第18話 恋愛をする一歩を


「俺、今まで恋愛したことないんです一度も」

ひかるさんにとんでもない嘘をついた、確かに恋愛経験は少ないが付き合った彼女はいた。

じゃあなんでこんな嘘をつくのか・・・恋愛観を出さなければひかるさんにより近づく事が出来るから。

「そうなんだ・・・何かすごい意外だな・・・」

ひかるさんの声が強張るのを感じた、そしてかすかに手が震えていた。

どんない平然でいても心の中のどよめきは必ず顔に出てしまう、そんな事を大学の心理学の授業で教授が言っていた。

ひかるさんはいつも態度を崩さない、声も顔もいつも常に変わらない、それでいて本当の気持ちは読めない。

でもこの時初めて俺の言葉に動揺しているひかるさんを感じた、手のかすかな震えが俺をそう確信付けた。


「びっくりしちゃったよ!あんなに可愛いのに俺が初めての彼氏だってさ」

仲の良い大学の友達に最近新しい彼女が出来た、バイト先の新しく入ってきた同い年の子らしい。

写真を見せて貰ったが茶髪のボブで可愛かった。

こんな事を言うとよくないが男受けはめちゃくちゃ良いだろう。

「まじか・・・確かにモテそうなのに、女子校出身で男慣れしてなかったとか?」

「いや、高校とかは普通に共学だってさ・・・いるんだな・・・こんなに可愛い子なのに恋愛したことない人・・・」

「まあ、外見がいいからって恋人を選ぶのは結局自分自身だし、もしくは理想が高いとか?」

ただ俺の友達は特別モテルとか、ずば抜けてイケメンというわけではない・・・

「覚悟を決めたんだって、恋愛をする覚悟を・・・ずっと色んな人から言い寄られた事はたくさんあった。でも決意が出来なかった、それは理想が高いとかもあるかもだけど・・・なにより怖かったんだ、恋愛をする一歩を変わっていく自分と向き合うのが・・・・ほら俺らだって怖かっただろ?最初はさ」

「覚悟か・・・」

「世間一般で理想が高くて恋愛出来ない人って実は怖いんじゃないかな?恋愛をする事が・・・だからいつまでも自分は理想が高いからって言い訳をしてる」

俺は考えた事がなかった、大学に入って気づいたら恋愛をしてた、怖いとかそんな感情はなかった・・・

「お前の好きなそのバイトの先輩も、もしかしたら『恋愛経験』なかったりしてな、今はそういう人たくさんいるし・・・」


「勘違いだったたらごめんなさい・・・ひかるさんって今までに恋愛経験、実はないですよね?」

なんの根拠も無い、でも気になった。

絶対にそんな事は無いと思っていた、だから否定して欲しかった。

ひかるさんは恋愛経験も豊富で、可愛くて、俺が絶対に届かないようなそんな人だって、届かない恋なんてしなくて良いと自分に言い聞かせたかった。でも・・・・・

「そ、そんな事ないじゃん!前にも彼氏いたって言ったでしょ?」

ひかるさんは動揺を抑えきれていなかった、高圧電流が流れたみたいに、顔が引き攣っていた。

ああ・・・俺の根拠の無い予想は当たった。

ひかるさんは『恋愛経験が無い』

俺でも手が届く・・・・目の前にある磨かれたダイヤモンドに俺は手を伸ばす事が出来る。

「人を好きになって付き合う事になんの意味があるのかずっと考えてます。今まで告白された事はあるけど、人生の経験値になる以外になんのメリットがあるか分からなくて・・・ずっと避けてきました」

だから俺は、ひかるさんの心の中に入る、踏み込む。

ひかるさんに彼氏が出来ない理由は・・・・・もう分かってる。

だから俺がひかるさんの最初の一歩になる。

ひかるさんはきっと迷う、アプリの男と付き合う事に・・・きっと

そして迷った時に俺が・・・・俺が踏み出すんだ。

「怖いんじゃんないですか?自分の傲慢さを盾にして逃げてるだけ・・本当は怖いんじゃないですか?『恋』を知って変わっていく自分が、俺はあなたの事が好きだ、だから俺と付き合ってください、俺がひかるさんに『恋』を教えます!」


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