第7話
「これ、買います」
「え、即決で良いんですか? 他のもありますよ」
「いえ、とてもしっくりくるんです。だから……」
「そうね、第一印象を大切にするのも良いですね。ではお包みしますね」
「あ……」
しまった、やっぱり他のパンプスも履いてみれば良かったかも。このまま会計が終わればもう帰るだけで、そうしたらもうこのお店に用はなくなるのか。
そんな考えが浮かんでしまう程、この短い時間で私はここのお店とこの店員さんが気に入ってしまったのだった。
「どうかされました?」
「あのーー」
私は、彼女の胸の名札を見る。
「ーー早乙女さんの履いているのって、あそこに飾ってあるやつですよね?」
「ええ、イチオシなのでウィンドーにね」
「えっと、ヒールの高さは?」
「これは10cmですね」
「2cmの差ならいけるかな」
私の呟きを聞いて早乙女さんは眉を下げた。
「10cmになると、慣れてないと辛いかも」
「そういうものなんですか?」
素敵なのになぁ。
「ピンヒールだから痛みが出るかもしれないです」
「そっかぁ、なら8cmので慣らしてから履きます。なので2足ください」
「えっ」
私にとっては冒険だけど、清々しくもある。なんだか大人になった気分だ。
こんな素敵なパンプスが似合う女になってやろうと思う。
「お会計、お願いします」
「あ、はい」
「お客様申し訳ありません、ピンヒールの方、サイズの在庫がないようで、入荷までお待ちいただけますか」
「はい、大丈夫です」
「では郵送させていただきますのでこちらにご記入お願いします」
「あの、連絡いただけたら取りにきますよ?」
どうせ通り道だし、わざわざ送ってもらわなくても。それに、また来店する理由にもなるし。私にとってはその方が良い。
「ありがとうございます、それでしたら連絡先をお願いします」
「はい」
「どうもありがとうございました」
会計を済ませ商品を受け取り、お見送りをされる。
「何かありましたらなんなりと、こちらに私の連絡先ありますので」
最後に一枚の名刺をいただく。
「あ、えっ」
オーナーさんだったの?
若いからーー私より少し歳上だと思うーー店員さんだとばかり思っていたら、このお店のオーナーの早乙女
「この手書きの番号は個人のだから、いつでも大丈夫ですので」
少し声を抑えて、そう教えてくれた。
いいんだろうか、私なんかに教えちゃって……と思って顔を見れば、営業スマイルのようには見えなくて、はにかんだ様子が少し幼くみえた。
「あ、はい。よろしくお願いします」
単純な私は、帰り道にスキップしそうな程浮かれた。してないけど……
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