第12話 私に彼氏ができない理由
信二君と映画を見る日の朝、私は何故かソワソワしていた。
集合は午後でそれまでは全然時間がある、私は大学の課題や筋トレ、部屋の掃除などいつも通りのルーティーンを繰り返していたが心の中のソワソワは消えないままだった。
考えてみれば信二君に恋愛的感情はなくても、異性であるのは間違い無い。
異性とのデートに場慣れしていない私にとって未知の世界だった。
アプリの人と会うのは慣れてきたのにこういった関わりに耐性がないのは悔しい。
池袋の待ち合わせ場所に着き、信二君がくるのを待つ。
「おはようございます!」
数分待つと信二君が現れた。プライベートで会うのはこれが初めてで
信二君が普段どんな私服を着ているのかもイマイチ分からなかった。
信二君は身長もそれなりにあり、その身長を生かした綺麗めのシャツと
スラックスをバランスよく組み合わせていて、バイトで会うよりも大人に感じた。
「ひかるさんはやっぱり綺麗ですね」
「ちょっとまたお世辞!?」
「いえいえ、いつもはバイトでしか会わないので印象が少し変わってびっくりしています」
「そんな事いったら私もびっくりしてるよ!いつもよりちょっと大人っぽい!」
「そうですか!?あんまり言われた事はないです」
軽くアイスブレイクを挟みながら映画館に向かう。
信二君とバイト以外で関わるのは少し変な気持ちだったし、やっぱりソワソワしている自分がいる、今日一日ずっとこのままだろう。
映画を見て泣くなんて何年ぶりだろうか?
信二君と見た『愛の独白』は想像以上に私の心に刺さった。
三十間近で『愛の選択』を迫られる主人公の女性とその周りを担う
環境やすれ違いがめまぐるしいくらい丁寧に描かれ、終始胸がひたすら締め付けられていた。
エンディングを迎えた時、気づいたら涙が出ていて、周りの観客からも鼻を啜る音が聞こえ、暗闇の中でも私と同じ様に心を打たれた人が沢山いる事を知り少し安心できた。
映画が終わって立ち上がっていた頃には心のソワソワは映画の悲しさと儚さのせいで消えていた。
「面白かったですね・・・でもまさか最後別れるなんて・・・」
映画が終わると外はいい感じに日が暮れていて、お互いお腹が空いていた。
近くにあったちょっと綺麗なイタリアンバルに入った。
「私めっちゃ泣いちゃった、こんなに刺さるなんて思ってなかったもん」
「ひかるさんって映画とか見て泣くんですね!結構可愛いとこあるんですね!」
「もお〜恥ずかしいじゃん!」
「でも僕も結構考えてしまいます、『誰かの恋人になるって、幸せを与える、受け取る代わりに相手も自分自身も傷ついて、傷つけてしまう』事なんだって・・」
「ますます恋愛が分からなくなる・・・」
「ひかるさん悩んでるんですか?今」
「え?いや〜まあ、そうかな・・・」
うっかり『恋愛が分からない』なんて事を発してしまって一瞬焦る。
信二君は私の目をじっと見て何か考え込んでいる。
「ちょっとどうかした?」
私は少しドギマギしながら赤ワインを口に入れる。
「勘違いだったたらごめんなさい・・・ひかるさんって今までに恋愛経験、実はないですよね?」
信二君が何を言っているのか分からなかった、私の頭の中は一瞬にして真っ白になって、思考回路もぶちぎれる。
「え?なんでそんな事?」
「否定しないんですか?」
「え・・・と」
声が出ない、冷や汗が止まらない、視界から色が入ってこない。
「そ、そんな事ないじゃん!前にも彼氏いたって言ったでしょ?」
「嘘つかなくても大丈夫です、僕は言いふらしたりしないし、僕も同じ・・馬鹿にしたりなんてしないですよ」
「なんで?なんでそう思うの?私のどこを見て?態度?仕草?話し方?」
焦った様に私は信二君に質問攻めを繰り返す。
自分の一番の秘密がバレかけて、冷静でいられる程私も強くはない。
「別に態度がどうとか、そんなのは特にないです・・・ただひかるさんの目はいつも何故か寂しんです。いつも何か埋まってなくて・・・・・僕と同じ目をしてるなって思って勘で聞いてみたんですけど・・・まさか当たってましたか・・・?」
寂しい目?埋まって無い?信二君の言葉に一切の理解が出来ず、思考回路はいかんせん止まったままだった。
「そうだとしたら?そうだとしたら信二君はどう思う?周りには恋愛経験豊富に見られ、相談してくれる人も沢山いる私が実は誰よりも恋愛をしてこないで、ずっと彷徨ってる人間だったら?・・・どう思うの?」
気づいたら目から涙が少しずつ垂れてきていた、これ以上涙目を見せると周りの人にも不安視されるし何より信二君に迷惑がかかる。
「さっきも言いましたがひかるさんは僕と同じです・・・僕も恋愛がわかりませんこんな映画見ておきながら全然わかんないです。人を好きになって付き合う事になんの意味があるのかずっと考えてます。今まで告白された事はあるけど、人生の経験値になる以外になんのメリットがあるか分からなくて・・・ずっと避けてきました」
同じだけど違うんだよ・・・信二君が恋をしない理由は何よりも自分の感情を信じているから、まっすぐだから。
でも私は・・・欲しいんだ、彼氏が欲しい、なのに・・・・・
「だから、俺の前では気を張らないでくださいよ!着飾ってるひかるさんなんてあんまり見たくない」
信二君は私にハンカチを渡した。
私は真っ白の頭の中でひたすら涙を拭いた。
「そう、私は実は・・・・」
何も無い空っぽな気持ちで最寄り駅を降りる。
私の秘密がバレたのは気好以来の二人目だ。
気好の時よりも苦しい、どうしたらいいか分からない。
信二君はあの後私の話をなんども親身に聞いてくれた。
ただこれからどんな顔で会えばいいのかまだ分からなかった。
家に向かう途中手を繋ぎながら楽しそうに歩くカップルが目に入る
私は彼氏が欲しい、恋愛を知りたい、学びたい・・・なのにできない・・
「あなたはやはり傲慢なタイプなんでしょう・・・特に恋愛に関しては」
占い師の言葉が何度も脳裏によぎる。
私はなんて傲慢な人間なんだろう・・・この傲慢さが私を殺す。
私に彼氏ができない理由・・・それは・・・・・・・・・・・・
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