「ということは転生者には発現しないということですか」


「そうですね。転生者は16歳しか召喚されていませんから」


そういうことならいっその事、生まれ変わって転生したかった。色皇魔術師になるチャンスを最初から失っていたのだ。「ああ〜魔法使いたかったな〜」などと嘆いたって変わらない。それが現実なのである。


「色皇魔術師は何人いるのですか?」


またしても質問をするタツヤ。


「私を含めて4人しかいませんね。ノーブル王国の人口は約500万人ほどなのでそれほど希少というわけです」


青髪のセライド・ラミューと黄髪の男以外にまだ2人も色皇魔術師がいる。他の人が何色なのかが楽しみになってきた。そして色皇魔術師になれる確率は単純計算で125万分の1。宝くじよりかは当たりやすいのだが、あまり実感がわかない数字である。


「色皇魔術師ってやっぱり強いんですか?」


今度はセキハが質問をする。


「もちろん。戦ってみますか?」


「はい!戦いたいです!」


セキハは乗り気だった。王の側近にいるくらいなんだから強いに決まっているのだが、相手がどのくらいの実力なのか想定できない。


僕達は3ヶ月で魔力の使い方を身につけ、歴とした魔剣士になるため特訓している。日々の訓練の中で、相手の魔力がどのくらいの強さなのかようやく理解できるようになってきたところだ。


だがラミューからは何も感じない。同じ人間とは思えない不気味な雰囲気と、強者の風格は感じ取れる。


「これから1人ずつ私と戦ってもらいます。それが終わり次第、私が新しく訓練のカリキュラムを作成します。それではレビア転移をよろしく」


セキハの質問がどうとか関係なく元々実力を見るために戦う予定だったようだ。


そしてレビアによって全員校庭に転移された。セキハとラミューが向かい合い1対1の体制になっている。僕らはそれを見守る。

「あなたのタイミングでかかってきなさい」


ラミュー微笑には怖さを感じる。圧倒的な強さを持つものにしか許されない余裕の笑みだ。


セキハは目を瞑り、剣に魔力を集中させる。


いつもの訓練の際はここまでしない。実はいつもの1対1の訓練は魔力の制御を主とするものなのである。最初から魔力を大幅に消費してしまうと後半は押されて何も出来なくなる。そのため最初から全力ではなく、ある程度の魔力を剣に纏わせ、時間内の中で戦うことで魔力の制御を身につける。これが訓練の目的なのだ。


だが今のセキハは本気モード。自分が持っている全ての魔力を解放している。普通に戦っても、勝ち目がないと踏んだのだろう。


先程まで強かった風が弱まり、緊張が走る。


「ハッァッ!」


不意に目を開けたセキハは素早いスピードでラミューに接近し剣を振り下ろす。


この攻撃はセキハならではのもので、スターターセットの俊敏性を活かし、スピードと剣技でごり押す速攻連撃型だ。

――だが


(え…………)


あまりにも衝撃的な自体に言葉が詰まる。セキハの剣が小指1本で止められたのだ。


「クッアッッッ!」


セキハは攻撃パターンを変えながら、連続攻撃を試みるが、やはり全て小指で受け止められてしまう。


今、僕は何を見ているのだろうか。正直予想を遥かに超えていた強さだ。


「なかなか良い攻撃です。解放した全ての魔力をコントロールできている。だけど力がない」


ラミューは笑みを浮かべながらセキハに対して呟いた。セキハは何かを察知したのか、攻撃を辞め後ろに下がる。そして剣を消しこう言った。


「お手上げ。勝てる気がしないもん」


「ちなみにラミューはまだ魔術を使っていない」

とレビアが補足をする。


魔術を使わずこの強さ。こんな人が4人もいるとなると、もしなにか起こっても大丈夫だろうという安心感がある。


「色皇魔術師がどれだけ強いか理解したかな」

レビアが真顔で言った。


「さあ次の方どうぞ」


病院の問診のような言い方でラミューは誘う。先程の戦いを見て、誰も行こうとしない雰囲気だ。だが最後まで残るのは良くない。こういうのは最初に方にチャレンジしてさっさと終わらせるのが正攻法である。


よし。ここは僕が……


「質問いいですか」


(ようやく1歩足を出したところなのにどんなタイミングで質問してくれてんだ。この……メガネ!)


今日3度目の質問だ。ベッドにダイブした瞬間転移されたのも運が悪かったからだと思う。前世では原因不明の病気にかかったように僕の運の悪さはこのせかいでも引き継がれているのだろう。


「はいどうぞ」


「色皇魔術師が強いということは理解しました。率直にお聞きしたいのですがラミュー先生より強い人は存在するのでしょうか」


「存在するんじゃないかな。私と同じくらいの強さの人しか会ったことないから分からないけど」


恐らく同じくらい強い人というのは他の色皇魔術師のことだろう。色皇魔術師しきおうまじゅつし同士の戦いを1度でもいいから見てみたいものだ。僕はその領域に踏み入ることが出来るのだろうか。最初は普通の学校生活を送る事が1つの目標だったが、いつの間にか強くなりたいと思うようになっていた。


「お答えして頂きありがとうございます。では次手合わせお願いします」


(結局あんたから行くんかい)

というツッコミは置いておこう。


結局タツヤ含め同じような結果だった。人によって攻撃パターンは違えど、全て対応し、魔術を使うことなく小指で防がれて終わりだった。魔術をつかうまでもないということなのだろう。


いつの間にか僕以外の全員とラミューの手合わせが終わり、孤立。戦い終わった生徒は別のところで固まっている。色々なことを考えていたら、最後となってしまった。


「最後は君だね。本気でかかって来なさい」


今までの戦いを見てきたが全部小指で剣を受け止められていただけだった。そうなることは周知の事実である。僕はゆっくりとラミューの目の前まで足を運ぶ。そしてセキハと同様に全ての魔力を剣に込める。


「ハァッッ!」


僕はラミューの真上へに飛んだ。そして剣先をラミューの首めがけて渾身の一撃を振り下ろす。


「なるほど……」


意味深な言葉を言われた後、剣は小指で受け止められる。そのまま後ろに弾かれた。体の重心を何とか前に持っていくことで転ばずに踏みとどまることが出来た。


――するとラミューは剣を防いでいた腕を下ろし


「君の名前は?」


と言った。


「キ、キサラです」


予想外すぎて反応が遅れた僕。


「へぇーキサラ君ねぇ。このクラスの中だったら君が1番手応えがあった。正直驚いたよ」


僕以外のクラスメイトには何度も攻撃させていた。だが今回は1度のみ。基準は何なのだろうか。それにしても色皇魔術師に賞賛されるとは思ってもいなかった。


何せ今まで人生の半分以上病院生活だったため、何も出来ない僕を褒める人なんて存在しなかった。だから人一倍にその言葉が染みた。


「お手合せありがとうございました」


僕は感謝の気持ちと共に一礼する。


「このクラスの実力は理解しました。ではまたどこかで会いましょう」


ラミューはロウソクのように姿を消した。

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