Day.3-14 旅立ち

 夢叶ゆめかの瞳が次に見た場所は、レイカと繋希けいきの二人と出会ったあの場所だった。


「役目達成よ。おめでとう」

「……ありがとう。でもなんでだろう。嬉しいはずなのに悲しいの。これでまた漫画や絵が描けるのに、向こうでは一人ぼっち。あそこのみんなとはもう描くことはないんだって思うとね、やっぱり寂しいの……」


 近くに落ちていたガラス片に映るその姿はすっかり普通の中学生で、夢叶はこっちが現実でも向こうの世界が現実だったらなと思ってしまっていた。


「夢叶さん。あの世界は未来で在るかもしれない世界よ。あなたの行動次第でそんな未来で生きる事も、その人達とまた出会う事も出来るかもしれないわ」


 しかしまた出会えたとしても、ノノカ先生が夢叶の事や一緒に過ごしたあの三日間を覚えているはずはもちろん無いのである。


「そう…だよね…… また、会えるよね」


 夢叶は辛くてもその事を悟って受け止める。

 自分は夢に向けて進むしかないのだ。そしてあれが最後ではない、別れなんかじゃないと思うとともに、しばらく会えないだけなのだからと自らを納得させた。

 

 もしまた会えたならたとえノノカ先生が覚えていなくても、ただいまと言おう。

 そう心に決めた夢叶はレイカを見た。

 するとレイカの頭上に白銀の扉と美しい木目の入った扉の二つが出現した。


「進藤夢叶さん。あなたは見事役目を達成しました。よって、死神の名の下に選択を与えます。現世に戻って元の人生を歩むか、天国へ逝き安らかに眠るか。お選びください」


 雲間から降り注ぐ陽光のような神々しい光がこの場所を照らし、亡者の魂の行く末を司る死神が凛として問いかけた。


「現世に行くよ。そこで必ず漫画家になってお父さんやお母さん、多くの人を元気にするんだ」


 夢叶は確かに力強く言った。


「夢への道はとても険しく、たとえ何年かかっても叶えられない人もいます。一向に努力が実らずに苦しむこともあるでしょう。それこそ、あの三日間の時のようにはいかないかもしれません。それでもあなたはひたむきに夢に向き合う覚悟がありますか?」

「はい。私には絶対に叶えたい夢がある。みんなに支えてもらった日の記憶もある。だから、私は絶対に夢を、漫画家になる夢を叶える。その覚悟が私にはあります」


 最初に持っていたノートを強く握りしめ、まっすぐとした目でレイカに言い放った。


「分かりました。ではこれよりあなたを元の世界に生還させます」


 するとレイカは夢叶に漆黒の銃口を向けた。

 そして―


「あなたの人生に幸せが訪れることを願います」


 一発の銃声が鳴ると、夢叶の魂が木目の入った扉に消えていった。

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