181.連れてくる口実

「ジョウ、街についたよ。大丈夫かい?」


「……はあ、なんとか……」


 着陸態勢に入ったロクロウタの上で、俺はぐったり中である。うん、また空飛んできたから。

 俺はまだまだ慣れてなくて、鞍にしがみついてる状態。カイルさんが後ろにいてくれるからまだ安心とはいえ、なかなかなあ。

 で、へろへろの俺とは例によって対称的に元気な伝書蛇たちは、見えた街にはしゃいでいる。


『まちー、まちー』


『こーりまのまちよりも、たてもののつくりがかんそですね。やはり、あたたかいからでしょうか』


 ……タケダくんはいつもだから良いとしてソーダくん、よく見てんなー。

 確かに、ユウゼやコーリマの街は石造りが多い。これはまあ、冬が寒いからみたい。木造の家だと、どうしても隙間風とか多いもんなあ。あっちと違って、断熱材とかあるわけでもないみたいだし。

 それに対して今到着したシノーヨの街は、ある程度木造の建物が増えてきてた。足元なんかは石なんだけど。何となく、暖かいんだなあということだけは理解できる。あと、街中にも南国っぽい木が植えてあったり。


「着地するよ。もう大丈夫だから」


「……すんません……」


 あーははは、カイルさんにめっちゃ気遣われた。ほんと、空飛ぶのって疲れる。こっちの連中にとっては当たり前の乗り物だからそれなりに慣れてるんだろうけど、なあ。

 ああ、一人だけ歩いてたタクトなんだけど、彼はスオウさんの馬に乗せてもらってる。

 スオウさんはグレンさんの師匠で、グレンさんはタクトの師匠。つまりスオウさんとタクトは大師匠と孫弟子の関係、ということでスオウさんが何か嬉しいらしくてさ。


「おう、孫弟子は俺の馬乗ってけ」


「いいんですか?」


「のんびり地面歩くのもいいけどよ、お前さんたち調べ物に来てんだろ? ちゃっちゃと都に入ったほうが良いだろう」


「だな。乗せてもらえ、タクト」


「そうですね! それじゃ大師匠、お世話になります!」


 ……グレンさんもあっさり同意、そんなわけですんなりと決定した。で、馬をちょっと休ませて俺らも飯食った後、一気に飛んできたわけだ。まあ、まだ途中だけど日も落ちかけてるし。

 で、カイルさんに手伝ってもらいながら馬から降りる。やっとこ足をつけた地面が結構固くて、何かほっとした……んだけど微妙に目が回ってる。三半規管仕事しろ、というか慣れてくれ頼む。


『ままー。おそら、きもちよかったね!』


『たけだくん、じょうさまはかるくめをまわしておられるようですが』


「……ごめん、まだ慣れてない……」


 頼む、タケダくんソーダくん。その元気、分けてくれ。あと、空をあのスピードで飛んでてもはしゃげる脳天気さと。




 で、目の前にある街。……上から見るとちょっとのほほんとした感じの街だったんだけど、良く見りゃ城壁えらく頑丈そうだなあ。門番さんもかっちり鎧着込んでるし。

 その理由は、スオウさんが教えてくれた。


「ラモットの街だ。俺の本部がある」


「……シノーヨ北方軍本部、ですよね? 師匠」


「司令官が俺で副官の嫁もいるから、俺の本部だ」


「いやいやいや」


 思わず顔の前で手を振る。スオウさん以外全員が、ほぼ同時にな。いくら何でもそりゃないわ、うん。

 つーか、こんなんが司令官で大丈夫なんか、シノーヨ北方軍。いや、実力はある程度分かっちゃいるけどさ。コーリマ王都の時は、お世話になったわけだし。

 で、司令官がいてもそれなりにきちんとした、でも司令官がいるので態度があんまり偉そうじゃない身分証明をクリアして街中に入ると、またまたお迎えがいた。


「あらあ、よく来たねえ! いらっしゃい」


「ど、どうもお久しぶりです」


 もちろん、スオウさんの奥さんにして北方軍副司令かつシノーヨのおかんの一人、ネネさんである。大変おばちゃんらしい行動パターンは、俺とムラクモを同時にむぎゅーと抱きしめるという形で発揮された。うわ、おっぱいでけえ。さすがおかん。


「今夜の宿は、うちの宿舎使っとくれ。ちゃんと、お客人用の部屋もあるんだからね」


「え?」


 んで、離してくれた後の第一声がこれ。俺たち、きっと分かりやすく目を丸くしてんだろうな。

 というか、うちの宿舎ってつまり軍の宿舎だろ? 良いのかよ、んなとこ使わせてもらって。

 なんて思ってたら、ネネさんが追加で何かえらいこと言ってきた。


「さすがに、このくらいは世話させておくれよ。コーリマの王子殿下と、黒の魔力から民を救う白の魔女様なんだからね」


「……白の魔女って……」


「ジョウさんのことですよね」


 いや、タクト。ついつい確認しちゃった俺もアレだけど、さらっと答えてくれるのもどうかと思うんだよ。というか、さ。


「俺、どんな扱いになってるんですか!?」


「そんな扱いだけど?」


 あのーネネさん、当たり前じゃない何言ってんのあんたって顔でしれっと返さないでください。というか、何か俺とんでもない扱いされてなくね?


「あんまり大っぴらにゃしてねえが、重要人物だってのは大公にも伝わってるからな。警護の面でも、宿舎使ってくれると助かる」


「……まあ、こちらとしても万全を期したいからな。それは助かる」


「彼女、黒の魔女に顔割れてるもんなあ。狙われたらコトですし」


『ぼく、くろのまじょきらーい。ままいじめるー』


 スオウさんがぶっちゃけてくれた本音に、カイルさんとグレンさんが頷いた。タケダくんはまあ、なあ。

 ……ああ、そうか。俺、シオンと顔合わせてるもんなあ。こっちもシオンの顔分かるけど、あっちも俺の顔分かるんだ。それで、タケダくんが一緒にいれば黒の気ぽろっと落とせる俺を、狙ってくるってことか。

 それでもちょっと戸惑ったのが顔に出たんだろう。ネネさんは、もうひとつ言ってきた。


「後ね、お客が来ると食事がちょっと豪華になるんだよ。あたしたちのためにも、来ておくれでないかい?」


 ……食事が、ちょっと豪華。

 あ、腹の虫が鳴いた。まあ、空飛んでる間えらく緊張してたしなあ、変なところにエネルギー使ったんだろ、俺。

 まあ、そういう理由に乗っかるのも悪くはない、よね。


「……そ、それじゃお世話になっても……いいですよね? カイルさん」


「ああ、そうだな。司令官ご夫妻のお招きだ、お断りするのも問題だろうし」


 一応責任者なんで、カイルさんに聞いてみる。彼は最初から受け入れるつもりだったようで、あっさり頷いた。


「それに、シノーヨの飯は美味いんですよ。特に姐さんは味にうるさいから」


「当たり前だろ? 食事は美味しくて栄養たっぷりでなんぼだよ。あたしたちは肉体労働なんだから」


 グレンさんの自慢に当然のように頷いたネネさんの笑顔に、ああこりゃかなわねえやと思った。やはり恐るべし、シノーヨのおかん。

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