本校、最後の大イベント【クリスマスだ!学園祭】
真っ暗闇の体育館にザワザワした空気だけが漂っていた。
「さあ、行こうか、アオ…」
何だか初対面だと思えない雰囲気の彼ーーー。
彼の名前は神谷ユウジーーー。
何をしている人なのか不明のまま私はユウジさんの言葉を信じて
体育館までやって来た。
そして暗闇の中、私は差し伸ばすユウジさんの手を取ったーーー。
これは何かのマジックなんだろうか?
電気が点いた時、100羽のハトが出てきたりして…
彼はマジシャン?
それなら、ちょっとだけ退屈しないかも…
しかし、この暗闇の中、ユウジさんは何の障害物にも当たらず
歩いていけるよな…。
ふと見上げる視線にユウジさんの瞳が映る。
「え…?」
光ってる?
「このコンタクト、光に当てると反射してブルーに見えるけど、
暗闇の中じゃライトの役割を持ってるんだ」
ああ、だからユウジさんの目には周りの情況が見えているんだ。
「それに、影と光の角度によってはサングラスの役割もあるから
一石三鳥、いいでしょ?」
「はっはっ…高そうですね…」
「……そ、オーダーメイドだから1セット20万円くらい」
「へ?」うそ…コンタクトで高…
「8年前くらいにさ…右目のコンタクト、壊れちゃってさ
1回、作り直しちゃってさ…あん時は悲惨だったっけな…」
え? 8年前…? 私が小4の頃だ……
あれ? ……私がこの町に来た時期だ……
「アオの席はここね」
そう言って、ユウジさんはどこかへ行ってしまった。
暗闇の中でも聴覚はしっかりしている。
ザワザワした空気の中でも遠ざかるユウジさんの足音が
耳の奥で残っていた。
私はユウジさんに誘導され連れて来られた席に座る。
ユウジが急いで舞台へと上がると、舞台上ではメンバーの皆と
春斗がスタンバイしていた。
「ごめん、遅れた」
「ったく、おっせーよ、ユウジ」
「どこ行ってたんだよ」
「―—ん、ちょっとね。迷子の女の子、連れてきた」
「え?」
春斗は舞台袖を少し開け、客席に軽くペンライトを当てる。
そして、中央の真ん中の席に座る青葉を見つけた。
「ユウジさん…来てくれてありがとう…」
春斗がユウジに駆け寄ってきた。
「それに…アオも…」
「―—ん? アオ? あの迷子の子、ハルの知り合いだったのか…」
「前に話したことがあったでしょ」
「ああ…俺と似てるって子?」
「うん…」
「そうか…全然、似てねーと思うけど…。だってよ。あいつ…
俺のこと漫才師とか落語家とか言うし…」
「え…、ぷっ(笑)」
思わず、璃音が吹き出す。
「へぇ…ユウにぃを知らない子がいたんだね」
「俺達もまだまだだってことか…」
「ユーチューブで配信してても、PV数増やしても
見てない子は見てないからね」
「あ、ハル、この瞬間もユーチューブ配信ヨロシク頼むわ」
「了解ッス」
「メジャーデビューしたら、今みたいに自由な事できなく
なるかもしんねーしな」
ドラム担当、亨。ギター担当、要。ベース担当、葎。キーボード担当、璃音。
そしてボーカル担当、ユウジ。
それぞれが自分の定位置に着く。
バンド名は【Be happy】。
元々、亨と要、ユウジの3人が始めたバンドだったがユウジが高校1の時、
璃音と葎に楽器を教える。璃音は小1~小5までピアノをしていたから
キーボードもすぐに使いこなす。葎は小学校の時、サッカーをしてて
一時期サッカー選手を目指していた時もあったが、間近で
音楽を聴いているうちに自分も仲間に入りたいと志願し、『じゃ、葎はベースを
やれ』と、選ぶ権利もなくユウジに指導されながらベースを覚える。
5人で活動を始めたのはユウジが中3の時からだった。当時、葎は小学校6年で
璃音が小学校5年生だった。
身長も高く、顔立ちも整った美男・美女の葎と璃音は外見だけなら中高生にも
見える程だった。
【Be happy】が結成されて8年の下積み時代を経て、メジャーデビューが決定。
4月からはこの町を離れ東京を拠点に活動する。
主にライブ活動中心とCD発売。目指すは大きいコンサートホールでライブを
行うのが彼らの夢でもある。
「よし、いっちょ派手にエンジン全開といきますか!!」
「おっしゃ!」
メンバー達の気合いは十分入っている。
「ハル…お前の出番も用意しとくから、いつでもスタンバイしとけよ」
(ユウジさん……)
「はい……」
「ゆうにぃはアドリブが好きだからね。ハルト、いつ振られるかわかんないよ」
「それは…今までのライブ見てればなんとなく…わかるかも…」
(でも…即興が好きな人物、もう一人いるんだけどな…)
「じゃ、準備はオッケイですか?」
春斗は最終確認のためにメンバー達に聞く。
「オッケイ」
「了解」
「イエッサー」
「バッチシだね」
璃音のウィンクが春斗を直視し、赤く照れ火照る頬を拭い
春斗がユウジに視線を向ける。
ユウジはゆっくりと頷き、春斗に合図を送る。
ユウジから『GO』サインを受け取った春斗はゆっくりとマイクに
唇を近づけていく――――。
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