第6話 『恋』って何ですか?

「ゴルゴンゾーラと生ハムのサラダ一つずつお願いします」

甲高く注文用紙に書き写したメニューの名前を叫ぶ。

私のアルバイト先は代々木の一角にある少しだけレベルの高いイタリアンレストランだ。

テレビでも特集されるくらいには人気店で平日でも混む日は混んでいる。

二年前からこの店のホールスタッフとして働き始めた私は今やバイトリーダーにまで昇格した。 

「今日はいつもより空いてますね〜」

「まあ、火曜日は一番空いてる日だからね」

バイト先の後輩である信二君は今日は何故かいつも以上にテンションが高い。

普段はバイト中あんまり無駄な話をしないタイプだ、。

彼は三ヶ月前にここに入り、私の優秀な指導の元今では仕事をテキパキとこなせるまでに成長した。

「信二君、今日いつもよりテンション高いよね?良いことでもあったの?」

「そりゃー今週はひかるさんと全部シフト被るから何かあっても安心できるし!」

「もう〜いつまで研修期間でいるのよ」

信二君と同じシフトの日は彼が年下なのも相まって弟の相手をしているそんな気分がして楽しい。

信二君は見た目は大して派手でもなく黒髪で髪もそこまで長くはない、たださわやかな見た目と明るい性格をしていて雰囲気はすごいある。

この感じからもしてもきっと大学ではモテているだろう。

バイトが終わり着替えを済ませて帰り道が一緒の信二君を店の前で待つ。

厨房は締め作業があるがホールは特にないので少しだけ早く帰れる。

店は二十二時に閉店するため気付けば良い時間だ。

代々木の少し外れに店はあるので周辺は住宅街で夜は結構静かだ。

「お疲れ様ですひかるさん!」

「お疲れ様!帰ろっか」

「はい!」

私たちはシフトが同じ日は駅までの方向が同じなのでいつも一緒に帰っている。

歩いて十分くらいだが、この静かな帰り道を歩くのに人がいてくれるとても安心できる。

「気になってたんですけど、ひかるさんって彼氏いたことあります?」

突然の信二君の質問に一瞬息が止まりかけた。

「失礼な!あるに決まってるでしょ!」

「そうですよね・・・ひかるさん綺麗だし」

「信二君は?彼女とかは?モテそうだけど?」

「俺、今まで恋愛したことないんです一度も」

想定外の返答だった、このモテそうな信二君が過去に誰とも恋愛した事がない・・・嘘だ・・・それは私と一緒じゃないか・・・

咄嗟に「ごめん、実は私も・・・」と言いかけたが何とか抑える。

「俺、恋愛とかあんまり興味ないっていうか・・面倒いなって思ってそういうの・・・告白された事は過去に何回かあるけど全部断って来ました」

「そうなんだ・・・何かすごい意外だな・・・」

「ひかるさんにとって「『恋』ってなんですか?『人と付き合う』ってどんな意味があるんですか?」

いつもだったら恋愛マスターのフリで培ったアドバイスや言葉をすぐに引き出す事が出来るが今は頭に何故か何一つ浮かんでこない。

信二君の真剣な問いに実は恋愛をした事がない私が偉そうに答えるのは失礼だと思った。

「私もわかんないよ。今まで恋愛してきたけどそんなのあんまり考えた事なかったし」

「そうですよね・・・ひかるさんの周りには沢山男の人いそうだし・・」

「もう!信二君は私を過大評価しすぎだよ!」

「急にこんな話してしまってごめんなさい!俺別の電車なんで!また明後日会いましょう!」

気づいたら駅に着いてそれぞれ別のホームに向かうため信二君とは別れてしまった。

さっき、「恋愛した事がない」と信二君の口から聞いた時は、私と同じ仲間がいて嬉しかった、でも今考えると信二君と私は全然違う。

恋をしたくても、うまくいかずに彷徨ってる私と、その気になればいくらでも彼女を作れそうな信二君。

抱えているものは同じだけど、信念で見ている心の景色は全くの別物だった。







   

   


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