第10話 彼の温かい手に握られ恵比寿の夜を歩いた。
『とわ』とのデートしたその数日後に私は裏でちゃんと連絡を取っていた『一樹』とのデートが控えていた。
彼は三つ上の社会人であり、学生の私とは違い、会いている日は基本土日のどちらか。
大学生の私には時間の融通が効く、今回は彼に合わせて土曜日の夜に会う事になった。
学生ではなく立派な社会人、顔つきを見ても、遊び呆けている男子大学生に比べてキリッとしていてどこか頼りがいを感じた。
和食が好きな私の為に彼は恵比寿の雰囲気の良い個室居酒屋を予約してくれていた。
コース料理という訳では無いが一品、一品の完成度が高く、日本酒も
美味しかった。
「ひかるさん、結構おっとりしてますね」
お互いに、日本酒を飲み少し酔いが回ってきた頃だった。
「え〜そんな事は・・・周りからはサバサバしてると良く言われます」
おっとりしてるなんてあまり言われた事がない、なんなら人生で初めてだ
酔ってきているからそう見えるだけなのか、それとも彼には私はサバサバに入らないのか・・・
お酒は強い自信がある、でも今日は何故か酔いが回るのが早く混乱している。
彼は私よりも強いのか、酔ってはいるが全然顔を赤くせず平常心を保っていた。
「ここは俺が払うよ」
お会計の前で財布を取り出した私を止め、彼はサラッとカードで支払いを終えた。
彼は特別大企業という訳では無いが、社会人二年目で収入も結構良い、目の前の会計を見てもドギマギせずにすぐに支払えるスマートな部分に男らしさを感じた。
自分より年上の男性とこんな密接に関わるのは今日が初めてだった、悔しいけど会った時からずっと緊張していて、それは帰る時まで変わらなかった。
店から駅までは十分くらい歩く、私は彼の横につき、酔いが回る視界を何とか保ちながら駅に向かっている。
「ひかるさん?駅まであんまりないけど、手を繋がない?」
「え・・・い、いいですよ」
この時流れでオッケーしてしまった自分を叱りたい所ではあるが、酔いが回っている私は彼と手を繋いでしまった、しかも恋人繋ぎ。
男性と手を繋ぐなんて小学生のレクリエーションぶりで、真面目な状況だとこれが初めてだった。
緊張で一瞬私の思考は何回も止まりかけた。
彼の温かい手に握られ恵比寿の夜を歩いた。
ずっと緊張の合奏が終わる事はなく心臓はバクバクを繰り返す、
緊張している事を頑張って隠そうとしている自分を見ると未だに哀れに感じる。
「今日はありがとう!また会いたい」
駅で別れる最後彼は私に次の約束を取り付けてきた。
「こちらこそ、ありがとうございました。私もまた会いたいです」
明確な日にちを決めた訳では無いが『一樹』とも二回目の予定を取り決めた。
帰りの電車、混み合っていて、座る事が出来なかった私はずっと立ちっぱなしで一気に気持ち悪くなってしまった。
何とか最寄りまで着いた私は急いで人影のない裏に駆け込み路上に吐いてしまった。
いつもだったら最悪の気分のはずが今日は何故かめちゃくちゃスッキリしていて爽快だった。
今日初めて『いい人』に出会えた気がする、『一樹』彼の事が気になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます