第8話 『好き』という言葉が嘘だった
「ご注文の品は以上になります」
店員が伝票を置いて席から去っていく。
目の前にはランチセットで頼んだミートスパゲティーとサラダ。
「サラダはいつも先に食べる派ですか?」
「え!うーん気分によりますね」
マッチングアプリで知り合った人と会うのはこれが二回目だ。
前回のヤリモクとは違い彼が提案してきたのは昼間の少しオシャレな
カフェだった。
自分よりも一歳年下にも関わらず、彼は落ち着いた雰囲気で私に接していた。
会話の内容も特別意識したものではなく、サラダの下の様な自然な会話が軸だった。
顔は特別にイケメンという訳ではない、でも波巻きパーマに合う優しそうな顔つきが目に残る。
アプリに載っていたプロフィール写真の何倍も雰囲気が良かった。
「急ですけど。ひかるさんはどんな男性がタイプですか?」
「そうですね・・・・」
好きなタイプ・・・イマイチピンとこない・・ここでの返答次第で彼との今後に影響するかもしれない・・・なんとか私は捻り出す。
「大切にしてくれる人です・・・」
「大切ですか・・・」
「変ですか??」
「いや、そんな事ないです!」
「逆に『とわ』さんはどんな人がタイプですか?」
「俺は嘘をつかない人です・・・正直になんでも話してくれる、信じられる人が好きです」
「恋愛には大切ですよね・・・」
『嘘』という単語で私の口が鈍る。
この後の会話で過去の恋愛を詮索されたらなんて答えよう・・・
頭の中がぐらつく・・
「前、付き合っていた人に大きな嘘をつかれて若干トラウマなんです」
「大きな嘘?・・浮気とか?」
「いえ・・『好き』という言葉が嘘だったんです」
「え?どういう事ですか?」
「彼女は俺の事をそこまで好きに思ってなかった、でもずっと俺に『好きって』嘘をついていた。正直な気持ちを隠してずっと付き合っていたんです」
『嘘の好き』・・・私には理解できない・・・好きでもない人と付き合うの?なんで?なんでそんな無駄な事をするんだろう?
「俺はずっと彼女の事が好きでした、でもその気持ちをただ押し付けてしまった・・勿論、そんな気持ちで付き合っていた彼女にはショックと怒りはあります。けどもっと上手くいった方法があるんじゃないかってずっと後悔が残ってしまって・・だから次付き合う人とはズレたくない、ズレても戻って来れるそんな人がいいです」
彼はなんていい人なんだろう、気持ちに嘘をつかれて付き合っていた彼女の事をただ悪者にする無慈悲な発言をしなかった。
相手の非を分かった上で自分自身を責める、どっちが悪いとかじゃなく、お互い悪い、ズレてしまったと。
恋愛経験の無い私には『ズレ』とかそんなの微塵も想像できやしない。
恋愛偏差値で言えば相手は東大クラス、そんな人の話を恋愛偏差値Fランクラスの私が理解できるわけない。
自分が惨めに思えてくる・・・
食後のデザートのティラミスが運ばれ二人で「美味しそう」と声を合わせている中、彼はまた先手を打った。
「ひかるさん、また次会いませんか?正直雰囲気めちゃくちゃタイプです、だからもっとしっかりひかるさんの事を知りたい」
二回目の誘い・・・彼は私の顔よりも中身を見てるそれは今日会って一緒に食事をしただけでも十分に感じた。
私も踏み出してみるべきなのかもしれない。
「はい!是非私もまた会いたいです」
ティラミスの苦味が今の私には丁度良いバランスだった。
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