第17話 あなたがこれまで出会った最低クズ彼氏について教えて下さい!

「あなたがこれまで出会った最低クズ彼氏について教えて下さい!」

いつもなんと無く見ている街頭インタビュー系の底辺動画投稿者。

底辺といっても登録者は五万人程いて、再生数の伸びもいい。

この動画を俺はバイトに向かう電車の中で眺めていた。

なんと無く見ていると気づいたら駅に着いてしまって、急いで動画を止め電車から降りる。

「はあ〜」

ため息が出てしまった、この後のバイトが嫌な訳じゃ無い、むしろ今日はある人とシフトが被っていて嬉しいハズなのに足が重かった。

「ある人」とは俺より一つ年上のバイトの先輩「ひかるさん」だ。

彼女は俺がバイトに入って仕事を覚えるまでの約一ヶ月間新人指導係として俺の面倒を見てくれた。

綺麗な顔立ちでスタイルが良く、黒の長いサラサラとした髪がいつも目に入る、正直バイト初日から彼女の事を気になっていた。

俺は数ヶ月前に七ヶ月くらい続いた彼女と別れた。

よくモテそうと周りから言われるが正直全然そんな事はない、初めて付き合った彼女もたその人だけで中学、高校と恋愛に関しては対して積極的になれなかった。

別れたのもちょっとした気持ちのズレが重なってしまいある時突然破裂してしまった。

どちらが悪いとかではなく典型的なカップルの破局の流れだ。

俺は彼女と別れてしばらくは恋愛は休もうと思った、この歳ならまだ色々遊べるし『恋愛』に固執する必要なないと思ってたから。

でもひかるさんに出会いその覚悟は一瞬で消えてしまった。

外見だけでもかなりモテそうなのにそれだけではなく、性格も大人っぽく遊び呆けている印象も感じなかった。

「信二君といると弟の面倒見ているみたいで楽しいな」

ひかるさんはいつも俺を「弟みたい!」と言って接してくる。

悔しかった、俺は『恋愛対象』として見られていないし今後俺が何か仕掛けてもその前提は覆さないだろう・・・


あるバイト終わりの夜、ひかるさんは珍しく店から出てこなかった、ホールはキッチンよりも早く退勤出来るためいつもシフトが被る日は一緒に駅まで帰っていた。

俺は店の中に戻り彼女を待つ事にした。

「ひかるの事が好きなんだけど俺と付き合ってくれないか?」

店に入ろうとした瞬間、外からとんでもない言葉が聞こえてきた。

俺は声の聞こえた場所、店裏の喫煙所のすこし手前に向かい言葉の行方を探った。

話していたのはひかるさんと、キッチンの男の先輩ともやさんだった。

そのともやさんとはあまり深く関わった事は無いが、いつもバイトの合間にひかるさんと仲良く話している姿を何度も見ている。

「終わった・・・」心でそう叫ぶ。

ともやさんは俺よりもイケメンで、ハッキリした性格をしている。

正直二人はお似合いだ、俺が前に出れる訳も無かった。

むしろこのまま二人が付き合えば俺はキッパリ諦める事が出来る。

「ごめん、ともや君とは付き合えない、ごめんなさい」

予想していた告白の流れは一瞬で軌道がズレた、ひかるさんは彼からの告白を断ってしまった。

「そっか・・・」

悲しそうなともやさんの声が聞こえてくる。

嬉しかった、でも・・・・それと同時にともやさんが無理なら俺も無理だろう・・・ひかるさんのコミュニティはここだけじゃない。

大学でもきっとモテモテだろうし・・・・・・

俺は気持ちを抑えひかるさんと関わる事しか出来なかった。


そんな日々を過ごし今日もバイトに向かう、改札を出て動画の続きをイヤホンをしながら見る。

「あなたがこれまで出会った最低クズ彼氏について教えて下さい!」

見覚えのある顔が動画の中に映っていて足を止める。

「え?ひかるさん?」

「前付き合っていた〜」

その時のひかるさんの目には光が灯っていなく、ただ無感情で『恋愛』を語っているように見えた。

まるで感情が無くひたすら任務をこなす廃人の様に・・ただ呆然とあらかじめ仕込んでいた物語を語る茶番劇の様な。

俺の知ってるひかるさんはどこにも映っていない。

あのひかるさんがクズ彼氏と付き合うなんて絶対に有り得ない。

何か、何か、変だ?ひかるさんは嘘をついている?

これがきっかけだった。

















   

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