Day.3 夢叶うその時まで
Day.3-1 夢を追う少女
「サチさんは幸せだったのかなぁ……」
「昨日の話? まだ言ってんの?」
翌日、
「だってさ、役目を達成したんだからきっと生きたかったと思うし。天国が悪いとは言わないけど、どうなんだろうなって」
「そうね。でもサチさんは九十歳だったじゃない? きっと役目の途中で自分はもう生還の余地は無いって知っちゃったから素直に受け入れたんじゃないかしらね」
「そんなことあるのか?」
「ええ。亡者の魂が役目として向かう場所が現世なら、その人が本当にいた世界の現在過去未来のどれかの時間になるの。だからそこで起きることとか、ましてや入院中だった場合は途中で生還の可能性がゼロになる事なんてたまにあるわよ。でも、サチさんは病気ではなかったし、そのまま天寿を全うされたんだからきっとその人生は幸せだったと思うわ」
そういうものなのかなといまいち納得出来ていない繋希を他所に、レイカは次の人を発見した。
繋希はレイカが指差す方を見ると、倒壊した建築物の前で座って何かを書いている少女を見つけた。
中学生くらいに見える彼女の手足は枝のように細く、頬もこけて血色が良いとはとても言えなかった。
「行くわよ」
二人は彼女の前に到着する。
「あなた達は誰?」
「私は死神のレイカ。こいつは彷徨える羊よ」
「羊なの?」
「違う」
繋希は彼女が膝の上で書いているものを見ると
「漫画? 上手いな」
そこには漫画家さながらの漫画が描いてあった。
「ありがとう。えっと、ここはどこなの? 私さっきまで漫画を描いてたんだけど、気が付いたらここにいたの。実は新人賞の〆切前で、将来漫画家になるためにたくさん描かなきゃいけないから早く戻らなきゃなの」
困り顔の彼女は夢を追う女学生のようだ。
「
そしてレイカは彼女、夢叶がここに来た理由を伝えると共に、役目を達成することで生還の可能性がある事を教えた。
「そっか…… 私倒れちゃったんだね」
話によると、夢叶は真冬の北海道で暖をとれずにひたすら漫画を描いており、そのまま凍えて倒れていたところを家族に発見され病院に運ばれたという。
異常なまでに痩せていること、真冬なのに暖を取らなかったことを繋希が問うと、夢叶は家が貧乏で家族みんなでその日を生きることに精一杯だったのだと言った。
「ごめんなさい。こいつが話しにくい事を聞いて」
「ううん。そんなことないよ。私はただ漫画が描ければ幸せだから気にしてないよ。でもまさかこんな事になるなんて…… それで、その役目ってのは何?」
夢叶は細い首をかしげる。
「ここであなたみたいに生死の境にいる人や既に死んでしまった人の行先を天国、地獄、現世のどれかに決めるものよ。達成して生きる力が残っていれば現世に戻れるし、残っていなければ天国に行けるわ。でも失敗すれば地獄行きだけどね」
「まるで漫画の中の世界みたいだね」
こんな状況でも楽しそうに笑う夢叶は、自分が今置かれている状況をまだ完全に理解出来ていないようだ。
「漫画じゃないわ。もし役目をやらなければそのまま地獄行き。失敗しても地獄。また漫画を描きたいなら役目を達成して現世に生還するしかないの。これがあなたの今の状況よ。それで、どうする? 役目をやるの? やらないの?」
「達成したらまた漫画が描けるんだもんね?」
「もちろん。好きなだけ描けるわ。さっきあなたが言ってた新人賞の〆切にも間に合うかもしれないわ」
「ならやるよ。それで早く戻って漫画が描きたい」
夢叶は終始不思議なまでに漫画を描けるかどうかを気にしつつも、それが出来ると分かった途端に即決した。
「分かったわ。それじゃ―」
すると、レイカの頭上に木目の入った扉が現れた。
「進藤夢叶さん。これからあなたを将来生きるかもしれない未来の世界へ送ります。あなたの役目はそこで夢を諦めずに目指し続け、結果を出す事。期限は三日間。その間に達成出来る事を願うわ」
まもなくして夢叶は扉の中に吸い込まれていった。
彼女がいなくなった後、レイカはそこに残された彼女のノートを拾ってパラパラとめくった。
「今度は未来か」
「ええ。夢を目指すということは、それなりの覚悟が必要だし色々な困難も待ち受けるわ。それをあの子は乗り越えられるかしらね」
そのノートにはぎっしりと漫画やイラストが描かれていたが、あるページを境に紙ごと破り取られ、描いては消してを何度も繰り返した跡があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます