Day.1-2 謎の少女
その少女の瞳はこの荒れた場所に不釣り合いな程に美しく、まるで黒曜石のようだった。
なのに不敵な笑みを浮かべるその様子に
「なぜ俺の名前を知ってるの?って顔をしてるわね。私は何でも知ってるわよ。この狭間の世界の理。君、繋希君は高校生で、トラック事故に巻き込まれて今は病室のベッドの上で意識不明の重体だって事。趣味趣向。行方不明の女の子を探していること。もちろん、この世界から出る方法もね」
繋希のすぐ前まで歩き、そこで立ち止まった彼女は一瞬の間の後に問う。
「繋希君はここから出て現世で生きたい? それとも、死んで天国に行きたい?」
繋希は自分の顔をその瞳に捉えたまま話す彼女から目線を反らす。
しかしそれでも見続けてくるので、ため息の後に答えた。
「もちろん生きたいさ。俺にはまだ死にたくない理由がある」
「そうだよね。その女の子を見つけたいんだもんね」
冗談っぽく言っているけれど、確かにそれは繋希の願いなのでこくりと一度頷く。
「なら、私を手伝ってよ。そうすれば現世に戻れるわよ」
「なぜそうなる?」
「この狭間の世界から出るためには、自分に課された役目を達成する必要があるの。繋希君の役目は、私を手伝うことよ。分かった?」
「やけに簡単そうだな。もしかしてまた冗談か?」
「もう一発撃とうか?」
彼女は変わらない表情のまま繋希の顔を覗き込むように見上げ、懐から銃をチラつかせた。
「分かった。手伝うよ。それでいいな?」
と、痛いのは嫌なので半ば強引に承諾させられてしまった。
「よろしい。ならこれから仲良くやっていく繋希君に、お近づきの印に君の願いを3つ叶えてあげるわ」
どこの魔人だと言いたい気持ちを抑え、それならと繋希は願いを言う。
「まずお前の正体が知りたい。あとその、目だけが笑ってない顔をどうにかしてくれ。瞳孔も開いてるし、頬に切り傷か?それも怖い」
「2つ分の願いってことで。それじゃこの顔でどうかな?」
彼女は手を顔の下、顎から額の方へすっと上げると、さっきとは全く異なった凛々しくも気品漂う顔に変わった。
腰まである長い黒髪も相まってまるでお金持ちの令嬢のようだ。
「どういう仕組みかは知らんが、それで頼む。頬の傷は……まぁいいか」
「これは昔付けられてなぜか消えないのよ。だから我慢してね。次は私の正体ね。まず私の名前はレイカ。霊を狩ると書いてレイカよ。覚えやすいでしょ?」
「いや怖いだけだよ」
さらに聞きたい事はあるが、追加で質問をしてそれが3つ目の願いってことにされないようにただ黙って次の言葉を待った。
「安心なさい。私に関する質問なら3つ目の願いだなんて意地悪を言わないから」
「エスパーか?」
「君の事なら何でも分かるの。それで?」
願い事のストックが減らないならと、繋希は質問をする。
「なぜ銃を持ってる? さっき言ってた役目ってやつに使うのか? まさか俺を撃つ為だけの物なわけないだろう? 一緒に行動するなら知っておきたい」
「それもそうね。そう。この銃は私の役目で使う物よ。ちなみに私の役目は、この狭間の世界に来た亡者の魂を1000個を裁き、天国、地獄、現世のどれかに送る事よ。その役割を持った者をここでは死神と呼ぶわ。だから私の正体は死神。役割を達成した者を天国もしくは現世に、達成出来なかった者を地獄へ送る。神話なんかに出てくるあの死神よ」
こんな女の子が死神とはね。いまいち信じられないな。
それならばと、繋希は自分が知っている死神ならではの質問をしてみることにした。
「大きい鎌は持ってないのか?」
「あなたね、ゲームとかアニメの観過ぎよ? そんなのは人が作り出したただの幻想よ?」
鼻で笑われ、まるで古臭いと言わんばかりの目を向けられる。
「本物の死神はそんな大きい物なんて持たないの。歩いてると邪魔だし、目立つし、いかにも死へ誘う悪鬼みたいで避けられるし。いざ使おうとしても刃の構造的に突き刺すか、相手の体の前まで刃を出して自分側に引かなきゃ切れないしで不便なのよ」
「確かに。そんなのが近くに迫ってきたら逃げ出したくなるな。効率や瞬発性も悪いし」
「でしょ? だから最近の死神は自分好みのデザインとか好きな大きさの物を得物にするの。なんならアクセサリーにしか見えないような物だってあるわよ」
「なるほど。それでレイカの好みに合った物がその拳銃ってことか」
「そう。私の道具はこの漆黒の銃。行先が決まった魂に1発撃ち込めばそこへ送る事が出来るの。もしくはこの銀の弾丸で撃つと死神権限でその魂を強制執行し、持ち主の選んだ世界へ送る事も可能。まぁでも、これは1発しかないから余程の事が無い限りは撃たないわよ」
ちらっと見せてきたその弾丸は拳銃本体とは対照的に光を反射し、強制執行という物々しい行為に相応しくない程に透き通った白銀色をしていた。
「つまり、死神のレイカはここに来た魂を役目の結果次第で行くべき所に導いてると?」
「そう。飲み込みが早くて助かるわ」
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