第8話

 次のお休みの日、その週末は秀吾とのデートの予定もなかったので、一人で買い物に出た。

 久しぶりにスカートを履いて買ったばかりの8cmのヒールを履く。

 結婚式用の服を見て回ったがなかなか気に入ったものはなく、ただどれも煌びやかで目の保養にはなった。まだ日にちもあるし、自分に合ったものをゆっくり探していこう。

 帰宅後お風呂に入ったら踵がヒリヒリした。

「あれ」

 気をつけていたはずなのに、靴擦れを起こしていたみたいだ。大したことはないのでカットバンを貼っておく。


 ベッドに入っていつものようにネット小説を読み始めるが、今日はなぜか集中出来ない。ふと、早乙女さんの顔が思い浮かんで名刺を手に取った。

 いきなり電話をかけるのは憚られるので、番号でショートメールを送ってみる。今日、購入したパンプスを履いてみたら靴擦れが出来てしまったこと、でも足の痛みや疲労感はなかったこと、とても気に入っていることを。

 既読が付いたと思ったら、すぐに返事が来た。

 最初は靴や足の話だったけど、それ以外の話題でも気さくに応じてくれて嬉しくなってつい。

「あ、もうこんな時間」

 思わず時間を忘れて返信していた、迷惑じゃなかったかな。

 反省して、その日以降は挨拶を短めに交わす程度とした。それだけでも、私にとっては日常の癒しとなっていた。


 例のパンプスが入荷したとの連絡を貰ったのはそれから数日後のことだった。早速、会社帰りに受け取りに行く。会うのは二度目なのに、もう随分親しくなっているーーと、私は思っているのだがーー

 晴れやかな笑顔で迎えられたから、あながち間違いではないと思う。

「その後、靴擦れはどう?」

「あれからは大丈夫です。慣れるために通勤にも使ってみてるんです」

 落ち着いたデザインなのでビジネスシーンでも違和感なく履けるのは、ポイントが高い。

「それはいいわね、こちらも初めて履くときは擦れるかもしれないわね」

「そうですね、カットバン持ち歩こうかな」

「それもいいけど……もしよかったら」

 その後、思案顔で黙ってしまった早乙女さん。

「なんですか?」

「このピンヒールを履く時に私もご一緒出来たらいいなって」

 え、それって。

「一緒にお出掛けするとか、そういう感じで?」

「えっと、気がすすまないならいいの、はっきり断ってね。あのね、シューズの中で足が滑ることで擦れると思うの、だから柔らかいインソールを試すのもアリかなと思うんだけど、歩いているところを実際に見てみたいというのもあるし、まぁ一緒に出掛けてみたい気持ちも……あるにはあるし?」

 早口で一気に話すのに最後は尻すぼみになって、なんだか可愛らしいな。

「もちろん、是非お願いします」

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