第15話 「私も好きです」とこの時すぐに言える事が出来たらどれほど楽だろう

どんなに悩んでも苦しんでも時間は決して止まる事はない、この数日は

まともでは無かったと思う。

いつもはしないミスをバイトで連発、夜は何故か考え事が止まずにまともに眠る事が出来なかった。

最悪のコンデションで『一樹』との二回目のデートに向かった。

今日のデートの結果次第で正直全てが決まってしまう予感がしていた。

『とは』からの告白の結果を保留にしてやや二日、好きでもない人と付き合う事に戸惑いのある私。

そして何より今目の前で颯爽と車を運転している彼の事を一番の『恋人候補』として私は考えている。

今日流れよく、三回目のデートに誘われる、あわよくば二回目のデートで告白してはくれないだろうか?

そうすれば悩んでいた事にも綺麗サッパリ蹴りが着く。

夕方に集まり、彼の提案でお台場までドライブをする事になった。

私は助手席から彼を眺め、車から流れてくる音楽を時折口ずさみながらその時間を過ごした。

「いい店があるんだ!」

段々と近づくレインボーブリッチを眺めながら彼は自身気にそう言い放つ。

「今日は本当にお任せします・・・この辺はあまり来た事がないので」

「うん!それでさ、少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「はい・・・」

「ひかる、アプリの人とどのくらいあった?俺は何人目?答えづらかったらいいよ」

顔の顔は真剣だった、ノリや茶化しでは無い。

「三人目です、ただその中の一人は気持ち悪いやつだったので、実際には一人です」

「じゃあ今その人の事はどう思ってる?」

私は言葉につまり声が出ない、「実はこの前告白されました!」なんて言ったら彼はどう思うだろう。

「正直、イマイチです・・・いい人なんですけど・・・」

「じゃあ、俺の事はどう?」

「え?・・・」

「ここで告白するって訳じゃ無いけど俺ひかるの事多分好きだと思う、だから今日自分の気持ちをハッキリさせたいと思って・・・答えられないならいいよ、でも今日帰る時にもう一度聞くからその時は答えて欲しいな」

気づいたら全ての主導権を握られていた気がする。

私は自分の気持ちが曖昧なまま「はい」と返事をした。

夕飯を済ませてお台場の海辺を二人で散歩した。

夜のお台場はやっぱり景色が良くて様になる、途中彼から「手を繋ぎたい」と言われて、私は拒む事なくその手を握り返してしまった。

初めてのドライブデートも美味しいレストランも、海辺の散歩もどれも綺麗で純粋な時間だった。

『一樹』と過ごす時間もとても楽しく、手を繋いでいるこの時間もずっとドキドキを感じた。

ただそれでも私の心は選択を嫌う、気持ちの整理と決心だけは未だつかないままだった。

十分程歩き、近くのベンチに座る、その瞬間も私は彼の手を離さなかった。

夜のお台場で手を繋ぎながらベンチに座っている、誰がどう見てもラブラブなカップルだ。

私はただずっと海を眺める、綺麗なお台場の景色に消えてしまいくらいだ。

「ひかる」

「はい」

私は名前を呼ばれ彼の方を見る。

彼は何も言わず、ゆっくり顔を私に近づける、目と目が合う。

私は彼に『キス』を交わされた、人生で最初のキス、『ファーストキス』。

「俺、やっぱりひかるの事が好き、初めて会った時にもうすでに惚れてた

だからもう一度聞くね、ひかるは俺の事どう思ってる?」

真っ向から私と向き合う彼の顔はお台場の光と夜空が合わさりいつもの何倍もかっこよく見えた。

「私も好きです」とこの時すぐに言える事が出来たらどれほど楽だろう「す」まで出てもその後がどうしても出てこない、何度も言おうとしても口が動かない、そしてその度に『本当に彼の事が好きな?』ともう一人の私が何度も問いかける。

私はやっぱり決断できない、欲しいものは、求めるものはただ一つなのに・・・私の中の傲慢さがいつも邪魔をする苦しめる。

現実世界で流れた時間はほんの数秒だろう、でも私の心の中では何時間にも及ぶ議論が繰り広げられた、そして議論の末導きだした答えは・・・・

「返事は次会う時じゃダメですか?もうちょっと時間が欲しいんです」

私はまた逃げた、傲慢な心に惑わされまた逃げてしまった。

「うん!俺の気持ちは伝えた、だから次会うまで待つよ、その代わり真剣に考えて欲しい」

「はい」

そうして『一樹』とのドライブデートは幕を閉じた。

あれだけ期待していた、願っていた『告白』を貰ったのに私は・・・・

気持ち悪かった、今日はお酒を一滴も口にしていなのに・・・・なぜか

気持ち悪すぎて、家に帰る途中の小さな公園の木陰に吐いた。

吐いた、吐いた、吐いたのに全然すっきりしなかった。

「なんで、なんで、なんでだよ、この馬鹿野郎、なんで迷うの?選べないの?死ねよ」

自分自身に酷い言葉を浴びせる、もうこのまま死んでしまいたかった、全部忘れたかった。

酔っても無いのにフラフラでゾンビの様に歩く、人目なんて気にしてられない。

どうしよう?誰が理解してくれる?こんな自分の心を誰が?

気好?いや、恋愛を沢山経験して恋人もアプリで自分から選んだ決断した彼女には理解なんてできない。

私の心は誰も、誰にも・・・・

その時ある人の顔と名前が浮かんだ、唯一私と同じ世界にいる。

私は考えもせず彼に電話をかける。

「もしもし・・・信二くん」














   

   




 


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