第9話 音羽は嫉妬深い

 週明けの昼休み。音羽とアレクシアさんと、親友とは何かを議論した。

 結果、恋愛はしばらくお預け。その代わり、親睦を深め合うために何処かに出掛けることになった。


 「ねえ、何処に出掛ける?」

 「そうだな……。僕としては皆で映画を観たいかな。音羽は何処に行きたい?」

 「そうね……。ピクニックはどう?」

 

 ピクニックに行くのも悪くない。青空の下で食べるお弁当、格別に美味いだろうな。


 「でも、誰がお弁当を作るんですか?」

 「それは、私とアレクシアさんだよ」

 

 アレクシアさんが真剣に考えている。お弁当対決でもしようかと考えているのかな。でも、恋愛はしばらくお預けだ。ライバル心をむき出しにするようなことはしない筈。だけど、何でだろう。彼女から闘志を感じる。


 「海斗さん、ピクニックに行くとしたら何処が良いですか?」

 「西東京いこいの森公園はどう? 地元だし」

 「良いね。そこにしよう」

 

 行き先が決まってしまった。映画を見に行くというプランはどうなったんだ。まあ、ふたりがやる気なら我慢するか。


 「海斗、頑張ってお弁当を作ってくるから楽しみに待っていてね」

 「うん、楽しみにしておくよ」

 

 そう言えば、もうすぐゴールデンウィークだな。今年は何処に行くんだろう。毎年行き先が違うから楽しみだ。


 「よし、今度の日曜日の予定は決まった。あとは、ゴールデンウィーク」

 「海斗さん、ゴールデンウィークは何処かお出掛けされるのですか?」

 「両親に聞かないと分からないんだよね。もし出掛けるとしたら、アレクシアさんも同行することになるよ」

 「本当ですか!? 楽しみです」


 ん? 今、音羽の方から舌打ちが聞こえたような……。


 「海斗、もうそろそろ教室に行こうか」

 「え? あっ、そうだね」

 

 気のせいであってほしいと願いつつ、僕は教室に戻った。




                 *



 

 帰宅後。

 アレクシアさんが突然、お母さんに相談を持ちかけた。その内容はピクニックのこと。指南を受けようと必死だ。


 「アレクシアさん。僕、部屋に戻るね」

 「はい! 夕食の時間になったら呼びに行きますね」

 「うん」


 リビングから離れ、階段を上って自室に入った。

 さて、勉強でもしますか。


 「よし、やるぞ」


 しばらく勉強に打ち込む。日課として、毎日五時間は必ず勉強している。自由時間は寝る前の一時間だけ。我ながら、どれだけ勉強好きなんだと聞きたくなるほどだ。


 「ん? メールかな?」

 

 スマートフォンからメールの着信音が鳴った。送り主は、音羽。内容は……、ゴールデンウィークのことで相談したいことがある、か。もしかして、自分も連れて行ってほしいのかな?

 取り敢えず、返信しよう。


 『メール見たよ。ゴールデンウィークのことで相談って何?』


 送信したらものの数秒で返ってきた、相変わらず、返信が早い。


 『あの、ゴールデンウィークは何処に行くの?』

 『もしかして、連れて行ってほしい?』

 『うん、連れて行って。旅費はなんとかするから』

 『……分かった。両親に相談してみるから待っていて』

 『分かった。待っているね』


 ふぅ……、予想通りだと気が動転するな。メールを打っていてテンパってしまった。でも、それって嬉しいってことだよな。頑張って両親に相談してみるか。

 

 「相談は勉強が終わったあとでいいか。とにかく勉強あるのみだ」

 

 再び勉強に取り組み、時間を費やした。







 ――――空が茜色に染まり始めた頃、アレクシアさんが自室にやってきた。

 

 「海斗さん、夕食のお時間です」

 「うん、分かった。今行くよ」

 

 いよいよだ。両親にゴールデンウィークのことを相談して、音羽も連れて行けるよう事を進めよう。そうすれば、音羽を仲間外れにしなくて済む。


 「おかえりなさい」

 「ただいま。海斗、ちょっといいか?」

 

