180.南の国にようこそ

 さて。

 俺たち五人は、馬に乗ってユウゼの街を後にした。グレンさんの馬にムラクモが同乗し、俺は何か当然のようにカイルさんの前に乗ってたりするわけで。タクトは、ロクロウタの手綱を引いて歩いている。

 ……揺れる馬の上で、ちょっと困ってしまった。何て言うのかね……俺の後ろで支えてくれてる、カイルさんのことが何か気になって。いや、さすがに考え過ぎだよな、うん。


『まま、どしたの? どきどきだよ?』


「な、何でもねえよ」


『じょうさま。かいるさまのじょうばのうではすばらしいものですから、じょうさまがおちることはないですよ?』


「あーうん、だから何でもねえって」


 大変のほほんなタケダくんとソーダくんに見上げられて、とりあえずごまかしてみる。

 う、背後から視線感じるぞ、おい。


「ジョウ、どうした?」


「ジョウさん、どうしたんですか?」


「うぇ?」


 背後のカイルさんと横のタクトからほぼ同時に話しかけられて、思わず変な声が出たよ。つか、俺何か怪しかったか?


「いや、さっきから伝書蛇たちと何かお話されてるので、何かなーと」


「あー」


 タクトの台詞に、顔がひきつった。ああそうだ、俺以外には何話してるかわからないんだよな。……グレンさんとムラクモはなんてーか、楽しそうな顔してるけど。いやいや、いくらなんでも。


「いや、俺シノーヨ行くの初めてだからさ。ちょっと緊張してるみたいで」


「そういうことか。何、旅行として楽しめばいいよ」


「そうですよ。ジョウさん、初めてなら見どころいっぱいあるんじゃないですかね」


 まあとりあえずごまかしてみたら、無難な答えが帰ってきた。まあなあ、ユウゼとコーリマの王都ほか街いくつか、しか知らないもんな。おまけにシノーヨはコーリマとは方角反対の南側で、だから街とか服装とかも結構違うだろうし。

 にしても、タクトは普通に歩いてて大丈夫なのかね。いつも、当たり前のように馬に乗せてもらってる俺が言うのもアレだけど。


「タクトは馬持ってないんだ?」


「自分用のはまだです。歩くほうが性に合ってるんで」


「もうそろそろ、良いの見繕ってやるつもりなんだけどな」


 タクトの答えの後に、グレンさんが本音ぶっちゃけた。もしかしたらグレンさん、シノーヨで探すつもりなのかな。ユウゼでも馬は買えるけど、よそから連れてくる手間賃とかで高いんじゃーとマリカさんが叫んでた記憶がある。

 ……あれ。そういえば、シノーヨまで片道どれくらいだっけ。


「そういえば、どのくらいかかるんですかね」


「国境までは普通に馬歩かせて半日もかからんが、そこから図書館のある都までは地面行くと四日くらいだな」


「げっ」


 カイルさんがさらっと教えてくれた答えに、顔が引きつるのが分かった。地面行くと四日……この前振りは、つまり。


「空飛べば二日程度ですよ。シノーヨに入ったら、馬一頭借りましょう」


 やっぱりかー。がっくしと肩が落ちる。

 タクト、明るく言うんじゃないよまったく。空って、相変わらず慣れないんだよう。

 あれだ、ドラゴンの背に乗って空から敵陣アタックとか夢だ幻だ。手綱持ってるとかならともかく武器振り上げて、なんてバランス取れないしすぐ落っこちそうだし無理ー。




 んでまあ、半日もかからないというかほんの二、三時間ほどで国境の街にたどり着いた。ミイワ、というらしいこの街は、ユウゼからそんなに離れてないこともあってか作りはユウゼと大して変わらない。石造りの城壁とその手前に堀、んで鎖で引っ張り上げれば門を閉じる扉になる橋。

 もちろん、ユウゼと違うところはある。門番さんが銀の金属鎧、ただしパーツ少なめを着てるとか、前にスオウさんがぶん回したのよりちょっと小さめの斧持ってるとか。


「遠くよりご苦労。身分証明を拝見」


「はい」


 何気に態度がでかいところとか。まあこれは、お国の事情とかいろいろあるんだろうってことであまり気にしないほうが良いと思う。


「……ふむ。通ってよし」


「ありがとうございます」


 全員の身分証明を確認したところで、門番さんは顔をひきつらせながらでも態度はそのままで通してくれた。うん、こっちが誰か知ったところでいきなり態度変えられてもなあ。何だこいつ、とか思うだけだし。

 で。


「おー、来たかー!」


『すおうおじちゃん!』


『じょうさま、すおうさまですよー。むかえにきてくださったんですね!』


「みたいだね……」


 そのまま門を通り抜けた瞬間、でかい声が出迎えてくれた。背後でガシャガシャどしゃんとか、門番さんがひっくり返る音がした気がするけど見ないでおこう。武士ならぬ魔術師の情けだ、うん。

 つーかおっさん、コーリマ王都に突っ込んだ時の武装スタイルまんまかよ。もしかして仕事中じゃねえのか、あんた軍の司令官だったよな?


「馬の休憩させんなら、出城貸すぜ?」


「いや、普通に使われるところを教えてもらえれば」


「特別扱いは嫌ってか? ま、そういうところが良いんだけどな、あんたは」


 ほいと俺抱えて馬から降りたカイルさんと、当たり前のようにスオウさんが会話する。あの、カイルさん、降ろせこっ恥ずかしいから。


「カイルさん、俺歩けるんで降ろしてください」


「え、あ、すまん」


「カイル様。いちゃつくのは構いませんが、やり過ぎは駄目ですよ?」


 おい、何で言わないと分かんねえんだよ、この鈍感イケメン王子が。ムラクモがこめかみ引きつらせるのも、分かるってな。


「ははは、皆元気そうで何よりだ。ようこそ、シノーヨへ」


 そんな中、スオウさんは俺たちを若い子はいいねえって顔で見渡して、それから軽く胸に手を当てた。

 おっさんとはいえ、かっこいいんだよなあ。うん。

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