Day.1-3 2人の役目

「それで、具体的に俺はレイカの何を手伝えばいいんだ?」


「別に難しく考えなくていいわ。繋希けいき君は然るべき時に私を正すの。簡単に言うと、私が死神の役目に私情を挟みそうになったら止めてほしい。私だって元は現世に生きた人間よ? 時には感情的になるかもしれないし、そうなったら正しく執行が出来なくなってしまうわ。それは死神の役目を負った私自身の役目が失敗したも同然。役目の結果を最重要視している者としてはあるまじき行為よ」


 そう語るレイカはさっきの軽い感じで話している様子とは打って変わり、まさに真剣そのものだった。


「繋希君はいざという時のストッパーよ。それが役目。分かった?」


 繋希はとりあえず頷くと、1つの疑問を投げかける。


「その役目ってのは、聞く限りこの世界の理に通じるものに聞こえるけど、それはレイカが勝手に決めていいものなのか?」

「そんなわけないじゃない。役目ってのはね、ここに来た時にはもう決められていて、私達は彼らにそれを教えているだけ。だからあなたのも私が決めたものじゃないわ」


 役目=私情で左右されるものと思えたそれは当たり前のように否定される。

 繋希はそれを聞いてレイカは自分の役目に私情を挟んだりしないんだろうなと感じると共に、それなら俺はいらないんじゃないか?という気持ちになる。


「あ、そうそう。言い忘れてたわ。生死の境にはそんなに長くいられないわよ。その人の魂の残量によって違うんだけど、せいぜい3日間前後くらいが平均ね。それまでの間に役目を達成しないと否応無しに地獄行きになるから」

「それを先に言ってくれよ。ちなみに俺の魂の残量?はどれくらいなんだ?」

「7日間よ。現世で何も悪い事をせず、むしろ徳を積んでいると猶予が長くなるの。それにしても大したものね。ここまで長い猶予期間はあなたで2人目よ。ちなみに1人目は私。私も当初は7日間だったんだけど、死神になった途端にその制約が無くなったわ。そりゃ1000人もの魂を裁くのに7日間しかないのは鬼畜でしょ。死神なのに鬼のような所業よ。まさに無理ゲーとはこのことね」


 死神なのに鬼という冗談はさておき、確かにレイカの役目に対してそんな日数制限があるのは地獄行き確定のようなものだよな。

 それにしても7日間か……

 その間にレイカが自分の役目に私情を挟んでくれないと俺は役目失敗で地獄行き確定か。それは困るな。


 繋希がそんな事を考えているのがレイカに気付かれたのか、


「大丈夫よ。最初から道が確定されている役目は振られないようになってるから。それに繋希君には長めの7日間の猶予がある。人によっては1日とかの場合もあるのよ? だから安心なさい」


 励ましているようだが、繋希は不安を拭えないでいる。

 この世界では長いと言われる7日間は、役目に対するレイカの死神としての向き合い方を知った繋希にとっては非常に短い時間だと思った。


 繋希はなんとしても現世へ生還し、あの子を探さなければならない。

 レイカと一緒にいて達成出来るのだろうか。

 でも、自分の役目がそうなってしまっている以上はレイカの存在は必須。


 いくら考えたところでどうにもならない状況に対して途方に暮れた顔をする繋希にレイカは


「とりあえず、焦っても結果は出ないし今は私に繋希君の運命を預けてみない? 私もロボットじゃないからどこかで心が揺らぐかもよ?」


 と手を伸ばして握手を求めた。


 ここで何もしなければどのみち7日後には地獄行き。

 なら僅かでも希望がある方に賭けるしかない。

 繋希はその手を握った。


「分かった。何もやらないよりはレイカと一緒にいた方が希望はある。よろしく頼むよ」

「はい。じゃ今から繋希君は私の助手よ。手となり足となり、死ぬまで働いてもらうわ。あ、今は死にかけだったわね」


 何度目かの冗談をスルーした繋希はレイカから手を離そうとすると、レイカは突然強く握った。


「……来たわね」

「え、何が?」


 レイカの目が急に険しくなった。


「繋希君。これから死神とはなんなのか。執行とは何なのか。その目に見せてあげるわ」


 その言葉の直後、繋希が返事をする間も無くその場から2人の姿が消えた。

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