第16話

「ハッピーバースデー、京香」

「え?」

「もうすぐ誕生日でしょ」

「なんで……」

「知ってるかって? 初めて会った日を思い出してみて」

 私が真紘さんに初めて会ったのはシューズショップで。

「あっ」

 そうだ、連絡先を記入するときにアンケートも一緒に書いたっけ。誕生月にはクーポンが貰えるって、誕生日も記入したな。


「それで今日のメニューは豪華なんですか?」

「どうぞ召し上がれ」

「いただきます」

 お刺身やオードブル、それに肉じゃがやきんぴらごぼう、茶碗蒸しまである。

「美味しいです」

「えっと、オードブルの方奮発したのよ、肉じゃがばっかり食べないでこっちも食べてね」

「真紘さんの手料理の方が美味しいんだもん」

「地味でしょ?」

「和食、好きですよ。それに私のために作ってくれたんですよね?」

 どんなに豪華なディナーよりも温かい手料理の方が美味しいに決まっている。

「え、ま、まぁ」

 ほっぺが赤くなってる真紘さん、貴重だな。


「そういえば、来週はデートなんでしょ?」

「えっ」

「誕生日当日だもんね、どこ行くの?」

「お洒落してこいって言ってたからドレスコードのあるお店かも」

「そっか、やるねぇ彼氏くん。プロポーズされたりしてね」

「どうだろう? そんな素ぶりないけど」

 もしかしたら、という気持ちもないわけではない。


「ごめんなさい」

 真紘さんの瞳に、悲しい光を感じて後ろめたくなる。

「謝らなくていいわよ、楽しんでおいで。京香が幸せになるなら、私も嬉しいんだから」

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