第7話 ふたりきりの休日 前編

 アレクシアさんと共に過ごす日曜日。それは、突然やってきた。


 「それじゃあ、出掛けてくるよ」

 「いってらっしゃい」


 両親が出掛けてしまった。そのせいで緊張感が増している。まあ、アレクシアさんの素性を聞いたから仕方がない。

 それより――――。


 「どうかされました?」

 「ううん、何でもないよ」


 私服姿を初めて見たな。ベージュのロングスカートに白色の半袖シャツを合わせている。よく見たら、安物の服じゃない。ブランド物はやはり出来が良いな。


 「海斗さん、今日はどうされます?」

 「今日は一日中勉強をするつもりだよ」

 「……あの、お誘いしたくて聞いたのですが……」

 

 お誘い? 何処かに行くのかな?


 「ごめん。何処かに行きたいの?」

 「いえ、家の中でふたりきりになりたいと思いまして」

 

 ふたりきりで何をするんだ? コーヒーでも飲みながらお話するとか?

 でも、勉強を進めないと模試が……。


 「それじゃあ、ふたりで勉強しない?」

 「勉強ですか? 別に構いませんが、一日中ですか?」

 「いや、お昼くらいまでだよ」

 

 アレクシアさんが胸を撫で下ろした。一日中勉強なんて酷なことはしない。僕だって空気くらい読める。


 「それでは、準備をしてきますので待っていてください」

 「あっ、僕も一度部屋に戻るよ」


 ふたりで二階に上がり、教科書や参考書、ノート、筆記用具を持ち、リビングに戻った。


 「アレクシアさん、座布団をどうぞ」

 「ありがとう御座います」


 さて、何からしようか。自分勝手に進めたら、ふたりでする意味がない。アレクシアさんに聞いてみよう。


 「アレクシアさん、どの教科からする?」

 「現代文からお願いします」

 「それじゃあ、復習からやっていこう」


 淡々と復習をしていく。その中でひとり、僕の反応を見ている存在がいる。

 そう――、アレクシアさん。

 この子は何でこんなにも可愛いんだろう。そわそわしてこちらを窺っている。こんな状況で勉強に集中できるのは、超人と言っていいだろう。まさに、それは僕だ。


 「うーん……」

 「どうしたの?」

 「ここが分からないのですが、教えてくださいませんか」

 「良いよ」


 横に座って丁寧に教えた。

 やっぱりこっちの様子を見ている。反応が面白くないのか?

 いや、単純に異性として気を向けているか確認しているだけだ。決して、からかっているわけじゃない。だが、僕は敢えて普通に接する。何故なら、親友だから。

 

 「ありがとう御座います」

 「いえ、どういたしまして」


 現代文の復習が終わった。予習もついでにしておこう。


 「あの、毎日予習と復習をしているんですか?」

 「そうだよ。でないと、全国模試で一位を取ることができないからね」

 「……本当に勉強好きなんですね」


 感心している。アレクシアさんの成績がどれ程か分からないけど、僕と同じようにしていけば好成績になる筈。頑張ってもらいたい。


 「アレクシアさん、少し集中しようか」

 「はい」


 僕らは、集中して勉強に取り組んだ。




                    *




 お昼時になったので昼食の準備に取り掛かった。


 「アレクシアさん、ラーメンでいい?」

 「インスタントですか? 私が作りましょうか?」

 「え? 良いの?」

 「はい」


 アレクシアさんが冷蔵庫の野菜室を開けた。アレンジするつもりか。どんなラーメンになるんだろう。


 「キャベツと玉ねぎとねぎを使ってもいいですか? あと、豚肉も」

 「良いよ」


 野菜を切り、フライパンで炒めている。

 なるほど、具材をのせて本格的にするつもりか。凝ったものじゃないけど、美味しくなること間違いなしだ。ああ、食べるのが楽しみで仕方がない。


 「あっ、麺を少し茹ですぎたかも」

 「それくらい大丈夫だよ。気にしないで」

 「はい。では」


 ラーメンが完成した。

 今回のラーメンはとんこつラーメン。肉野菜炒めをトッピングすると意外に美味い。


 「テーブルに運ぶね」

 「はい」


 いよいよ実食のとき。さあ、食べるぞ。


 「頂きます」

 

 豪快に麺をすすり、具材を食べる。

 具材が入ったことにより、栄養があるラーメンに仕上がった。でも、アレクシアさんの食があまり進んでいない。どうしたんだ。


 「アレクシアさん。もしかして、ラーメンの食べ方が分からない?」

 「いえ、分かりますよ」


 女の子が豪快に麺をすすることはないか。余計な気を遣わせてしまった。


 「ごめん。僕ばっかり喋って」

 

 アレクシアさんが箸を置いた。怒られる――。


 「海斗さん、勉強以外で得意なことはありますか?」

 「勉強以外で? スポーツならある程度はできるよ。何でそんなことを聞くの?」

 「いえ、普通に料理をしようとしたので何でもできる人なのかな、と思いまして」

 「料理も家庭料理ならできるよ。まあ、普段はあまりしないけど」

 「そうですか。では、恋愛は?」

 

 思考が少し停止した。恋愛について聞いてきたってことは、興味があるか確認したいということか。

 うーん……、恋愛か。


 「恋愛はしたことあるよ。でも、付き合ったことはないかな」

 「付き合ったことがない? 高梨さんとは?」

 「音羽とはそういう関係になったことはないよ」


 何だ何だ。頭を傾げて考え込んでいるぞ。僕の経歴を調べているのは分かるけど、想像と違った点があったのかな。僕ってどんな人間に見られているんだろう。興味がわきてきた。


 「アレクシアさん、何でそんなに僕のことが知りたいの?」

 「逆に聞きますけど、海斗さんは何で深読みしようとしないんですか?」

 

 痛いところを突いてきた。何で深読みしないか、それは恋愛沙汰にならないようにするため。でも、アレクシアさんの場合、それが不服と思っている。親友になりたいから余計か。


 「じゃあ、聞くけど、アレクシアさんって僕を狙ってこの家に来たの?」

 「……はい」

 「それはつまり、恋愛をしたいってこと?」

 「……それは少し」

 「なるほど。でも、アレクシアさんは親友になりたいんだよね? 友情を成立させるには、恋愛感情は邪魔じゃない?」

 「……そうですね。確かに邪魔です」

 「でしょう」


 残念がっていない。ということは、同じ考えでいるということか。確かに恋愛感情が芽生えたら、友情は成り立たない。アレクシアさんの頭の中で何を思い描いているか分からないけど、親友になりたいなら恋愛感情は邪魔だ。


 「海斗さん。私、海斗さんともっと仲良くなりたいんです」

 「……分かった。僕も仲良くなれるよう善処するよ」

 「ありがとう御座います」


 いけない。ラーメンの麺が伸びる。食べないと。


 「アレクシアさん、麺が伸びるから食べよう」

 「はい!」


 アレクシアさん、本当に謎多き女の子だ。


 

 


 


 

 

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