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第15話

「なぁ、聞いてる?」

「え、なに?」

「だから、来月の京香の誕生日にさぁ、豪華なディナーに招待するよ」

「あ、ありがとう。嬉しい」

 そっか、誕生日、覚えててくれたんだ。

「お洒落してこいよ」

「うん、わかった」

 喧嘩したわけじゃない、順調に交際を続けている、いずれは結婚も考えている。そんな相手に私は罪悪感を抱いている。


「ねぇ秀吾」

「ん?」

「前に言ってたよね、女相手なら浮気してもいいみたいなこと」

「あぁ? 冗談に決まってるじゃん、そんなの。小説や動画なんかのフィクションはともかく、現実で同性愛に走るって、異性に相手にされないやつの逃げだろ」

「あぁ、うん、そうだね」

 泣きたくなった、腹が立った。

 秀吾にではなく、自分自身に。



 あの夜以降、忙しさを理由に真紘さんに会えていない。あの時はあんなに強引に会いに行ったというのに。今は会う勇気が出ないというのが本音だった。

 真紘さんに惹かれている自分と、秀吾に対する罪悪感。

 私は最低な人間かもしれない、いや最低だな。


 お店の前を通った時、新店舗のお知らせが貼ってあった。チラシも用意されていたので一枚貰って帰宅した。

 玄関にあるパンプスが目に入る、購入した日、お出掛けした日、ご飯を食べた日、添い寝した日、いろんな場面が蘇る。

 あの時、真紘さんはどんな気持ちで私を抱いたのか。

 今、どんな気持ちでいるのか。

 私は自分のことしか考えていなかった、大切な人を傷つけていたかもしれないのに。

 勇気を出せるだろうか。



 大勢のお客さんに囲まれていた。

 良かった、笑っている。

 小さな花束だけを店員さんに預け、お店を後にした。


「うさちゃーん」

 大きな声が聞こえて振り向いた。

「ちょ、何やってるんですか」

「はぁはぁ、やっと追いついた」

「パンプスで走らないでくださいよ」

「だって、うさちゃん歩くの速いから」

「だってって、オーナーが出てきちゃダメでしょうが」

「会いに来てくれたんじゃないの?」

「そうですけど、私なんかより大事なお客さんがーー」

「うさちゃんより大事な人なんていないよ」

 真顔でそんなこと言うなんて。

「ごめん、困らせるつもりじゃないから安心して。友達としてで充分だから」

 真紘さんの柔らかな笑顔はずっと変わっていない。


「話をしたくて」

「うんいいよ、歩こうか」

「本当に戻らなくてもいいんですか?」

「大丈夫よ」

 近くにあった公園のベンチに座った。

「私、真紘さんのこと好きです。でもやっぱりよくわからなくて」

「うん、そうだよね。それでいいんだよ、京香は幸せになれるんだから、わざわざこっちの世界へ来て辛い思いする必要なんてないんだよ。でも良かった、京香に嫌われてなくて。うん、友達に戻ろう、それがいい」

「ごめんなさい」

「お店も無事に開店したし、また遊ぼうね、今まで通り友達として」

「はい」

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