Day.2-13(終) 最終審判

 由里子が病室へ到着すると既に両親が到着しており、サチのベッドの横で立っていた。

 母は由里子にあんなLINEを送っていたとはいえ、来てくれて良かったと言葉を漏らした。

 サチの命を示す心電計の音はかなり静かになっていて、今はどうにか生きているという状態だった。


「おばあちゃん。遅くなってごめんね。私はここにいるよ」


 由里子がサチの手を握ると、 


「…ちゃん……」

「えっ」


 サチの唇が僅かに動いた。

 そしてうっすらと目が開かれるとその瞳に由里子を映した。


「おばあちゃん!」

「ゆ…りこ…ちゃん…… よく…がんばった……ね。おばあちゃんは……しあわせ…よ…」

「おばあちゃん! 私はおばあちゃんに―……」


 するとサチは幸せそうな笑みを浮かべて由里子と家族を一度だけ見た。

 それを最期にサチは皆に見守られながら静かに息を引き取った。

 その様子はまるで、由里子や皆がここに来るまでずっと待っていたかのようだった。


***


「サチさん」

「君達かい」


 狭間の世界に戻ったサチは、二人と最初に会った場所に座っていた。

 レイカと繋希けいきがその前に立つと、


「ありがとうね。最期に由里子ちゃんを守る事が出来たよ。これでもう……私がいなくても心配ないよ」


 サチは二人を順番に見ると満足そうに微笑んだ。

 それからその目には涙が溜まり、静かに流れ落ちた。


「……そろそろ時間なんだね。大丈夫。もう思い遺す事は何も無いよ」

「どうか安らかに」

「うん。ありがとう。本当にありがとう」


 レイカが銃を向けると、サチの頭上には白銀の扉が現れた。

 役目を達成した者が現世に生還する生命力が無い場合に向かう、天国への扉である。

 その扉が開くと、あたたかく優しい光がサチを包んだ。

 そしてレイカが引き金を引くと、サチの魂は天国へと旅立っていった。

 

****


「私は幸せだった。家族に恵まれ、孫にも恵まれて」


 サチの魂は天国までの道中、由里子の未来を見た。


「由里子ちゃん。由里子ちゃんの未来は明るいよ……」

 

 扉が閉まるとレイカは静かに手を合わせ、その隣で繋希も手を合わせた。

 そしてあの日の鐘の音がまるで鎮魂の音のように周囲に響いたのだった。


 繋希の魂の残量、残り五日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る