アオとハル
『この部屋、アオちゃんが好きに使っていいから』
と、カッちゃんに案内された二階にある部屋にはベットと勉強机があった。
ウソ…一人部屋。
『はい、ありがとうございます』
それにしても、準備が良すぎる。
『お母さんは?』
『美和子には下の部屋を使ってもらうよ』
お母さんと別々の部屋……。
『大丈夫? やっぱり、美和子と同じ部屋が良かった?』
『いえ…。大丈夫です』
『ま、一応、二階は子供達の部屋とトイレくらいしかないから、
自由に使ってもらっていいから』
『はい…』
ということは、お母さんの部屋は1階か……
二階にある子供部屋は全て同じ間取りで6畳の部屋が4部屋あり、
子供達はそれぞれ一人部屋だった。その中間地点にトイレがあった。
『今日は疲れたでしょ。ゆっくり、休んでね』
『はい』
そう言うと、カッちゃんは部屋を出て、階段を下りて行った。
『―—ん? ベランダ?』
私はベランダに繋がる出窓から外に出る。
『え、うっそー』
目の前には漆黒の夜空に広がる無数の光が満天に広がっていた。
東京じゃ絶対に見れない夜景だ。
『きれな星…』
『星がそんなにめずらしいか』
『え?』
不意に視線を隣に向けると春斗の横顔が映った。それと同時に子供部屋に続く
ベランダが4部屋繋がっている事に気づく。
隣の部屋は春斗の部屋だったーーー。
『うん…、東京じゃ、こんな星、見れないもん』
不思議と普通に、自然に言葉が出てきた。
『お前、普通にしゃべれるじゃん(笑)』
『え?』
『そっちの方がいいよ』
『え…』
その笑顔は無邪気な少年の笑みだった。
『お前さ、明後日から学校だけど大丈夫?』
『え?』
『ランドセルとか、教科書とか…?』
『あ、どうしよう……』
『ったく、しゃーねーな。手伝ってやるか… 』
『え?』
翌日、私と春斗はおばちゃんン
制服や体操服、教科書など残りの荷物を手押し車に乗せて
運んだ。
おばあちゃんン
『こんだけのに持つ、何回も往復するのは嫌じゃろう』
そう言って、おばあちゃんは野菜の収穫用に使う為の
手押し車を用意してくれた。
『これで、運んだらええ。ついでにこれも持っていけ』
と、たっぷりと野菜を乗せた。
坂道はないけど、子供二人の力ではかなりの体力がいる。
たった15分の距離が長く感じる。
『なあ、電信柱1本ずつで前後交代しねー?』
『うん、いいよ。』
そして、私と春斗は電信柱という分岐点を作り、前後交代しながら前進していく。
『春斗君、今日はありがとう』
『ハルでいいよ、アオ』
『え?』
『昨日からなんて呼べばいいのか考えてて…。親同士の再婚とはいえ、
『清野さん』っていうのも自分の苗字言っているみたいだし、
『青葉ちゃん』って言うのもさ…言いにくいし…』
『うん…』
『だから、アオって呼んでもいいか?』
『うん…』
『よし、俺の事は『ハル』って呼んでもいいから』
『うん、わかった…』
『じゃ、練習な…『ハル』って、呼んでみ?』
『…ハ…ハル…』
『アオ…』
こうして私とハルの距離は少しずつ縮まっていった。
この町に来て初めての友達ができた。
何だか複雑な環境だけど、ハルとはこのまま平行線を保ちながら
ずっと繋がっていけるような気がした。
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