Day.3-13 役目の終わり。そして別れ
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で夢叶がふと目を覚まして時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。そして自分の体が少しずつ透けていっている事にも気が付いた。
「そっか。そろそろなんだ……」
夢叶はここでの毎日は大変だったけど必死に夢を追えて楽しかったと、最後には叶える事が出来て幸せだったとしみじみ感じながら三日間を振り返った。
それからこの世界、あるかもしれない未来にはこんなにも良い仲間がいるんだとあらためて感じたのだった。
時計の針が一つ進んだ。
「夢叶ちゃん……? 起きたの?」
ノノカ先生が目を覚まして上体を起こすと夢叶を見た。
「あれ……? 具合悪いの? 私が眠いだけかな? どんどん見えなくなっているような……」
日付が変わるまで残り僅か。
夢叶の体の消滅が進み、下半身は既にほとんどが消えていた。
しかしノノカ先生の位置からでは夢叶の下半身は見えず、消え始めている上半身のみがその目に映っていた。
「いえ。なんでもないです。ノノカ先生、最後までありがとうございました。この三日間、私はとても幸せでした」
「なに言ってんのよ。三日間だけじゃなくて、これから先の人生はとても幸せなのよ? だから夢叶ちゃんは進み続けるの。その幸せを、元気を両親や多くの人に届けるためにね」
「はい。ありがとうございます。本当に……ありがとうございました」
「どうしちゃったのよ。まるでこれでお別れみたいに言うじゃないの」
「……そうですよね。これでお別れなんかじゃない……ですよね?」
夢叶のいつもとは違った雰囲気を前にノノカ先生が彼女に近付くと、その変化に気が付いてしまった。
もう夢叶の体は胸から下が消えてしまっていた。
「えっ。どうして? なんで?」
驚くのも無理もない。
すっかり目を覚ましたノノカ先生は気が動転してしまっていた。
「私、そろそろみんなの所に帰らなければいけないみたいです」
「帰るって? でもなんで消えてるの? もしかして本当にこれが最後なの? 嫌よそんなの…嫌……」
ノノカ先生が夢叶を抱きしめた。いや、抱きしめようとした。
しかしその手は夢叶の体を通過して抱き寄せることが出来なかった。
「行かないで……夢叶ちゃん。これから漫画家になるのよ? まだ夢は始まったばかりじゃない……」
「さっきも泣いていたのに、また泣いてくれるんですね。ノノカ先生は本当に優しいです」
そう言う夢叶の目からも次第に涙がこぼれ始める。
「夢叶ちゃんもじゃない……」
時計の針がまた一つ進んだ。
「ノノカ先生。私はしばらくの間帰るだけです。いつかきっと、また会えますから。その時はこんなお別れをした私を、いっぱい……いっぱい叱ってくれますか……?」
ついに顔まで透け始めて声だけになろうとしている夢叶。
ノノカ先生はその姿から決して目を離さずに見てはぼろぼろと泣き続けた。
「当然じゃないの…… こんな事をした夢叶ちゃんを……私を泣かせた夢叶ちゃんを……いっぱいいっぱい…叱ってあげるんだから。アシスタントの仕事だってたくさん……漫画家として一緒に仕事をして……今度は私がたくさん迷惑をかけてあげるんだから…… だから、だからその時は……」
ノノカ先生が涙を拭った時、そこには満足そうで幸せそうな笑顔を見せる夢叶の顔があった。
そしてその唇は
―ありがとう
そう言ったかのように動くと、夢叶はこの場所から去っていった。
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