第3話 ノーブル王国魔剣士育成学校

転生から次の日、僕は目を覚ました。異世界に来てからまだ何も食べていないが不思議とおなかは空いていない。食べるという概念がないのだとしたらそれはそれで困る。前世では人生の半分以上病院食だった。ああハンバーグとか唐揚げとか何か美味しいものが食べたい。


待機室の扉は開かない。もはや待機室と言うより監禁室だ。まあベッドでごろごろしながら転移を待つとしよう。


しばらくすると僕は学校の広大な校庭に転移された。布地の服がいつの間にか制服に変わっている。ほかの転生者も集まってきていた。生活出来る環境が整っているとはいえ、強制的に入学され、満更でもない生徒の方が多いかもしれない。だが僕は違う。人生で学校生活をほとんど体験した事の無い僕にとって、最高の環境でやり直せることがどれだけ嬉しいことか。


「ようこそノーブル王国魔剣士育成学校へ。本日からこのクラスを担当する『レビア・グレスト』だ」


全身真っ黒のスーツを身にまとった男が言った。このクラスを担当――ということは担任ということだろう。


「今ここにいる20人がクラスメイトだ。そして突然だが現段階の実力を計る試験を行う。ルールは簡単。校庭内に風船がランダムで生成される。それを壊せ。1個壊す事に1点とする。もちろん生徒が生徒を攻撃してはならない。学校内では生徒同士のダメージが通らないように結界が貼られているが一応念の為だ」


「風船はどうやって割ればいいんですか」

眼鏡をかけた真面目そうな男が質問を投げかけた。


「転生者専用のスターターセットは適応されているはずだ。脳内で剣をイメージすると初めに適応した手の方に剣が手に入る。左手なら左に、右手なら右に来るだろう」


頭の中でイメージをすると左手にどこからか剣が現れた。僕は左利きではあるが右手も多少使える。病院生活でご飯を食べる際、あまりにも暇だったせいで右手で食べるようにしていたからだ。だが左手でスキャンして良かったと思う。いちいち利き手に持ち帰るのも手間だしね。NICEだ過去の自分。


「剣が不要な時同じことをすれば剣は消えてなくなる。安心しろ。剣が本当に消えている訳では無いからな。べつの空間に移動されているだけだ」


これが異世界。ただ剣を取り出しただけなのにも関わらずいつの間にか心臓の鼓動が加速していた。これが魔法では無いということは理解している。この動作が一種の魔法だと脳が勝手に認識しているせいだ。


「制限時間は5分。30秒後開始とする」


僕は簡潔に作戦を立てた。まず1番遠い風船を走って割りに行く。道中に風船があった場合それを割りつつ、本来の目標に向かう。他の転生者と距離をとる事で漁夫の利がしづらくなり、自分だけポイントを多く稼げると思ったのだ。題して『遠方バルーンぶち壊し戦法』。我ながらダサいネーミングセンスだがそれはそうとその後のことは何も考えていない。ノリと勢いだ。


「では開始」


始まったと同時に行こうとしていた方向から風船が出現した。


(よし。作戦通りだ)


遠距離にある風船に向かって走る。するとその道中で風船が湧いた。


(よし来た!ハアッッッ!!!)


全身全霊を込めて剣を振り落とす。

……だが


(わ、割れない……)


風船は剣を「ポヨン」と跳ね除けた。せっかく考えていた作戦だったが即破綻してしまった。ただ剣を振り下ろすだけじゃ割れないのだ。早く振ったり強く振ったりしても割れなかった。結局20回ほど剣を振るとようやく風船が割れた。剣を振る速度や強さでは簡単に風船を割ることが出来ないということは理解した。だがどうすれば良いのだろうか。


この状況じゃ自分含め全員苦戦していることだろうと思い込んでいた。――ところが遠くから風船の破裂音が次々と耳へ入ってくる。凄まじいスピードで次から次へと風船を割っていくでは無いか。


――その人は国王に丁寧な口調で質問をしていた女性だった。見とれている場合では無い。自分との戦いに向き合おう。結果そうこうしている間に制限時間となり試験は終了となった。


「結果は『セキハ』134個。『キサラ』11個。『タツヤ』8個。それ以外0だ」


風船を爆速で割っていた彼女はセキハというらしい。自分も良くやったとは思う。だがセキハとの差は歴然だった。過去に勇者でもやってたのかってレベルで比べ物にならない差である。彼女との違いはなんなのだろうか。


「俺と『セキハ』の違いってなんですか」

またメガネをかけたさっきの男が質問をする。


「お前が剣士だとしたら『セキハ』は魔剣士だ。まあ後々わかるだろう。では全員教室に転移させる」


割と心にくることを言われたが、メガネの人は動じていない様子だった。レビアが指を「パチン」と鳴らすと教室に転移され、気がつくと机とセットになった椅子に腰掛けていた。


僕は1番左で窓側の1番後ろの席だった。いわゆる当たり席というやつだ。その隣にはセキハが座っていた。メガネの人は1番右の列の前から2番目の席に座っていた。そんなことは一旦置いておいて転移は素晴らしい。前世でこの能力があればどれだけ楽だったか。

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