第16話 ずっと前から大好きでした

「ひかるさん」

夜の十一時三十分、信二くんは慌てた様子で代々木公園に駆けつけた。

信二くんは今日シフトが入っていて十一時まで店にいる、バイト先から代々木公園はそこまで遠く無い、彼は何も文句を言わずに私の声を聞くなりすぐに駆けつけた。

バイトで、大学で一日疲れているハズなのに・・・・

信二君は私の死んだ様な顔を見るなり、すぐに声をかける。

「何があったんですか・・・・ひかるさんがそんな顔・・・・」

信二くんは、ベンチの横、私の隣に座る。

「私、もうどうしたらいいかわからない・・・そんな自分がもう分からない」

信二くんにマッチングアプリ上での数ヶ月の出来事を全て話した。

「好きでも無い人と付き合うか散々悩んだ事」「好きなはずなのに、決心できずに逃げてしまった事」私の愚かで弱い心の淵を全て話した。

信二君はいつも私の話を何も言わずに聞いてくれる、優しく「ひかるさんなら・・・」って私を肯定してくれる。

信二くんは私の事を尊敬している、だから大丈夫。

秘密を悟られた時も信二くんは何もきつい言葉を吐かなかった。

「そんな事の為に、そんな事を、そんなつまらない事を話す為に俺を呼んだんですか?バイト終わり、終電だってあと三十分程で終わるのにふざけないでください・・・」

「つまらない事?そんな事言わないで・・・私はずっと悩んで、信二くんになら聞いてもらえるって、話せるって思ったのに・・・」

「答えなんて、考えなくてもわかるじゃないですか・・・俺と付き合えばいい・・・ひかるさんは『恋』したいんでしょ?恋人が欲しいんでしょ?俺はひかるさんとなら付き合ってもいい、『彼氏』になってもいい」

信二くんから聞こえた言葉は想像を絶していた、私の事を悩みを

『つまらない事』と否定した。

挙句の果てに「俺と付き合えばいい」なんて意味の分からない言葉を織り重ねる。

「何言ってるの?そんなの意味わからない、私と信二くんが付き合う?そんなの出来る訳ない、変な事言わないで・・・」

「ひかるさん、それが貴方に彼氏が出来ない理由ですよ、求めすぎて、

求めすぎて、答えをしらない、いつまでも彷徨い続ける」

信二くんに否定された悲しみと怒りが重なる何も言えない、言いたく無いもういい。

「ごめん、私帰る、呼び出して悪かった。ごめん・・・・」

もうどうでもいい、どうなってもいい、もう私は何も無い。

信二くんの元から立ち去る顔はもう見ない、見たく無い、見せたく無い。

私は最低で傲慢な人間だ。

「待って!」

信二くんは私の腕を掴み引き止める。

何?何?もういいの・・・・・

引き止められても尚信二くんの顔を見ようとはしない。

見たら、自分の愚かさに駆られ死ぬほど不細工ななき顔を見せてしまうから。

「嘘です、本当は全部嘘、今ひかるさんに言った言葉も、『恋愛』なんてどうでもいいとか、全部嘘、俺は・・・ひかるさんの事がずっと前から大好きでした」

















   

   




 


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