第4話 傘売り

朝起きると雨が降っていた。


雨の降っている日はあまり外出をしないので商売においては売り上げが下がってしまう。冬場の雪も同様だ。


この世界での雨よけは防水性のある魔物の皮を使ったレインコートが主流で傘などは見かけない。なので傘を売れば目を引くことができるだろう。


朝食をとったらすぐに出発しよう。



「おはようございま~す。朝食お願いします。」


「はいよ。」


「あっ!おかみさんこれからこんなもの売りに行ってみようかと思うんだけどどうかな?」


「あんたこの雨に中商売に行くのかい?店持ちじゃなかっただろ。」


「まあ少しでも売り上げがあればと思っての行動です。」


傘を渡し感想を待つ。販売する傘は和傘だ。ビニール傘よりも高級感があるし普通の傘はこの世界にないものを使用しているからなんとなく忌避感があった。


「いいわねこれ。コートを羽織るより見た目もいいし雨が体に当たって冷える心配もなさそうね。いくらで売るつもりなのかしら?」


「銀貨1枚で売るつもりですよ。」


「ちょっと安すぎるわよ。表は簡単なつくりに見えるけど裏を見ると意外と手が込んでるじゃない、銀貨3枚は取れるわよ。」


「ほんとですか?あ!それはおかみさんにあげますよ。相談料ってやつです。それじゃあ銀貨3枚で売ってみますね。」


「ありがたくいただくよ。頑張ってきな!」


「はい、行ってきます。」


宿から出て宣伝のために傘を差しながら露店まで向かう。


売り場に着くと雨ということもありあんなににぎわっていた場所が嘘のようにスカスカである。まあこの場所は雨よけの屋根もないし仕方がない。


地面はぬかるんで座れないので折り畳みの椅子に座り傘は束ねて椅子の横に括り付けて客を待つ。


しばらく待っているが客が来ない。来ないというよりそもそも人通りが少なすぎて話にならない感じだ。ここの調子が続くなら昼になった宿に帰ろうと思った矢先お客さんが来てくれた。


「雨の中商売ですか少年?あら?先輩に飴をあげてた子じゃん。」


「先輩?リッツさんのことですか。」


「そうそう。それで飴じゃなくて何を売ってるの?」


「これは傘と言って雨よけに使うものです。今僕がさしてるのと同じものですよ。」


1つ手渡してみてもらう。


「へー。軽いし丈夫そうね。それにコートよりも見た目がいいわ。いくらで売ってるの?」


「銀貨3枚です。」


「買ったわ!ギルドのみんなに紹介してくるから期待してていいわよ。私の名前はハイネっていうの覚えておいてね。」


ハイネさんは購入した傘を早速使用して走り去っていった。


しばらくするとコートを羽織った集団がこちらに向けて歩いてきたのでギルドの人たちだろう。


「ここがハイネの言ってた場所ね。傘はまだ売ってるかしら?」


「はい!あと18本だけですけど。」


「それなら大丈夫ね。一つもらえるかしら。はい銀貨3枚ね。それにしてもこういうものなら簡単に考え付きそうなものなんだけど今日初めて知ったわ。」


「コートのほうが雨よけとしての機能は上ですからね。傘はどちらかというと見た目重視ですから。考えついても作らなかっただけじゃないですかね?」


「そうかもしれないわね。でも売ったのはあなたが初めてなんだから後で商品登録しに来たほうがいいわよ。これを見てまねる人が出てくるかもしれないから。」


「いや~でも僕はきまったものを売ってないので別に・・・」


「駄目よ!あなたは商人なんだからその辺の管理はしっかりとしなくちゃ。リスクなくとれる利益は逃すべきではないわよ。これは間違いなく広まるんだから少額では済まないんだから。」


「わかりました。後でギルドに顔を出すようにします。」


「わかったならいいわ。それじゃあギルドで待ってるわ。」


その後はギルドの職員に売ることでしっかりと完売することができた。利益は19本の銀貨57枚。一気に小金持ちになってしまった。


一度宿に戻り不要なものを置いて昼食をとりギルドへ向かう。


「こんにちは。商品の登録に来ました。」


売り場で合ったお姉さんのところへ顔を出し声をかける。


「ちゃんと来たわね。登録の用紙はこっちで記入するからちょっと待ってってね。ほんとなら登録用に1本かしてもらうんだけど私たちが直接持ってるから今回は省くわね。次回登録するときは見本用で一つは持ってきてね。」


椅子に座って待ってると名前を呼ばれたのですぐに向かう。


「用紙の記入は済んだから後はあなたのサインをして終了よ。」


サインをすると用紙に大きな判子を押される。


「登録をした商品をほかの人が使用するときは売り上げの2割が振り込まれるからたまに確認しに来てね。ちなみに登録できる商品にも基準はあるから何でもできるわけじゃないからその辺は覚えておいてね。」


「基準ですか?」


「そう、例えば剣とか鎧とかありふれたものでしょ?なのに登録されたら今商売をしている人たちが不当な利益搾取をされるし、野菜や果物なんかの自然の物を登録するのも禁止されているわ。」


「そうなんですね。それなら今度からは何か販売する前に確認しに来たほうがよさそうですね。」


「これからもいろんなものを売るつもりならそれが一番いいわね。」


「わかりましたありがとうございました。これはじょーほーりょーと言うやつです。」


「これはパンかしら?」


「シュークリームと言って薄い皮の中に甘いクリームが入ってるお菓子です。あまり日持ちしないので今日もしくは明日の間には食べるようにしてくださいね。」


「あのー、一つだけだと周りの目が怖いので職員分は出せないかしら?」


そう言われ周りを見ると一斉にみんなが顔をそらす。あーそういうことね。これはリッツさんには申し訳ないことをしたな。


「何か入れ物のとかってあり・・・」


「こちらにあります。」


いつの間にか横に男性が立っており手にはお盆が握られていた。いつの間に横へ!全く気配がなかったし行動が早すぎるだろ!


リュックから出すふりをしてどんどん召喚していく。


人数分出し終わると男性はホクホク顔で奥へと帰っていった。


「ごめんなさいね催促したみたいで。これから何か渡すときは人数分頼めるかしら。じゃないとあなたの渡すものは前回の飴でみんなに狙われてるのよ。」


「そうみたいですね。今度リッツさんにあったら謝っておきます。」


「そうね。あの日のリッツはかわいそうだったからね。でも現金な話だけどこのプレゼントのおかげでここの職員は絶対あなたの助けになるから何か困ったことがあったら頼りなさいいいわね。」


「了解です。頼らせてもらいます。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る