Day.2-3 役目開始
サチは気が付くと自分の家にいた。
今自分が立っている場所はどうやらリビングである事を理解すると、ふと目を横にやる。
そこには亡くなった夫の仏壇があった。
「そういえば、今日はまだお線香をあげてなかったね」
仏壇の前に座ると静かに手を合わせて線香をあげようとする。
しかしスッと手がすり抜けてしまった。
「おじいさん。もしかして、あなたもこうして私の事を見に来てくれていたのかい?」
その問は仏壇へと消えていく。
すると別の部屋から物音が聞こえ、まもなくして人の声が響いた。
「お母さん! どうしたの! ねぇ!」
サチはその声の方へ向かうと、自分の体が床に寝転がっていた。
そして娘に何度も揺すられても目を覚まさない様子を目のあたりにしたのだ。
少しして救急車が到着すると、その体は担架で運ばれ車内で酸素マスクを付けられた。
サチも救急車へ乗るも、そんな様子の自分をただ見ていることしか出来なかった。
病院に到着すると精密検査の後、病室のベッドへ寝かされた。
すぐ隣の机には心電計が置かれ、一定のリズム音と共に波形が表示される。
「先生、お母さんは……」
「命に別状はありません。ただ、ご高齢なので目を覚まされたとしても、覚悟は必要かもしれません」
「そんな……」
ベッドの横で泣き崩れる娘に医師は静かに一礼をして病室を去った。
まもなくしてサチの孫、由里子が病室に到着しサチの手を取って涙を流した。
本当はすぐに目を覚まして二人を安心させてあげたい。肩を抱いてあげたい。サチはそう思うが、今は幽霊なのでやはり隣に立っている事しか出来なかった。
触れる事も出来ず、声を届ける事も出来ないのだから。
早く目を覚まさなければと思いつつも何も出来ない。
そんな自分に歯がゆさや情けなさを感じてサチもまた涙を流した。
病院の面会可能時間が過ぎ、帰路につく2人を追うサチ。
「お母さん。おばあちゃんは……」
「きっと大丈夫よ。信じて待ちましょう」
その時だった。
由里子のスマホが鳴った。そしてその相手は会社の上司だった。
「
「内田課長。出る時に報告させて頂きましたが、祖母が倒れまして、今日は戻れそうにありません。それに今日はそのまま直帰で良いとおっしゃっていましたので、このまま帰宅致します」
「そんな事、私言ってないわよ。言ったとしてもその時はその時。今は今。早く戻ってきなさい。いつまでもそんなことをしていないで仕事をしなさい」
由里子は入社して数ヶ月。上司の内田課長からの要求を断れるほどの勇気は無い。
たとえそれが間違っていても、理不尽に意見を変えられてもである。
「……分かりました。すぐに戻ります」
由里子は自分の感情を抑えて会社へ戻る。
サチはそんな由里子へついて行った。
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