 お父さんが旅行雑誌の一ページを開いて手渡してきた。今年の行き先は、鬼怒川に近いホテル。周囲に温泉もある。なかなか豪華だな。

 

 「今年のゴールデンウィークは、ここに泊まりに行くぞ」

 「あの、僕からも少しいい?」

 「何だ?」

 「実は、音羽も旅行に行きたいって言っているんだ。良いかな?」

 「旅費はどうするんだ? 出してあげられないぞ」

 「自分でなんとかするって言っていたよ」

 「それなら良いぞ。ただ、結構高いぞ」


 最低三万円は必要か。早いうちに音羽に連絡をいれよう。


 「ちょっと音羽に連絡入れるね」


 ダイニングチェアに腰掛け、スマートフォンを操作して音羽に連絡を入れた。

 返信は食事の後にしよう。


 「頂きます」

 「どうぞ。温かいうちに食べてね」


 スマートフォンからメールの着信音が鳴った。だが、僕は食事を優先する。

 食事中に携帯電話をいじるのは行儀が悪いからな。


 「海斗、電話が鳴ったぞ」

 「ん? あとで見るから大丈夫だよ」

 「いや、音羽ちゃんからなら早めに連絡した方がいいだろ」

 「じゃあ、ちょっと見るね」

 

 メールアイコンをタップして内容を確認する。

 内容は、


 『お母さんに相談したら、少し出してくれることになったよ。だから、大丈夫。隼人さんと郁さんによろしくお願いしますとお伝えして』


 だった。

 音羽も行けるならもっと楽しくなりそうだな。よし、いち早くお父さんとお母さんに教えよう。


 「お父さん」

 「どうだった?」

 「音羽も行けるって。あと、よろしくお願いしますって音羽が」

 「分かった。今夜当たり、音羽ちゃんのお父さんに連絡を入れておくよ」

 

 音羽のお父さんも納得してくれれば、気兼ねなく旅行に行ける。よし、問題は解消された。牛丼と豚汁を食べよう。


 「うん、美味しい」

 「ふふっ、ありがとう」


 僕らは時折、旅行の話をしながら夕ごはんを食べた。




                    *




 夜の自由時間に音羽からのメールが届いた。内容は、アレクシアさんに先を越されたくないという旨。音羽の嫉妬深さが垣間見えた。


 「まあ、家族旅行に同行するなんて普通じゃないからな。音羽も焦ったかな」


 音羽の僕に対する好意は以前から知っている。だが、親友である以上、それ以上発展することはない。まあ、それ以上発展したら結婚することになるだろう。


 「まさかな」


 実は、音羽の両親から期待されているのだが、医者になるまでそういった

ことは避けたいとお願いしている。つまり、将来が確約されるまで勉強に集中したいということだ。しかし、今は状況が変わっていて、アレクシアさんも関与している。

 もし、アレクシアさんも音羽と同じ気持ちなら、ふたりとの付き合い方を考え直す必要がある。まさか、ふたり同時に告白なんてないよな。考えるだけで恐ろしい。


 「修羅場になったら洒落にならないぞ」


 アレクシアさんは、世界美少女コンテストで一位を勝ち取った美少女。

 音羽は、クールで才色兼備、おまけにスポーツ万能という高スペック。

 どちらか選べと言われても選べない。もし選べというなら、僕はじっくり考える時間を設けるだろう。

 まあ、どちらも可愛い女の子だから選べるわけがない。今の答えはまさにこれだ。


 「……眠くなるまでゲームでもするか」


 これ以上考えるのはよそう。それより、最近サービスが開始されたゲームをしなければ。

 

 「うっ、ダウンロードに時間が掛かる。仕方がないな。待つか」


 ベッドに仰向けに横たわり、ダウンロードとインストールが終わるのをまだかまだかと待つ。

 

 この時、僕はふと思った。

 ふたりが親友止まりで終わる。それは絶対有り得ない、と。

 

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