第1話 ホームステイ

 始業式が終わり、ホームルームが始まった。

 

 「皆、席替えは落ち着いてからにしよう」

 「はーい」

 

 進級したては、どこでも出席番号順のままだ。変えてしまうと名前が覚えられない。

 

 「では、時間割表を配る。各自、確認して授業に挑んでくれ」


 前から時間割表が渡された。そのあと、うしろの席に回し、時間割表に目を通す。

 ……選択科目が多くなっている。まずは、美術と音楽のどちらをとるかを考えよう。

 

 「それでは、自己紹介をしよう。まずは、先生からだ」


 クラスメイトが一斉に視線を担任の先生に向けた。担任の先生からは緊張した様子がみられない。堂々としている。


 「先生の名前は、西川雅治。担当科目は国語だ。皆、よろしく」

 「よろしくお願いします!」


 ひとりに釣られて、皆が返事をした。

 これから、皆の自己紹介が始まる。僕の番は二列目の後ろくらい。さて、どうやって自己紹介しよう。名前だけだと面白みに欠けるから、趣味をひとつ言っておこう。


 「さて、出席番号順に自己紹介をしてもらおうかな。一番からどうぞ」

 「はい!」


 いよいよ、生徒たちの自己紹介だ。緊張するな。


 「僕の名前は、有川学といいます。部活は野球部に所属していて、レギュラーです。一年間よろしくお願いします」

 

 クラスメイトが拍手している。僕も遅れまいと拍手したが、ぼっち感が半端ない。心を通わしていない状態で同じ動作をするのは違和感がある。早く、僕をぼっちから脱却させてくれ!


 「次どうぞ」


 出席番号二番の女子生徒が立ち上がった。

 この調子だと、すぐに出番が回ってきそうだな。よし、自己紹介の内容を考えよう。


 「私の名前は、有野まなみです。帰宅部ですが、習い事でピアノをしています。一年間よろしくお願いします」


 何でさらっと言えるんだ。意味が分からない。


 「自己紹介ありがとう。時間がないからどんどんいこう」


 ペースアップされた。ひとり当たりの所要時間が短くなり、僕の出番が回ってきた。

 やるしかない。


 「僕の名前は、立花海斗。帰宅部で、趣味は読書。よく図書室で過ごしています。よろしく」


 普通に拍手された。これで難関クリアだ。あとは、残りのクラスメイトの自己紹介を聞くのみ。

 あ~、緊張した。


 「では、次お願いします」

 「はい!」


 僕はクラスメイトの自己紹介を静聴し、顔と名前を少しずつ覚えていった。




                  *




 ホームルームが終わり、帰宅の時間となった。

 

 「さて、帰るか」


 ここであることを思い出す。それは、お母さんに音羽が転校してくることを伝えること。

 スマートフォンを取り出し、メッセージ作成に取り掛かる。内容は至ってシンプル。幼馴染だった高梨音羽が引っ越してくる、だ。

 

 「これで良いかな。ん? なんか受信メールがある」

 

 受信メールを探る。そうしたら、お母さんからだった。

 内容は――――。


 『お疲れ様。いきなりで悪いんだけど、ホームステイをひとり受け入れることになったから、今日からよろしくね』


 いきなりで頭の中がフリーズしている。だが、教室の静けさが増したのと同時に我に返った。

 待て待て待て! ホームステイをひとり受け入れる?

 聞いたの、今日だぞ! 部屋は……空いているか。でも、どんな人か聞いていない。もしかして、お父さんの仕事の関係で受け入れることになったのかな。何で教えてくれなかったんだ。心の準備ができないじゃないか。全く、お父さんもお母さんも人が悪い。


 「とにかく帰ろう」


 バッグを肩に掛けて、教室から下足室に移動する。

 心臓の鼓動が高鳴っている。その反面、可愛い女の子が良いな、と期待が膨らむ。

 もし、可愛い子なら…………。


 「あっ、立花。今から帰りか?」

 「え? あっ、うん! またね!」

 「おう、またな」


 高野君が他の生徒と手を振ってきた。僕は軽く手を振って下足室をあとにする。


 桜の花はかろうじて少し残っている。もうそろそろ見納めだ。それより、どんな人だろう。僕、外国語あまり話せないんだけど。


 「よし、走ろう」

 

 体力を考えたペースで走った。幸い、他の通行人はいない。ぶつかる心配がないのが有難い。

 

 「はっ、はっ、はっ、はっ!」


 五分程走ったところで、一旦止まった。

 これはしんどい。汗がどんどん出てくる。帰宅部の体力ってこの程度か。


 「あつ~。脱ごう」


 学ランを脱いで襟元をパタパタと動かし、風を首元に当てる。

 こんなところで休んでいる場合じゃない。少しでも歩こう。


 「よーし、家まで頑張るぞ!」


 僕は自宅を目指して歩いた。




                 *




 自宅前に到着した。駐車場にはお母さんの軽自動車が止まっている。


 「先回りするはずが……、一足遅かったか」


 自宅内から可愛らしい女の子の声が聞こえる。これは、期待通りか?


