第2話 転生者が1人消えました

階段を降りきると、自然に整備された素朴な一本道が階段と1つの建物を繋いでいる。両端には木が生い茂っている。敢えて木の方向へ歩いてみると透明な壁にぶつかった。どうやら結界が左右に張られているようだ。道なりに建物に入れという暗示である。


道に繋がっていたのはレンガ造りの建物だった。赤レンガ倉庫見たいな建物と言うべきか。扉を開け中に入ると、高級ホテルのような内装だった。そしてホテルの受付のような人が立っている。机の前面にはやはり液晶パネルがあった。


「このパネルに手をかざしてください」


どうせまた液晶パネルに手をかざすのだろうと思っていたがやはりそうだった。指示に従い、しばらく待機すると「ピロン」と優しい音がなった。


《認証が完了しました》


今回はスターターセットを取り入れるためのスキャンでは無さそうだ。おそらく個人データの確認をしたのだろう。本当にそうかは知らないけど。


「キサラ様王都へようこそお越しくださいました。ではご案内をさせていただきます」


既に名前が反映されている。どういう原理なのかよく分からなかったが考えていても無駄だ。ここは異世界なのだから。


「ありがとうございます」


「私は案内人の『ラウリン』と申します。では私に着いてきてください」


王都に繋がる扉を抜けると、高貴な建物が多く立ち並んでいた。まるで海外の高級住宅街に来ているような気分だ。道幅も日本の道路より3倍は広いが、自動車やバイクなどは存在していないようだった。推測だが特殊能力かなんかを使えば、簡単に移動できるとみた。広大な王都の移動は幾らスターターセットで強化しているとはいえ面倒がすぎる。そのような考えに行き着くのは妥当だろう。


――ラウリンにしばらく着いていくと


「こちらが待機室の入口となっております。中に入り認証していただくと空き部屋が表示されますので好きな部屋をお取りください」


自分の手を使った認証システムは日本にも取り入れるべきだと思う。時短にもなるし正確だ。そこら辺の知識はないけど、ひとまず言いたいことは異世界の技術はすごいということである。


「あと30分ほどで国王の城に転移されると思われます。それまで部屋でお待ちください。では私はこれで失礼します」


転移――どうやら僕の推測は間違っていなかったようだ。


「ありがとうございました」


お礼をして部屋の中に入ると、ベッドだけがポツンと置かれていただけだった。黒を基調とした大理石

の壁と床。客観的に見るとちょっと豪華な病室にしか見えない。前世で見慣れているような光景だ。


ここで1つ前世では出来なかったことがある。病気だった自分に出来なかったこと――そう。ふかふかのベッドにダイビングだ!バネの力を利用し、ベッド目掛けて勢い良く飛びついた。


「ガァッッ!」


ベッドに飛び込んだ瞬間僕は城に転移された。なんて最悪なタイミングなのだろうか。僕は急いで起き上がる。生憎誰も見ていなかったようだ。ラウリンの言っていた30分ほどとはなんだったのだろうか。異世界では30分=30秒なのだろうか。まあそんなことは一旦どうでも良い。


辺りを見回すと全てが煌びやかだった。真上にはギラギラとした大きなシャンデリアが吊るされている。THE・城って感じだ。そして王様らしき人が豪華な椅子に腰掛けていた。その隣には髪が黄色い男性と髪が青色の女性が立ち尽くしていた。よくあるシチュエーションだ。これがテンプレってやつか。


「『ノーブル』王国へようこそ転生者の諸君。私は『クラパルド・ノーブル』。国王である」


クラパルド・ノーブルという国王の言葉には威厳を感じる。只者じゃないオーラを醸し出していた。


「お前たちには生活を保証する。だがタダでやる訳には行かん」


「では何をすればよろしいのでしょうか」

転生者の1人である女性が丁寧な口調で国王に問う。


「お前たちは『ノーブル王国魔剣士育成学校』に入学してもらう」


周りの転生者がザワザワし始めた。


「静粛にしろ。国王様が話してる途中だ」


髪が黄色い男が静かに声を荒らげた。


「入学は強制だ。それに従えないのであれば即刻死刑とする」


「ふざけんな!俺たちには人権もねぇのかよ!」


転生者の1人の見ず知らずの男が怒鳴りつける。その男の言う通り、国王のやっていることは滅茶苦茶だ。


「在籍している間は制服を着てもらう。食事も無料、それに寮もある。生活に必要なものは揃っている。これが対価だ」


理不尽とはいえ生活は保証されているようだ。ここは従って様子を見るとしよう。


「学校とかやってられっかよ。じゃあな」

男は城から出ようと外へ身体を動かし足を運んだ。

――すると


「『サングネート』」


クラパルドは詠唱した。


「グハァッッ!きゅ、急に口から血が……」


男は血を吐いて倒れ込んだ。僕は意地でも入学させたいがために言葉で脅しているだけだとは1ミリも思っていなかった。だが、本当に殺されるのは予想外だ。ほかの転生者も唖然としている。


「私に逆らうとこうなる。理解したかね」

実際に証明して見せたことで国王の言葉は最初よりも重みが出る。さすが国の頂点に立つ人物だ。


「明日の朝、学校に直接転移させる。お前たち転生者に伝えることはここまでだ。全員を元の位置に戻す」


僕は待機部屋に転移された。ここまでの流れでわかったことがある。この世界には魔法が存在するということだ。最初の転移の時点で分かりきっていたことだが、攻撃系の魔法も確認できた。これが異世界の醍醐味と言っても過言では無い。だが、僕は魔法を使う事ができるのだろうか。ともかく考えていても無駄だ。ひとまず寝るとしよう。

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