第6話 あいつは突然現れる
アイスティーを飲み切ったところで席を立った。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
アレクシアさんも落ち着いたのか、口数が戻っておとなしくなっている。日本に来たきっかけが僕だなんて、本当に信じ難い。でも、それを知ってやる気がわいてきた。帰ったらみっちり勉強しよう。
「ねえ、何処から見る?」
「二階から見て回ろう。まずは、雑貨屋さんから」
レストラン街を抜けてエスカレーターに乗った。乗るタイミングが毎回取りずらい。難しいな。
「ねえ、音――」
ヤバい。スカートの中が見えそう。
「どうしたの?」
「いや! 何でもない」
「ん?」
二階に到着した。取り敢えず、雑貨屋に入って良い物がないか物色しよう。
「ねえ、あそこに入らない?」
「いいよ」
美少女をふたりも連れていると目立って仕方がない。直視できないほど、ふたりは美人で可愛い。現に僕も少し恥ずかしがっている。今更感が。
「海斗、これ見て! 可愛いよ」
「え? どれ? 見せて」
雑貨屋だけあって色んなものがある。手作り感があるマグカップやアクセサリー、傘なんかもある。凄いな。
「傘買おうかな。今使っているの古いし」
「使えなくなりそうなら買えば?」
「うーん……、どうしよう」
アレクシアさんも傘を見ている。確かにおしゃれで可愛い傘ばかりだ。悩むのは必然と言っても……。
「どうしたの?」
あいつが何でここに?
いや、地元だからいて当然だ。
「ん? お前は……」
ヤバい。バレた。
「あれ~、何で立花がこんなところにいるんだ?」
「あはははは……。偶然だね」
あいつこと西園寺孝宏が近付いてきて肩をポンポン叩いてきた。嫌な奴に遭遇してしまった。どうしよう。
「あれ? そこのおふたりさんは? こいつの友達?」
音羽とアレクシアさんが少し驚いた表情を浮かべている。その時、僕は咄嗟にふたりの前に立ち、壁になった。
「おい、なに邪魔してんだよ」
「いや、何か用なのかなって思って」
「何が『何か用なのかな?』だ。ふざけているのか? お前」
「いや、ふざけては……」
暴力沙汰になったら警察を呼ばれる。ここはモブに徹するしか。
「よく見たら可愛いじゃん。俺らと遊ばない?」
「嫌。手を放して」
西園寺が音羽の手首を掴んでいる。何とかしないと。
「ごめん。話があるなら通路に出よう」
「手を放せよ、このモブ!」
手を払われた途端、伊達メガネが飛んだ。
「海斗!」
「チッ! 面倒臭い奴だな。弱いくせに絡むんじゃねぇよ」
この時、僕の中で何かが切れた。
「弱い? 君じゃないのか?」
手首を掴み、力を込めて握りつぶした。
「いってぇ! 手を放せ!」
「今、三人で買い物をしている最中なんだ。邪魔しないでよ」
「分かった! 分かったから手を放せ!」
手を放し、伊達メガネを拾った。まったく……。
「今日のところはこれで引いてやる。次会ったら覚悟しろよ」
ちょっと手首を握りつぶしただけでこれか。プライドが高い自己中心的な男はこれだから怖い。次会ったらもっと痛み付けてやろう。
「海斗、大丈夫?」
「ごめん。ちょっとキレちゃった」
せっかくの楽しい買い物が台無しにされた。本当に空気を読まない男だ。あれでモテるのが本当に信じられない。
「音羽、どうする? 傘買う?」
「今日のところはやめておこうかな。それより帰ろう」
「うん、そうしよう」
雑貨屋から離れる。あいつらは……姿が見当たらない。早いな。
「海斗さん」
「何?」
「海斗さんって何か武術を習っていました?」
「極真空手を習っていたよ」
「そうですか。凄いですね」
アレクシアさん、何でそんなに僕を詮索するんだ。僕のことについて何か調べているのかな。さっきからスマートフォンを操作している。
「音羽」
「何?」
「家まで送るよ。さっきの奴がいたら危ないからさ」
「……ありがとう」
ショッピングモールの外に出た。幸いまだ暗くなっていない。送るなら今だ。
「アレクシアさん、音羽を送りたいから一緒に来てもらっていい?」
「いいですよ。お供します」
歩道を進み、ショッピングモールの敷地内から出た。ここからなら三十分ほどで自宅周辺に辿り着く。
「音羽、自宅は何処にあるの?」
「海斗の家からそんなに離れていないよ」
「そうなんだ。ついでに自宅の場所教えて」
「良いよ」
音羽のあとをついて彼女の自宅を目指す。近くに住んでいるのなら、今度遊びに行こうかな。
「海斗、バテないようにね」
「うん、頑張る」
僕らは音羽の自宅に向けて歩み続けた。
*
音羽の自宅は意外と近くにあった。しかも、比較的新しいアパート。以前住んでいた家は引越しの際、引き払ってしまったから、もう他の人の手に渡っている。仕方がないと言えばそうだ。
「海斗。遊びに来るのは良いけど、静かにね」
「うん、その時はよろしく」
「それじゃあ、私は家の中に入るよ。またね」
「うん、またね」
一棟当たり四件か。家賃が高そうだな。
「海斗さん、帰りましょう」
「うん」
アレクシアさんとこうして、ふたりで肩を並べて歩くのは初めてだな。何を話そう。
「海斗さん、高梨さんとお付き合いしたいと思ったことはないんですか?」
「ちょっと待って。何でそんな話をするの?」
「凄く仲が良いので、そう思ったことがあるのかなと思いまして」
「あ~、そういうこと。少しはあったよ。でも、親友止まりが長く続いたから、そう思わなくなった。だから、親友なんだ」
「そうですか。親友止まりが長く……」
またスマートフォンをいじり出した。何を調べているんだ?
「ねえ、スマートフォンで何を調べているの?」
「海斗さんの情報をテキストに入力しているんです」
「何故にそのようなことを?」
「いや、気になるので調べているんです」
この子は変わっている。ストーカーではないけど、ここまでされると怖くて堪らない。でも、もうやめてと言えない自分がいる。この子は一体何者なんだ。
「アレクシアさん」
「何でしょう?」
「君のこと少し気になるんだけど、素性を教えてくれない?」
「……いいですよ。では、ひとつだけ」
ゴクリと唾を飲む。緊張してきた。
「私は、世界の美少女コンテストで一位を獲得した少女です。すなわち、世界最高峰の美少女なのです」
「へっ、へえ~、凄いね」
マジで? 世界最高峰? ヤバいって、それ。
「だからというわけではありませんが、貴方に凄く興味と関心があります。海斗さん、貴方の秘密をもっと教えてください」
「秘密? あまりないよ」
「そうですか……。でも、貴方には多くの可能性があると信じています」
言っていることが分からない。何故、可能性を信じているんだ?
僕に何かさせるつもりなのか?
「えーっと……、落ち着いて?」
「すみません」
もしかして、僕のファンだった? なら、色々話を聞いてみてもいいかもしれないな。
「アレクシアさん、僕のことを調べているのは何か目的があってしているの?」
「はい、そうです」
「そうなんだ。今は聞かないけど、頑張って」
「はい!」
アレクシアさんの素性がひとつ分かった。でも、言っていることがいまいち分からない点がある。
この子は一体何を考えているんだ……。
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