第15話 アピール

 ふたりが告白してきたのは、やはり親友でいられないと思ったからだ。僕もそれは十分わかっている。だが、あからさまな態度をとられると困惑してしまうのは、僕の恋愛経験値が低いからだろう。

 現時点で困惑している僕って本当にモブだ。


 「はあ……」


 思わずため息を吐いてしまった。それもそのはず、アレクシアさんがあからさまな態度で僕にアタックしてきているからだ。しかも、お父さんとお母さんに分かるように。もう嫁にしてしまえと言わんばかりの態度をお父さんがとっている。

 両親からのポイントはゲット済みか。行動が早すぎる。


 「海斗、今日はふたりと買い物だろ?」

 「なんで知っているの? 教えていないよ」

 「アレクシアさんから聞いたんだよ。ふたりでお弁当対決するって」

 「そうなんだ。それじゃあ、ピクニックをすることも知っているんだね」


 音羽が元許婚だということが分かって行動に移したんだな。それだけ負けたくないということか。

 いや、単に僕に興味があるから気を向かせたいだけだ。自分に好意を寄せているからと図に乗ったら愚の骨頂と言える。ここは冷静に考えよう。


 「なあ、海斗。何か考え事していないか?」

 「え? 何で分かったの?」

 「ん? 上の空でいることがあるからだ。もしかして、音羽ちゃんのことも考えているのか?」

 「うん」

 「海斗らしいな。まあ、時間はまだある。じっくり考えて決めなさい」


 お父さんにはお見通しか。凄いな。


 「海斗さん、慌てなくていいですよ。卒業までまだ時間があるのですから」


 一番怖い人はこの人。いつ、僕の考えを読み取ったんだ。なんか怖さと凄さを同時に感じてしまって意味が分からなくなってしまっている。

 まさか、僕を監視して……?


 「どうかしました?」

 「いいえ、何でもございません」

 

 アレクシアさんが首を傾げている。

 これ以上、心を読まれるのは辛い。ここは話を逸らして話題を切り替えよう。


 「アレクシアさん、買い物は何時頃行く?」

 「そうですね……。高梨さんに合わせます」

 「それじゃあ、連絡してみるよ」

 

 音羽が来てくれれば少しはこの緊張感が和らぐはず。こうしちゃいられない。メールを送らなきゃ。


 「音羽へ。何時に買い物に行く?」


 アレクシアさんがにこにこしながらこっちを見ている。

 ライバルを呼ぶというのにその余裕はなんだ。何か僕を夢中にさせる術でもあるのか。只者じゃないな。


 「あっ、メールが来た」


 音羽からすぐに行くという旨のメールが届いた。

 明日は西東京いこいの森公園でピクニック。美少女ふたりに囲まれてお弁当を食べるとなると目立つだろうな。まあ、そうなるのは覚悟の上だから良いとして、こうもあからさまにアピールされると嬉しくなる。つまり、僕も満更でもないってことだ。


 「アレクシアさん、今から来るって」

 「そうですか。では、私はリビングで待っていますね」


 アレクシアさんがお父さんとお母さんと雑談を交わしながらテレビを見ている。いつからこんなに仲良くなったんだ?

 

 「それじゃあ、僕は部屋で待っているよ」

 「分かりました」


 部屋に戻って学習机に向かう。昨日の自主勉強の続きだ。


 「音羽が来るまで勉強しよう」


 僕は音羽が来るまでの間、勉強に取り組んだ。




                    *




 音羽と合流し、最寄りのスーパーマーケットで買い物を始めた。


 「海斗はどんなおかずが食べたい?」

 「クリームコロッケかな。冷凍食品の」


 言われたものをすぐに買い物かごにインし、次の目的地に向かう。

 僕の要望に応えようと頑張っているのは分かるけど、オリジナリティがあまりないことに残念がっているのは僕だけだろうか。もっと自分の得意な料理を入れようと思わないのかな。

 

 「最近は冷凍食品も美味しくなっているから、お弁当作りも楽になったよね」

 「そうだね」


 この状況から察するに、卵焼きとたこさんウィンナーだけは手作り、というお弁当になるだろうな。

 でも、それは音羽の場合。アレクシアさんは思い思いに食材を揃えている。

 これがふたりの差、か。


 「はあ……」

 「どうしたの? 音羽」

 「何でアレクシアさんはあんなに料理ができるんだろう。私、完全に負けている」

 「そんなことないよ。音羽は一生懸命、僕の要望に応えようとしているじゃないか」

 「そうだけど、やっぱり手作りおかずが少ない分、負けているよ」


 確かにそうだ。だが、美味しいかどうかはまだ分からない。そこを音羽は忘れている。

 

 「海斗さん、食材揃いました」

 「そう? じゃあ、レジに行こう」


 音羽を元気付けたいけど、余計なことを言って落ち込んだら元も子もない。ここは当日に賭けよう。


 「ふたりとも、お金は大丈夫?」 

 「大丈夫だよ」


 ふたりがレジで会計を済ませてサッカー台に移動した。食材の量があからさまに違う。音羽は少しなのに対し、アレクシアさんは野菜などでいっぱいだ。でも、僕は突っ込まない。何故なら、音羽のやる気を削ぎたくないから。

 音羽、頑張れ。


 「海斗、帰ろう」

 「うん」


 三人でスーパーマーケットの外に出た。日差しはそれほど強くないが、少し暑い。あっという間に夏がやってきそうだ。


 「ねえ、海斗」

 「何?」

 「私、海斗に褒めてもらえるようなお弁当を作るよ」


 一瞬の気の緩みでとても嬉しそうな表情を浮かべた。


 「うん! 楽しみにしているよ」


 音羽の隣でご立腹なアレクシアさん。今回は許してくれ。


 「私も頑張ります!」

 「うん、期待しているよ」


 ふたりの嬉しそうな顔。見ているだけで幸せな気分になる。


 「あっ、そうだ」

 「どうしたの?」

 「ふたりとも、荷物貸して」

 

 ふたりから荷物を受け取り、歩き始める。


 「大丈夫?」

 「大丈夫だよ。さあ、帰ろう」

 「……うん!」


 隣に並んだふたりに笑顔で応え、自宅を目指して歩いた。


 

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