第20話 全国統一模擬試験

 ――令和六年、四月二十七日。

 通信教育主催の全国統一模擬試験の実施日がやってきた。学校には休むと伝えてある。あとは、日頃の成果を発揮するだけだ。


 「ここだな」


 会場に到着した。今日は別行動の為、アレクシアさんと音羽はいない。何だか寂しいな。


 「おはよう御座います」

 「おはよう御座います。全国統一模擬試験の受験者ですか? 会場は小会議室になります」

 「分かりました」


 小会議室に移動した。同じく通信教育を受けている生徒がたくさん来ている。皆、進路は違えども志は同じ。もう頑張るしかない。


 「試験は九時から始めます。各自、受験番号が張られてある席に着いてください」


 席を見て回ってようやく自分の席を見つけた。よし、座ろう。


 「ふぅ……」

 

 九時まであと三十分。問題集を見直すか、それとも黙って待つか。

 うーん……、どうしよう。


 「問題集を見直すか」


 アレクシアさんと音羽は今頃何をしているんだろう。ショートホームルームでも受けているのかな。なんか、別行動していると新鮮な気持ちになる。


 「えーっと、ここはこうだったな」

 「あれ? 立花君?」


 突然、声を掛けられた。誰だ?


 「あれ? 歌川さんも全国模試受けに来たの?」

 「そうだよ」


 クラス委員長の歌川姫子。将来は看護師になりたいと言っている人。要するに僕と同じ志を持った仲間だ。


 「歌川さん、自信のほどは?」

 「うーん、まあまあかな。ちょっと英語が危ないかも」

 「お互いベストを尽くして頑張ろう」

 「うん!」


 モブの僕にも優しく接してくれる良い人。最近は、音羽とアレクシアさんにも優しくしている。

 本当に良い人だ。


 「それじゃあ、席を探すからまたね」

 「うん、またね」


 さて、頑張るか。


 『皆さん、十分後に開始となります。席に着いていない方は準備をお願いします』


 係員がアナウンスを流した。

 あと十分。ギリギリまで問題集を見直そう。


 「大丈夫。きっと大丈夫だ」


 そう自分に言い聞かせ、僕は問題集を見直した。




                    *




 全国統一模擬試験が開始され、三時間が経過した。残りの理科、英語はお昼休みを挟んで午後からの開始。それまで一時間休憩となった。


 「よし、お弁当を食べよう」


 アレクシアさんの手作り弁当。愛情がこもっていて美味しそう。でも、疑問に思うところがある。

 何故にご飯の上にハートマーク?

 新婚ほやほやのお弁当じゃないか!


 「これは恥ずかしい」


 ハートマークが鮭フレークで書かれてある。しかも、おかずは僕の好きなものばかり。

 これって絶対意識させようとしているよな。嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが僕の中で喧嘩している。さっさと食べてしまおう。


 「頂きます」


 水筒のお茶を一口飲んでお弁当に箸を付けた。

 うん、唐揚げの衣がサクサクしていて美味しい。そして、お肉もジューシーだ。


 「立花君」

 「ん? 何?」


 歌川さんだ。お弁当を見られる!


 「うわ~、ハートマークだ。彼女が作ってくれたの?」

 「まあ、そんなところかな。隣座る?」

 「良いの? それじゃあ、お邪魔します」


 歌川さんの今日のお昼ごはんは、惣菜パンとお茶。普通だな。


 「立花君、午前中はどうだった?」

 「今のところは全問正解かな。自己採点したらそうだった」

 「全問正解!? 凄いじゃん!」

 「まあ、毎日同じ問題を勉強しているからね」

 「私なんて八十点くらいしか取れていないよ」

 「八十点も取れれば上等だと思うけど」

  

 完璧主義者の歌川さん。とても悔しそう。


 「上等だけど、私は百点が欲しいの!」

 「なら、もっと勉強しないと。毎日何時間勉強している?」

 「二時間」

 「僕、最低五時間はしているよ」

 「ごっ、五時間!?」


 勉強時間が少し足りないようだな。二時間では予習と復習しかできない。


 「勉強しているんだね。ごめんなさい」

 「問題集を片っ端からしないと良い点取れないよ」

 「ん~、お母さんに言って問題集買ってもらわなきゃ。ありがとう、立花君」

 「うっ、うん」


 歌川さんが惣菜パンを食べ始めた。ハムスターみたいで可愛い。惣菜パンをかじっている。


 「ねえ、立花君って高梨さんとクリフォードさんと仲が良いよね。何で?」

 「高梨さんとは幼馴染で、クリフォードさんは僕の家にホームステイしているんだ」

 「え!? クリフォードさん、立花君の家にホームステイしているの?」 

 「そうだよ。まあ、高校三年生までだけどね」

 「そうなんだ。だから、仲が良いんだ」


 何気ない世間話。悪くない。


 「あっ、隣の人が来たみたい。自分の席に戻るね」

 「うん、またね」


 隣の人が戻ってきた。歌川さんが頭を下げて席を譲っている。


 「よし、午後も頑張るか」


 お弁当を食べてお茶を飲み、少し落ち着かせてから問題集を見直す。

 

 「午後も頑張ろう」


 日頃の成果を十分に発揮するには見直しが必要。集中して覚えるか。

 

 「これは……」


 僕は集中して問題集を見直し、午後のテストに挑んだ。

 

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