第31話 旅行前日
ゴールデンウィーク三連休の前日。
僕達は今、非常にテンションが上がっている。それは明日の旅行が楽しみだからだ。
ふたりの美少女を連れての旅行。テンションが舞い上がるのは仕方のないこと。だが、旅行に行く前の勉強は忘れない。
「海斗、課題を早く終わらせよう」
「うん」
自宅のリビングで出された課題を片付けるべく、三人一緒に力を合わせて勉強をしている。
僕の場合は、通信教育で既に勉強したものを復習する形になるが、復習することはとても重要だ。
「あれ? もう終わったの?」
「うん。次は英語をしようかな」
ふたりを余所に課題を次々と終わらせる。ひとりが終われば、あとは楽だ。
「海斗って何処まで勉強しているの?」
「高校三年生で習うところまで進んでいるよ」
「そんなに? 凄いね」
基本を学んだら応用のオンパレード。だが、基本は忘れない。
「海斗さん、終わったら教えていただけませんか」
「いいよ。それじゃあ、終わったら言うね」
英語の課題を片付けていく。リスニングはある程度できる。だが、本場の発音はまだまだ未熟だ。
英会話教室でも通おうかな。
「これは……、これか」
隣で音羽が答えを盗み見している。なんて子だ。
「音羽、答えを見たら駄目ですよ」
「だって、分からないんだもん」
「分からないって……、授業で習ったでしょう」
「ごめん。聞いていなかった」
「……」
アレクシアさんが呆れている。本当に困った子だ。
「音羽、分からないところは私に聞いてください」
「何で?」
「それは……、海斗が忙しいからです」
「ねえ、本当は海斗から私を引き離したいからじゃないの?」
ばつが悪そうな顔をしている。なんか小声で何か言っている。
「本当に勘が鋭いんだから」
まさにその通りだ。音羽は勘が人一倍鋭い。
「何か言った?」
「何でもありません。さあ、勉強しますよ」
「はーい」
ふたりが話している間に英語の課題を終わりそうだ。さて、最後の数学をするか。
「アレクシア」
「何ですか?」
「明日からの旅行楽しみだね」
「……そうですね。でも、その前に課題を終わらせましょう」
「現実から目を背けないその姿勢、凄いと思うわ」
「お褒めいただき光栄です」
音羽も勉強はできる。まあ、飽きやすいという欠点があるけど。
できないわけじゃない。
「海斗、終わった?」
「あと少し待って」
あと一問終われば、ふたりに教えることができる。
ん? なんか進んでいないぞ。
「音羽、何で進めないの?」
「海斗に教えてほしいから」
「そうですか。では、静かにお待ちください」
アレクシアさんはどんどん進めている。少しでも自力でしようと頑張っているようだ。偉いな。
「よし……、終わった」
「終わった? それじゃあ、教えて」
音羽が隣にやって来て肩を押し当ててきた。これは明らかに近過ぎだ。心臓の鼓動が激しくなっている。緊張してきた。
「ここなんだけど……」
いかん。甘い香りがする。音羽の体臭か?
「ここ? これはね。こうするんだよ」
アレクシアさんが怒らない。空気を読んでいるのか。ちょっと助けてほしいんだけどな。
「分かった。ありがとう」
この様子だと、分かっているのに聞いているに違いない。
音羽め。いつの間に甘え上手になったんだ。
「ねえ、海斗」
「何?」
「私達、元婚約者同士でしょう。もう一回やり直さない?」
「……急にどうしたの?」
「私、思ったんだ。やっぱり海斗が側にいないと駄目だって。だから、やり直そう」
やり直せるのならやり直している。医大に受かるまでは恋愛禁止と自分に課せているが、このままではいずれ付き合うことになるかもしれない。
僕だって音羽が側にいないと駄目だ。でも、アレクシアさんという魅力的な女性が現れて心が揺らいでいる。
今だって……。
「どうしました?」
世界最高峰の美貌を持つ美少女。音羽も綺麗だけど、アレクシアさんはトップクラス。比べたら駄目なのに……。
「アレクシアさん、冷静だね」
「そうですか? 充分動揺していますけど」
よく見たら体を震わせている。我慢しているのか。
「音羽。やり直したいのは山々だけど、大学受験まで待ってほしいんだ。できる?」
「できない。絶対できない!」
「ですよねー」
無理か。でも、どうやって付き合えばいいんだ。
「それならさ、形だけ付き合うというのはどうだろう」
「形だけ?」
「そう、形だけ。本格的に付き合うのは大学受験が終わってからにすればいいと思うんだ」
「うーん……、そうしないと無理だよね。分かった。そうしよう」
言ってしまった。もうあとに引けない。
「海斗さん、是非私と!」
「いや、私と!」
ふたりが迫ってきた。どうしよう。
「えーっと、旅行が終わってからでいい?」
「なるほど、旅行で親密度を上げて決めるってことね」
やる気になっている。更にあとに引けない状態を作ってしまった。
「アレクシアさん、負けないからね!」
「私こそ!」
これは前途多難だな。
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