第19話 全国統一模擬試験に向けて

 音羽とアレクシアさんのことも大事だけど、全国統一模擬試験に向けての勉強も大事だ。現時点ではあと少し手が届かないところまで来ている。通信教育では高校三年生のところまで教わった。あとは確実に理解し問題を解けるかだ。

 

 「音羽。今日はひとりで勉強したいから、家に上がるのは遠慮して」

 「分かった。そうする」


 音羽の家の前でそう告げ、アレクシアさんを連れて自宅に戻り始めた。

 通信教育では、大学に合格するための知識を多く提供してくれる。しかも、各教科に専門の先生がいて非常に分かり易い。

 ゴールデンウィークに入る前に自信をつけておかないと。


 「海斗さん、全国模試が近いのですか?」

 「うん、ゴールデンウィーク前にあるんだ」

 「それなら、私も邪魔しないようにしないといけませんね」

 

 全国模試は、とある会場を貸し切って行われる本格的な試験だ。これまでの勉強の成果を試す良い機会。妥協は許されない。


 「アレクシアさん、二十七日は学校を休むからよろしくね」

 「全国模試で休まれるのですね」

 「そうだよ。担任の西川先生には伝えてあるから、気を付けて登下校してね」

 「分かりました。では、高梨さんとその日は登下校しますね」

 

 音羽が一緒なら大丈夫か。よし、勉強を頑張ろう。


 「アレクシアさん、少し急ごう」

 「はい」


 僕は歩を速め、アレクシアさんを連れて自宅に戻った。




                   *




 ――自宅にて。

 

 「アレクシアさん、部屋に戻るね」

 「分かりました。夕ごはんの時間になったらお呼びしますので、それまで勉強をしてください」

 「うん、分かった。ごめんね」

 

 さて、勉強の時間だ。


 「よーし、やるぞ!」

 

 通信教育を受ける準備を整え、学習机に向かう。

 高校卒業過程の知識はもうある。あとは応用問題や引っ掛け問題を重点的にするだけだ。

 ああ、なんか楽しくなってきた。


 『立花さん、こんにちは』

 「こんにちは。では、よろしくお願いします」

 『分かりました。では、今日の国語は――――』

 

 五教科を順番に学んでいく。もうどれくらいの応用問題をしてきたか覚えていない。だが、問題を目にすれば解答が頭に浮かぶ。こういう時は集中するに限るな。


 「あっ、ここはこれで良いですか?」

 『おー、よく分かりましたね。正解です』

  

 僕は集中力を保ちながら勉強を進めた。




                    *




 勉強を始めてから三時間が経過した。

 全国統一模試に向けての勉強が粗方終わり、答え合わせをしている。今のところ、正解率は九十九パーセント。残り一パーセントはケアミスだ。実にけしからん。


 『今日はこれで終わりますが、ケアミスをした箇所を今度は重点的にしましょう』

 「はい! では、今日はこれで」

 『お疲れ様でした』


 ケアミスなんて前代未聞だろう。僕って馬鹿だぁ。


 「はあ~、どうしちゃったんだ。もしかして、恋愛ボケしている?」

 

 まさか、な。もしそうなら、恋愛していることを後悔しないといけない。

 

 「……そんなことしたら、音羽とアレクシアさんに失礼だ」


 ふたりのせいにすれば良いというわけじゃない。ケアミスは単に自分の不注意が原因だ。

 ふたりは悪くないんだ。

 

 「……ごはんまだかな」

 

 ドアを開けて二階から一階の様子を見る。

 食器をテーブルに置く音が聞こえる。準備中かな?

 

 「ちょっと行ってみよう」


 階段を下りてリビングに入った。そこには――――。


 「あっ、海斗さん!」


 髪型ポニーテールのエプロン姿でアレクシアさんが出迎えてくれた。可愛い。

 

 「良い匂いだね。今日のおかずは何?」

 「郁さんに教えてもらった煮物です。どうですか?」

 

 軟骨と大根の煮物か。どれくらい煮込んだんだ?

 美味しそうだな。


 「軟骨は硬かったら捨ててください。大根はよく染みてますよ」

 「それじゃあ、食べようかな」

 「そうですね。先に頂きましょう」


 席に着いて手を合わせる。

 

 「頂きます」

 「頂きま~す」


 ん? このマヨネーズで和えたサラダ。からしが入っていて非常に美味い。

 

 「うん、美味しい!」

 「そうですか? 良かったぁ」


 軟骨は少し硬いから捨てよう。空いている小皿で良いのかな?


 「軟骨は小皿に捨てればいい?」

 「はい、小皿にお願いします」


 軟骨は煮るのに時間が掛かるからな。食べれるようにするには時間がもうちょっと必要だったか。


 「でも、よく染みていて美味しいよ」

 「郁さんの教え方が上手だったからですよ」

 「そうかな? アレクシアさんの作り方が上手だったからだと思うけど」

 「そうですか? お褒めいただき恐縮です」


 難しい言葉を流用した!? アレクシアさん凄い!


 「そう言えば、日本語上手だよね。どこで勉強したの?」

 「父から教わりました。一応、貿易関係の仕事をしているので」

 「そうなんだ。凄いね」


 なんか沈黙してしまった。言葉が続かない。

 

 「海斗さん、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 「うん、いいよ」

 「海斗さんは私のことをどう思っていますか?」


 目が真剣だ。どうしよう。


 「家事をよくしてくれるし、気が利くし、素晴らしい人だと思っているよ。ただ、無理しているのではないかと思ったりもする」

 「無理ですか?」

 「うん。音羽といるとき、少し苦しんでいる感じがするんだ」

 「……分かっていたのですね。凄いです」

 

 やっぱりそうか。でも、音羽を仲間外れにできない。


 「でも、音羽さんより私の方が一緒に居る時間が長いですよ。その点を踏まえたら、私の方が得しています」

 「そっ、そうだね」

 「海斗さん、音羽さんに何かされました?」

 「うっ、それは……」


 キスされたなんて言えない。怖過ぎる。


 「……なるほど、分かりました」

 「何が分かったの?」

 「では、私も実行します」


 アレクシアさんが急に立ち上がって僕の両肩を掴み、身動きを封じた。

 そして――――。


 「……アレクシアさん」

 「キスしちゃいました。これでおあいこですね」


 唇を強引に奪われた。そのことを察知し、強引に奪うことで対等な立場を保った。頭が回る凄い人だ。


 「海斗さん、覚えておいてください」

 「何?」

 「、と」

 「わっ、分かりました……」


 やっぱり、アレクシアさんは只者じゃない。そう思った僕であった。

 


 


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