第12話 気持ちの変化
「私の家系は代々、政治家をしています。その傍ら、貿易業や卸売業など、幅広い分野に力を入れ、財源の確保も行っています」
「つまり、アレクシアさんはお嬢様なんだね」
「はい」
政治家な上に貿易業や卸売業もしているのか。なら、お父さんと関わりを持つことも容易だな。でも、何で家系のことを話したんだろう。お嬢様だと知られて敬遠されるとは思わなかったのかな。それとも僕を試している?
「僕はアレクシアさんがお嬢様でも今まで通り接するよ」
「海斗さん。今、何か考えませんでしたか?」
「いや、何も考えていないよ」
「そうですか? 何か違和感があったのですが」
「気のせいだよ。あまり考え込まないで」
勘の鋭い女の子だ。これは怖い。
「海斗さん、何で動揺しているのですか? もしかして、お嬢様だから敬遠しようと考えていません?」
「そんなことはしないよ。ただ、見方が少し変わって動揺しているだけだよ」
「そうですか。嫌いになっていませんよね?」
「なってないよ」
アレクシアさんが安堵の表情を浮かべている。少し不安な感じがあったからどうしようかと思ったけど、安心してくれたのならこっちも安心だ。
「アレクシアさん、もうそろそろ帰ろうか」
「そうですね。帰りましょう」
席を離れてごみを捨て、カフェからショッピングモールの外に出た。空は茜色に染まり、日が少しずつ沈んでいる。今から帰ればちょうど夕ごはん時だ。
「アレクシアさん、少し暗いから気を付けて」
「あの」
アレクシアさんが手を掴んできた。まあ、この場合は仕方がない。
「アレクシアさん、手を放さないでね」
「はい!」
僕はアレクシアさんの手を引いてショッピングモールをあとにした。
*
自宅に到着したあと、お母さんに事情を説明したら、とても嬉しそうな顔を見せてきた。
何なんだ、その笑みは。
「アレクシアさん、今日はお赤飯を炊くわね」
「お赤飯? どんなご飯ですか?」
「知らない? じゃあ、一緒に炊きましょうか」
なんかお祝いモードに入っているんですけど。
まあ、いいか。放っておこう。
「それじゃあ、僕は部屋に戻って勉強するよ」
「夕ごはんの時間になったら呼びに行くね」
「うん、分かった」
さて、部屋に戻って勉強だ。
と、その前に。
「音羽に連絡を入れておくか」
一応、許嫁だったから連絡はしないとな。変な誤解をされたらこっちが困る。
「さてと」
スマートフォンを手に持ち、手慣れた感じでフリック入力する。
『音羽、こんばんは。アレクシアさんとショッピングモールに行ったけど、特に問題はなかったよ。また何かあったら連絡するね』
何でこんなメッセージを?って言われそうだけど、心配しているか分からないからと言えば問題ないだろう。
「よし、送信完了」
部屋着に着替えて、学習机に向かう。
効率が悪いような気もするけど、少しでもすれば学力向上につながる。よし、模試に向けて頑張ろう!
「ん? もう返信が」
音羽からのメッセージが。しかも、文が短い。
『ありがとう』
短い文の中に感謝の意が凄く込められている。今日はこれでやめよう。しつこくメッセージを送ったら不審がられる。
「再開しよう」
しばらく、机に向かって勉強を進める。苦手な教科である国語を重点的に勉強して平均点を上げる。数学なら上手くいくのにな。
コンコン。
開始してから三十分しか経っていないのに、もう呼びに来た。早いな。
「はい、どうぞ」
『入るね』
お母さんだ。しかも、エプロンを着けたまま。もうちょっと時間が掛かるのかな?
「海斗、ごはんできたから食べよう」
「うん、今行く」
お急ぎ炊きで炊いたな。それにしても、デートしただけで赤飯ってどんだけ嬉しいんだ。なんか照れる。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
照れ隠しをしながら、お母さんと階段を下りる。
こんな顔見せられない。正直な気持ち、かなり嬉しい。もう彼女ができた時と同じような感情が出ている。何でなんだ。
「アレクシアさん、連れてきたよ」
「海斗さん、どうぞ座ってください」
お赤飯と沢庵と肉じゃが。恋人という言葉が連想される。
何故そこまで追い詰める、アレクシアさん!
「失礼します」
席に着いて箸を持つ。ふたりはお茶を入れている。
「海斗。その肉じゃが、アレクシアさんの手作りよ」
「そうなの? 凄く美味しそうだね」
「腕によりをかけて作ったんですよ。さあ、食べてください」
「では、頂きます」
短時間で煮込んだ割には味が染みているな。結構美味しい。
「うん、美味しい」
「良かった! あっ、お赤飯にごま塩かけます?」
赤飯にごま塩がかけられた。
これがないと始まらないんだよな、赤飯は。
「ねえ、アレクシアさんとカフェでデートしたって? 海斗も隅に置けないわね」
「からかわないでよ、お母さん。ちょっと話をしただけだって」
「その割には顔がにやけているけど」
感情が表情に出ている。これは恥ずかしい。
「いや、少し嬉しかったから」
「そうよね。だって、アレクシアさん美人だもの。嬉しくないわけないわ」
それはそうだ。だって、今のアレクシアさんはいつもと違う。ポニーテールにエプロンという最強スタイルでいる。特にうなじが綺麗だ。
「さあ、私達も食べましょう」
「はい!」
ふたりも席に着いて赤飯を頬張る。
アレクシアさん、もうすっかり家族になったな。違和感がない。
「ただいま~」
「あっ、お父さんが帰ってきた」
「お~、今日は赤飯か。何か良いことがあったのか?」
「隼人さん、聞いて。今日、海斗とアレクシアさんがデートしたの」
「本当か!? それはめでたいな!」
この人達は本当にお祝い事が好きだな。アレクシアさんまで釣られて喜びを露にしている。このまま明日までこの調子じゃないよな。
「さあ、たくさん食べろ。海斗」
「うっ、うん」
二杯目の赤飯を貰ったのはいいが、お腹が結構ヤバい状況だ。お父さんが帰ってくるまでに肉じゃがは完食している。そこに赤飯をもう一杯というのは、別腹を使うしかない。
吐きそうになったらやめよう。
「アレクシアさん、美味しいよ」
「無理しないでくださいね」
「うん」
この先、どうなるんだろう。少し不安だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます