179.娘は元気、父は大変
宿舎を出たところで、タクトが「あ、ジョウさん」と満面の笑みで迎えてくれた。おいおい、カイルさんは良いのかよお前。
その後ろにはカイルさんの馬・ロクロウタを連れてるムラクモと、もう一頭……葦毛っていうのか? 白というのかグレーっぽい感じの馬を連れてグレンさんがいた。なお、各自旅の準備万端である。大体俺より軽めの荷物なのは、伝書蛇分がないからだろう。
「カイル様、馬をお連れしました」
「ああ、助かる。グレンは自分のか」
「ええ。ヤシチはシノーヨの道も多少は知ってるんで」
ムラクモからロクロウタの手綱を受け取って、カイルさんはグレンさんに向き直る。というか前から思ってたんだけど、こっちのネーミングセンスって何なんだろうな。ま、おかげで思い切り日本人な俺の名前がまるで浮かないんで助かってるんだけどさ。
さて。
まあ、さすがにシノーヨ行くのがカイルさんと俺だけってことはないんだよね。カイルさんはうちの隊長かつコーリマ王族だし、俺は自分で言うのもアレだが触れば黒の気を落とせる白の魔女、というレア物なわけで。そりゃ黒の過激派、狙ってくるよねーというこった。俺の場合、シオンとの因縁もあるし。
で、この三人が護衛も兼ねて一緒に行ってくれることになっている。
「タケダくん、ソーダくん。また一緒だ、よろしく頼むぞ」
『むらくもおねーちゃんもいっしょだー。わーい』
『むらくもさまがごいっしょならば、たいへんちからづよいです』
街の南側の出口へと向かいながら、ふん、と鼻を鳴らす勢いのムラクモ。ただし視線はこっちというか、伝書蛇ガン見なのが丸分かりである。いや、タケダくんもソーダくんも可愛いのは分かるけど。あと当の蛇たちは別方向で喜んでるけど、まあこれはいいか。
つか、ソーダくんの分析が確かならムラクモ、強いんだよな? 俺の知ってるムラクモは使い魔スキーで、変な縛り方と男性向け特定部位攻撃が得意な変な子、って感じだからさ。言ってて酷いな、うん。
「一応それなりの年までシノーヨにいたんで、案内はまあ任せて下さいよ」
「俺はグレンさんの弟子なんで!」
というわけで、グレンさんとタクトも同行することになっている。今シノーヨにいる人で知り合いっつったらスオウさんとネネさんくらいだけど、グレンさんはスオウさんの弟子って言ってたもんな。つまりタクトが孫弟子。まあ、つてで何とかなるだろう、多分。
……ところで、何か街の人たち妙にこっち見てんなー。やっぱ、カイルさんやグレンさんかっこいいからなのかね。
で、門のとこまで来たところで。
「こんにちはー」
「あれ?」
「お嬢様! 転ぶと大変です!」
小柄な女の子がとことこと駆け寄ってきた。仕立ての良いワンピースを着た。ふわふわとした濃いめの茶髪にお目目ぱっちりのローティーンの女の子。それを追っかけて、こっちは背の高いメイドさんもやってきた。
領主さんとこの一人娘、ミツちゃんである。この街で半年以上もいるんで、さすがの俺も一回くらいは見たことあんだよね。お菓子屋さんで飴ガン見してて、おつきらしいメイドさんが困ってるところをな。なお、当のメイドさんは後ろから追っかけてきた彼女である。
髪が不自由かつ丸い父親の娘とは思えない……げふげふ、いや、領主さんも何か可愛いからそこら辺は似てるっちゃ似てるんだけど。『異邦人』のお母さん似なのかね。
で、何でかタクトが数歩歩み寄った。……あと五年もすりゃ、結構お似合いかもな。
「おミッちゃんじゃないか。どうしたんだ?」
「タクトおにーちゃん。あのね、パパと一緒に、白の魔女様のお見送りに来ましたー」
「パパ……あー」
「み、ミツ……あ、足が、早いのう……」
……少し遅れて、革鎧二人引き連れてふうふう言いながらやってきたよ、領主さん。だから、こんな小さい娘がいるんだから健康には気をつけろっての。
「領主様。わざわざお見送りに?」
「いやいや、用事もあるにはあるんじゃが、白の魔女様がご出立と聞きましてな」
って、俺かよ。
「あなたのお噂は、なかなか広まっておりましてな。民の視線に気が付きませなんだか?」
「え。あれ、カイルさん見てるんじゃなかったんですか」
『ままみてたんだよ?』
『じょうさまをみていましたよ?』
えー。あのちくちく、俺見てたんか? つーかタケダくん、ソーダくん、俺にしか聞こえないからってステレオで突っ込むな。
というかミツちゃん、何でお前さんまで俺見てんの。
「ほんと、白の魔女様はおっとりですねー。なのに、すごいんですね!」
「はい?」
「タクトおにーちゃんやパパから、お話は聞いてます。黒の気をえいやあ、ってやっつけちゃうんですよね」
「俺何者ですか」
えいやあって。一体俺の噂はどんなふうに流れているのか、後でタクトやムラクモを尋問することにするぞ。グレンさんはあっさりいなされるだろうし、カイルさんは下手すると俺より疎い可能性があるからな。
と、領主さんが懐から封筒取り出した。蝋封ついてるから、ちゃんとしたお手紙だな。
「シノーヨに行かれるとのことで、大公殿への文をお渡し願うことになっておったのですが」
「ああ、そうでしたね。お預かりします」
その封筒は、責任者ということかカイルさんが素直に受け取った。シノーヨのボスである大公さんに持っていくわけか。……独立した街ってのも、いろいろ大変なんだろうなあ。
「シノーヨにある資料には、きっと皆様のお役に立つものがあるはずですからの。ゆっくりしてきてくだされ」
「アオイおねーちゃんやラセン様がいるから、ユウゼは大丈夫だから!」
領主さんとミツちゃんが、そういって見送ってくれる。俺たちは、ゆっくりと頭を下げた。
「ありがとうございます。じゃ、行って来ます」
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