 「まさか……、外国人美少女?」


 期待を胸に玄関のドアを開けた。

 

 「ただいま~!」

 

 声を発してから間もなく、リビングからお母さんとプラチナブロンドでロングヘアの可愛らしい女の子が出迎えてくれた。

 あれ? また頭の中がフリーズした。

 

 「おかえりなさい。学校はどうだった?」

 「え? あ~、いつも通りだったよ」

 「良かった。あっ、紹介するわね。今回ホームステイをすることになった、アレクシア・クリフォードさんよ」

 

 アレクシアさんか。美し過ぎて直視できない。というか、眩しい。


 「初めまして、アレクシア・クリフォードです。立花海斗さんですよね?」

 「あっ、はい」

 「二年間よろしくお願いします」


 流暢に日本語を話すな。僕より上手いぞ。


 「さて、立ち話はこれくらいにして、お買い物に行きましょう」

 「買い物? 何処に?」

 「海斗もついてきて」

 「え? 僕も?」

 「いいから着替えてきなさい。超特急でね」

 「うん、分かった。待っていて」


 アレクシアさんに軽く頭を下げて階段を上り、自室に入った。


 「心臓飛び出るかと思った。なんだ、あの美しさは」

 

 リアル美少女を間近で見て、心臓が高鳴った。免疫力が付いていないから余計だ。 これでは、買い物中もドキドキしっぱなしになる。大丈夫か、僕の身体。


 「とにかく着替えよう」


 ハンガーに掛けてある私服を着て、大急ぎで一階に下りた。お母さん達は既に玄関の表にいる。


 「お待たせ!」

 「ちょっと待って」


 お母さんが着崩れたところを直してくれた。


 「これでよし。海斗とアレクシアさんは後ろね」

  

 軽自動車の後部ドアを開き、レディファーストと言わんばかりにアレクシアさんを先に乗せた。これで問題なし。


 「ありがとう御座います」

 「いえ」


 なんだ、この花の香り。きつくはないけど、理性がぶっ飛びそう。これが外国人美少女のフェロモンか。辛い。


 「どうかされました? 具合が……?」

 「いえ、大丈夫です」

 

 お母さんがクスクス笑った。これは確信犯だ。


 「海斗、アレクシアさんをしっかり守りなさいね」

 「うっ、うん」


 取り敢えず落ち着こう。このままでは、まともに会話ができない。 

 深呼吸だ。

 

 「ふぅ……」


 意外に落ち着いた。よし、アレクシアさんのことを聞こう。

 

 「お母さん。アレクシアさんは、お父さんの仕事の関係でホームステイすることになったの?」

 「うん、仕事の取引先からの依頼でホームステイさせることになったの。連絡がお遅れてごめんね」

 「それは良いんだけど、これから何を買いに行くの? 日用品?」

 「そうよ。日用品と生活用品」


 音羽のことは頭に入れてくれたのかな。聞いてみるか。

 

 「お母さん。メール送ったんだけど、見た?」

 「見たわよ。音羽ちゃんも転校してくるんでしょ? 偶然よね」

 

 頭には入れてくれていたか。なら、家に連れてきても問題ないな。

 と、その前に。アレクシアさんにも紹介しないといけない。音羽なら問題なく対応できそうだけど、僕にはその自信がない。美少女ふたりに囲まれたら、僕の理性が危うい。本当に大丈夫なのか、僕。


 「さあ、出発進行!」


 軽自動車がお母さんの運転によって走り出した。

 アレクシアさんが景色を眺めている。日本に来たのは初めてなのかな。

 

 「アレクシアさん」

 「はい、何でしょう?」


 振り向いただけなのにドキッとした。これはヤバい。


 「日本に来たのは、今回が初めて?」

 「いえ、遊びには来たことがありますよ」

 「そうなんだ。これからよろしくね」

 「はい、よろしくお願いします!」


 嫌われるようなことはしないでおこう。気まずくなったら終わりだ。

  

 「海斗さん」

 「ん? 何?」

 「本当にこれからよろしくお願いしますね」

 「?」

 

 なんか意味深だな。まあ、いいか。

 軽自動車が大通りに出た。この様子だとショッピングモールだろうな。


 「アレクシアさん、海斗から離れないようにしてね」

 「はい」


 この先、不安だ。




                *




 予想通り、ショッピングモールでの買い物だった。日用品やら生活用品、あとは雑貨などを買い、そのまま帰宅。それから、買ったものを片付けて夕食となった。


 「海斗。アレクシアさんのこと、任せたぞ」

 「うん」


 お父さんもアレクシアさんを迎えるために残業抜きで帰ってきた。しかも、今日の夕食はお父さんが買ってきたお寿司。アレクシアさんが初めて見るお寿司を前にウキウキしている。


 「アレクシアさん、美味しい?」

 「はい、とっても美味しいです」

 

 可愛らしい笑顔が眩しい。これは、明日から大変になりそうだ。


 「このホタテ美味しい! アレクシアさんも食べてみなよ」

 「はい! では、頂きます」


 少しずつ心を開けてはいる。慌てないで少しずつ仲良くなっていこう。





 

 

 


 

 


 

 

 


 


 

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