第24話 アレクシアの企み

 全国統一模擬試験が終わって緊張感が一気になくなった。だけど、ここでだらけたら一巻の終わりだ。でも、明日と明後日は休日。勉強ばかりすると付き合いが悪いと思われる。どうしたものか。


 「取り敢えず、今日は頭を休ませよう。明日のことはあとで考えればいいか」

 

 アレクシアさんがお母さんと夕ごはんの支度をしている。なんとなくリビングにいるが、ふたりの楽しそうな姿を見て参加したくなった。少しくらい手伝ってもいいよな。


 「あの~、何か手伝おうか」

 「海斗は座っていなさい。それともお腹が空いたの?」

 「うん、凄く空いている」

 「それはいけないわね。ちょっと待っていて」

 

 今日は鮭のホイル焼きと味噌汁、ご飯とお供の漬物か。美味しそうではあるけど、邪魔をしてしまったようで少し申し訳なく思っている。静かに戻るか。


 「お母さん、できたら呼んで。リビングにいるから」

 「うん、分かった」


 何もしないでごはんができるのを待つ。このご時世、そんなことでは駄目な気がする。でも、それはあくまで僕の考え。余所ではそうではないかもしれない。

 何で僕は声を掛けてしまったんだ。


 「海斗、気にしなくていいよ」

 「え? 何を?」

 「今日はたくさん頑張ったんだから、少しぐらいわがまま言っても怒らないわ」

 「……ごめん。そして、ありがとう」

 「いえいえ、どういたしまして」


 さすが親。僕の考えなんてお見通しだ。


 「よし、できた。海斗、いらっしゃい」

 「うん!」

 

 ダイニングチェアに腰掛けて手を合わせる。


 「頂きます!」

 「頂きまーす!」


 お父さんは相変わらず忙しい。ゴールデンウィークが近いというのに残業だ。


 「あっ、お父さんから伝言があるんだけどいい?」

 「伝言? 何?」

 「ゴールデンウィークは五月三日から四日に掛けて旅行するけど、何処か行きたいところがあったら教えてだって」

 「行きたいところ……。うーん……」


 栃木県にある観光地はあまり知らない。行きたいところと言っても思い浮かばないな。

 

 「海斗さん、あとで調べてみるのはいかがですか」

 「うん、そうするよ」


 アレクシアさんの助け舟、助かる。


 「海斗、明日と明後日は何か予定が入っている?」

 「予定? 入っていないよ」

 「もしかして、勉強をするつもり?」

 「二日の休日のうち一日はする予定でいるよ。何処か出掛けるの?」

 

 お母さんが溜息を吐いている。何故だ。


 「海斗、アレクシアさんをデートに誘うとかしないの?」

 「あからさまだね。でも、少しは考えたよ」

 「まあ、海斗は医大に進学したいから勉強は大事よね。でも、こんなに美人な人がいるのに、遊ぼうの一言がないのは残酷なことよ」

 

 残酷か。確かにそうだ。


 「それじゃあ、明日の予定を空けるよ。アレクシアさん、何処か行きたいところはない?」

 「行きたいところですか? そうですね……」


 地元の西東京市で遊べるところと言ったら、プラネタリウムを観賞できる科学館かお寺しか思い付かない。

 よし、科学館に行こうと誘ってみるか。


 「アレクシアさん、プラネタリウム見たくない?」

 「プラネタリウムですか? 少し見てみたいです」

 「少しか……。困ったな」


 上手くいかないものだな。何をしよう。


 「無理に出掛けなくても、私はいいですよ」

 「と、言いますと?」

 「海斗さんと一緒にゲームをするだけでもいいです。出掛けるのは疲れると思いますので」


 僕の身を案じてくれている。なんて優しいんだ。


 「それじゃあ、家でのんびり過ごそう」

 「はい!」


 いや、待てよ。

 家で過ごす方が良いのは何か目的があるからでは?


 「アレクシアさん、ごめん。何か企んではいないよね?」

 「……何故分かったのですか?」

 「いや、なんとなくだよ」


 アレクシアさんの表情が怖い。何か企んでいる顔だ。

 

 「仕方ありませんね。本当はお出掛けしようと思ったのですが、そうすると音羽が必ず一緒に行くことになるからです。何故か分かりますか?」

 「うん、分かる」

 「分かればいいです。では、明日は私とふたりきりでゆっくりしましょう」


 僕の知らないところでふたりの間に何かあったな。まあ、喧嘩はしていないようだから良しとしよう。


 「海斗、モテモテね」

 「お母さん、からかわないで」

 

 アレクシアさんが黙々とごはんを食べている。僕も早く食べて部屋に戻ろう。


 「ただいまー」

 「あっ、隼人さんが帰ってきた。おかえりなさい!」


 お母さんが席を離れた。


 「海斗さん」

 「ん? 何?」

 「先ほどはすみませんでした。でも、私の気持ち、分かりますよね?」

 「……何をそんなに焦っているの?」

 「それは……」


 会話を遮るように、お父さんがダイニングにやってきた。


 「ただいま。ん? どうした?」

 「何でもないよ。それより、おかえりなさい」

 「うん、着替えてくるから先食べな」

 

 アレクシアさんが興味津々でいるのは知っている。だけど、ただの興味ではなくなっている。何をそんなに焦っているんだ?


 「アレクシアさん、またあとで」

 「はい」


 僕は食事を少し早め、アレクシアさんと部屋に戻った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る