第23話 息抜き

 「立花君、お疲れ様。私、帰るね」

 「うん、お疲れ様。またね」

 

 全国統一模擬試験終了後、歌川さんが声を掛けてきた。

 様子からして午後のテストは上手くいったっぽいな。僕も今回は上手くいったから非常に気分が良い。息抜きに何処か行きたいな。カフェでも行くか。


 「さて、帰るか」


 結果は一週間後に郵送される。その内容を基準にまた頑張るつもりだ。

 満足してそこで終わらせることはない。


 「何処のカフェに行こうかな。ショッピングセンターのカフェに行ってみるか」


 ここからショッピングセンターはさほど遠くはない。歩いて三十分程度だ。でも、通学路と重なる。もしかしたら、ふたりに会えるかもしれない。


 「会えるのか?」


 まさか、帰る時間を合わせることはないだろう。


 「あれ? 海斗!」

 

 音羽の声がした。確か、こっちだ。


 「やあ、音羽。奇遇だね」


 これは奇跡か? それとも、ふたりが帰る時間を合わせた?


 「全国模試はどうだった?」

 

 アレクシアさんも同然ながら側にいる。まずは、お弁当のお礼を言わないと。


 「上手くいったよ」

 「良かった。ところで、これから何処か行くの?」

 「うん、ショッピングモールのカフェに行こうかなと思って」

 「それなら、私達も連れて行って」

 「ふたりも? 別にいいけど」

 「それじゃあ、決まりね。行きましょう」


 お弁当のお礼を言いそびれた。カフェで機会を窺おう。


 「うん」


 三人でショッピングモールを目指して歩き始めた。

 アレクシアさんが溜息を吐いている。もしかして、息抜きしようと思っていたことを察知した?

 

 「アレクシアさん、学校はどうだった?」

 「海斗さんがいなかったので寂しかったですよ」

 「そう? あっ、それと、お弁当ご馳走様でした。美味しかったよ」

 「お粗末様です。また機会があったら作りますね」

 「うん」


 音羽が後ろから睨んでいる。除け者にするなと言いたげだ。

  

 「海斗、またアレクシアさんにお弁当作ってもらったの?」

 「うん」

 「何で私に言ってくれないの? 腕によりをかけて作ってあげるのに」

 「次の機会にお願いするよ。そう怒らないで」

 「怒っていないよ。ただ、私も作れるのに頼まないから拗ねているだけ」

 「そう? ごめんなさい」


 申し訳なさそうに頭を軽く下げた。

 音羽も作れるのか。なら、今度作ってもらおうかな。


 「海斗」

 「ん? 何?」

 「お疲れ様」

 「……うん。音羽もお疲れ様」


 僕らは少し歩を速め、ショッピングモールに向かった。



 

                   *




 ショッピングモールのレストラン街に到着した。目的地のカフェはレストラン街の出入口のすぐ側にある。比較的、人の出入りが多い場所だ。


 「海斗、入ろう」

 「うん」


 知り合いがいないことを祈りつつカフェに入った。

 僕の一番苦手とする西園寺君がいそうで怖い。彼はいつもこういうカフェにいる。そう――、女の子を連れて。


 「どうしたの?」

 「いや、なんでもない」


 レジカウンターの前に立ち、キャラメルラテを頼んだ。

 ここのキャラメルラテは凄く甘い。疲れた体にぴったりの飲み物だ。


 「アレクシアさんは?」

 「私はロイヤルミルクティーにします」


 それぞれサイズを申し出て会計を済ませた。次は、提供台で受け取るだけ。でも、不安が残っている。


 「海斗、何か静かにしているね。疲れた?」

 「いや、嫌な奴に会わないか不安になっているだけだよ」

 「もしかして、この前会った嫌な男?」

 「うん、それ」

 

 音羽が店内を見渡している。現時点ではいないようだ。


 「海斗さん、奥に行きましょう」

 「うん」

 

 注文したドリンクを受け取り、奥の席に移動した。

 何でだろう。そんなに苦手意識があったっけ?


 「ねえ、その男なんだけど、何で海斗に絡むの?」

 「僕がモブだから目立つと苛立つって言っていたよ」

 「何それ。ただの嫌がらせじゃない」

 「本当そうだよね。目立つと何か都合が悪いのかな」


 考えただけでイライラしてきた。せっかく息抜きに来たのに、これでは来た意味がない。


 「海斗さんをライバル視しているというのはないのですか?」

 「そうかもしれない。実際、色々勝っているし」

 「そうですよ、きっと」

 

 噂をすれば西園寺君がカフェの前を通過した。幸い、あっちは気付いていない。

 気配を殺そう。


 「今、カフェの前を通らなかった?」

 「通った。静かにしよう」


 戻っては――――こないようだ。良かった。


 「海斗。話を変えるけど、もうすぐ旅行だね」

 「そうだね。栃木県の日光だったよね。楽しみだな」

 「そうですね。楽しみです」


 話が終わってしまった。切り替えよう。


 「そう言えば、会場で歌川さんに会ったよ」

 「歌川さん? そう言えば、お休みだったような。もしかして、全国模試受けていたの?」

 「そうだよ。僕と同じ通信教育を受けているんだって。お昼に少しだけ一緒したよ」

 「そうなんだ。歌川さんも頑張っているんだね」


 キャラメルラテの甘さが脳に栄養を与えてくれる。少し甘ったるいけど、そこがまた良い。


 「海斗さん。明日はお休みですが、何か用事がありますか?」

 「今のところはないけど、何か用事があるの? 付き合おうか?」

 「いえ、私も久しぶりに家でゆっくりしようと」

 「なら、僕も部屋でゆっくりしようかな。あっ、漫画でも読んでみるのも有りかも」

 「漫画ですか? 良いですね」

 

 すかさず、音羽に視線を向けた。


 「音羽、明日の予定は?」

 「私? 私は勉強かな」

 「勉強か。頑張って」

 

 いつの間に飲み干してしまったのだろう。キャラメルラテが空だ。

 

 「もう一杯飲む?」

 「いや、これで終わりにするよ」

 

 ふたりからの告白を受けてこうして話しているわけだが、奪い合いをする様子はないみたいだ。これってお互いそうしないように話し合ったのかな?

 もしそうなら、僕次第ってことになる。


 やはり、男女で友達関係を築くというのは無理だったか。


 「海斗、帰ろう」

 「……そうだね。見つからないように帰ろう」

 「うん」


 僕達はマグカップを返却場所に置き、西園寺君に見つからないようショッピングモールをあとにした。

 

 

 

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