第35話 恋人の始まり

 五月五日、日曜日が祝日の為、六日まで休みだ。でも、僕は相変わらず勉強をしている。アレクシアさんと共に。


 「海斗さん、ここの解き方を教えてくださいませんか」

 「うん、いいよ」


 彼氏彼女の関係になれば、親も黙っていない。お母さんなんてアレクシアさんに助言するほどだ。まあ、助言の内容は将来的なことだけど。


 「分かった?」

 「はい、大丈夫です」

 

 距離が近い。それにフローラルな香りが鼻を刺激してくる。ああ、なんて可憐なんだ。可愛過ぎて心拍数が上がる。

 一体どうすればいいんだ。


 「どうかされました?」

 「え? なっ、何でもないよ!」

 「もしかして……」


 意識していることがバレた?

 ヤバい。凄く恥ずかしい。


 「私を彼女にしたことを後悔されて」

 「違う! それは断じてないよ」

 「本当ですか?」

 「本当だよ! 信じて」


 アレクシアさんがじっと僕の顔を見つめている。

 

 そんな顔されたら理性が保てなくなる。でも、不安にさせるのはもっと駄目だ。ここは誠意を見せよう。


 「実は、アレクシアさんの魅力に夢中になってしまったというか、些細な行動に動揺してしまっているんだ」

 「動揺している……。それはひとりの女性として意識しているということですか?」

 「はい」

 「…………信じます。ですが、避けるような真似はしないでくださいね。傷付きますので」

 「分かりました。気を付けます」


 ん? 今、笑った?


 「さあ、勉強の続きをしましょう」

 「うん」


 僕はアレクシアさんに勉強を教えながら自分の勉強を進めた。




                    *



 

 昼食を摂り終えて部屋に戻った。

 午前中はアレクシアさんと勉強を頑張ったから一休みするのも良いかもしれない。さて、午後からの予定は――――。


 コンコン。


 ん? 誰だ?


 「誰?」

 『アレクシアです。入ってもよろしいでしょうか?』

 「いいよ。今開けるよ」

 

 ドアを開けてアレクシアさんを招き入れた。


 もしかして、一緒に休んで親睦を深め合おうと考えているのかな。それは構わないけど、男子の部屋に入るなんて本当に勇気がある人だ。

 僕もアレクシアさんみたいに積極的になれたらいいな。


 「海斗さん、その…………」

 「どうしたの? 何かあった?」

 「あの! 私とお昼寝しませんか?」

 

 突然のお昼寝のお誘い。うぶで可愛い。


 「いいよ。どれくらい眠る?」

 「一、二時間くらいでお願いします」

 「よし。それじゃあ、ベッドに横たわろう」

 

 ベッドにふたりで横たわり、タオルケットをお腹周りにかけた。


 う~ん、やっぱり良い香りがする。心臓の鼓動が激しくなっていくのは意識している証拠なのかな。でも、二度も悟られるわけにはいかない。平静を保たねば。


 「海斗さん、やっぱり緊張されていますか?」

 「まあね。アレクシアさんが可愛いからかな」

 

 アレクシアさんの顔が真っ赤になった。照れ顔が可愛い。


 「海斗さん、本当に私で良かったのですか?」

 「うん、良いと思っているよ」

 「ありがとう御座います。お陰で不安がなくなりました」

 「そう? 良かった」


 お互い顔を合わせ、微笑み合う。


 こんなに幸せなことがあっただろうか。一生に一度あるかないかだ。アレクシアさんはやっぱり可愛くて美人だ。


 「アレクシアさんこそ僕で良かったの?」

 「自分で決めたことを曲げることはしません。私は海斗さんがいいんです」

 「格好良いね。さすが、アレクシアさんだ」


 アレクシアさんが目を閉じた。吐息がかかるほど顔が近い。


 「アレクシアさん、おやすみ」

 「すう、すう……、おやすみなさい」

 

 疲れと眠気が僕の意識をフェードアウトさせていく。

 あっ、アラーム……セットし忘れ……た。




                    *




 起きたときは夕方だった。

 肝心のアレクシアさんも深い眠りに就いていたようで、同じ時間に目が覚めて一緒に驚いた。


 「予定が狂ってしまいましたね」

 「まあ、たまにはいいんじゃない?」


 リビングに下りてお母さんに事情を話したら、すぐに夕食の準備をしてくれた。

 怒られなくて良かった。


 「海斗、アレクシアさん、ごはん食べてお風呂入ったら歯を磨いて寝なさい」

 「うん」「はい!」

 

 旅行前日から猛勉強していたから疲れが出たのか。たまには休まないといけないな。


 「それと、仲良くするのはいいけど学生の本分を忘れないようにね」

 「分かっています」 

 「よし。では、食べて」

 「頂きます」


 ゴールデンウィークは残り一日。明日は何をしよう。


 「アレクシアさん、明日の予定は?」

 「明日も午前中は勉強をして、午後は休もうと思います」

 「あまり根詰めないようにね」

 「根詰める? どういう意味ですか?」

 「頑張り過ぎないようにって意味だよ」

 「そういう意味なんですね。勉強になります」


 時折見せる笑顔。やはり可愛いと思ってしまう。


 「可愛いな」

 「え?」

 「あっ、ごめん。独り言」

 

 顔を真っ赤にしてしまった。凄く恥ずかしい。


 「海斗さん、明日も頑張りましょうね」

 「うん」


 僕は恥ずかしがりながらも、夕ごはんを食べ続けた。

 

 

 

 


 

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世界最高峰に君臨する美少女はモブに興味津々です 月城レン @tukisiro_ren

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