126.性格上の事情
翌日、俺たちは朝お迎えに来てくれた兵士さんと共に城の正門横、通用門までやってきた。
正門は日中は開いてるんだけど、基本大きい馬車とか、あと国王陛下に謁見するような人たちが通るんだそうだ。で、俺らはそうじゃないんで、横の小さい……とは言っても十分でっかい通用門から中に通される。
「よく来たな! カイル、ジョウ」
で、門の中で何故かこの人が待っていらした。いやまあ、そういう人だよねーとはお迎えされた時に分かってたけどさ。あーあ、兵士さん固まっちゃって可哀想。
ちなみに今日は、淡いピンクのドレス。ふんわりした感じで、そういうの着てるとちゃんと王女様だって分かるんだよねえ。黙ってりゃ美人さんだし、王姫様。
「俺はジョウの付き添いです、殿下」
「それでも、来てくれて嬉しいんだぞ? お前が城の門をくぐるのは、この国を出て行ってしまってから初めてなんだからな」
固まった兵士さんを手だけで退散させながら、王姫様は分かりやすく上機嫌である。そりゃまあ、分からんでもないが……ってかカイルさん、お城に来るのどれくらいぶりなんだよ。
「ジョウとフウキとの面会だと、ミラノから聞いている。自分の書斎にいるはずだから、私が案内するぞ」
「いえ、フウキ殿の書斎でしたら、自分が場所を知っていますので」
「気分転換に案内させろ。父上やミラノがいない分、書類がこっちに回ってくるのだ」
上機嫌の理由、もうひとつあったのか。というか、実務はもう大概王姫様がやってんじゃないの?
ハクヨウさんも同じことを考えたらしく、代わりに尋ねてくれた。
「普段から回ってきているのではないのですか?」
「一応父上が王だからな。普段は半分以上押し付けている」
「本来ならば、逆なんだけど……」
「……言われてみれば、国王陛下がセージュ殿下に押し付けてるんだよなあ……」
ムラクモのぼそりとした呟きに、そもそもそうだと気がついた。いや、すんません王姫様、もうすっかりあんたが国王扱いになってる気がします。大丈夫かコーリマ王国。
「ははは、まあ今日は父上もおらんし気楽だ。いいから行くぞ、ジョウ」
「あ、はい。お願いします」
まあそんなことはともかく、俺はカイルさんと違ってお城の中なんて知らないので素直に案内を頼もう。苦笑してるハクヨウさんに連れられて、カイルさんもしぶしぶ一緒に来てくれるみたいだし。
ムラクモは、タケダくんの様子伺いながら俺の横について歩く。やっぱりあんまり気分良くないらしく、何も言わないのにじーとおとなしくしてる。
「特に何ともないがな」
「まあ、俺とタケダくんはお城の中なんて初めてだしな」
案外、大したことはないのかもしれない。それなら、一番いいんだけど。
専属魔術師の書斎はお城の一角、入り口からはそんなに遠くないところにあった。何かあったら速攻で飛び出せるように、なんだろうな。敵が攻めてきたり天災で街の一部が壊れたり、なんやかんやで魔術師の出番は多いもんらしいから。
「じゃ、私はこの辺で」
「はい、ありがとうございました」
王姫様、書斎の前まで到着したところでそそくさと離れていった。あれま、このまま一緒に入るもんだと思ったんだけど。理由は、ハクヨウさんが教えてくれた。
「セージュ殿下、フウキ殿は少々苦手なタイプなんだよなあ」
「そうなんですか」
つーか、苦手なタイプっていたのか、王姫様。どんな相手でも、あの勢いで何とかすると思ってたんだが。
まあ、そういうことならしょうがない。呼ばれてるのが俺なので、自分で扉をノックする。
「済みません。カサイの弟子ですが、フウキさんはおられますか」
「おお、開いてるぞ」
いや自分で開けただろ今。返事と同時に扉が勢い良く開いて、きらきらぱああって感じで両手広げたおっさんがそこにいた。年の頃は……四十代くらい? ハクヨウさんよりは年上で、ピンクがかったブロンドの髪をポニテにしてやがる。おっさんなのに……いやいいんだけどさ。
「フウキだ。いらっしゃい、ミラノ殿下から話は聞いて待っていたよ」
「スメラギ・ジョウです。よろしくお願いします」
「はは、大歓迎だよ。特に若くて可愛らしいお嬢さんはね」
あっはっは、とめっさ明るく笑うフウキさん。ああ何か王姫様が苦手だっての、分かる気がした。彼女を上回る勢いでこう、押してくるんだもんな。これじゃ勝てんわ、うん。
あとしれっと人の頭撫でないでください、と言いたい。言いたいんだが何か、王姫様が勝てない相手に俺が勝てるわけないじゃん、って感じで気圧されてる。
「フウキ殿、相変わらずですな」
「何を言うか、ハクヨウ。可愛いものを愛でて何が悪い。最近セージュ殿下が撫でさせてくれんのでな、可愛い分不足に陥っていたところなのだぞ」
何じゃそら。というか、この国こういう人ばっかりなのか? カイルさん、色んな意味で離れてよかったと思うぞ、俺。
『ままー』
と、肩の上からタケダくんが俺の頬つんつんしてきた。こら、ついでに翼でフウキさんの手をしばくんじゃねえ。いやまあ、すんなり手を避けてくれたんで何か助かった気がするけど。
機嫌は相変わらずのようで、ちょっと不安な感じ。
「タケダくん、やっぱ気になるの?」
『うん』
「おや、どうなさいました?」
フウキさんが、俺とタケダくんを見比べながら尋ねてきた。素直に答えていいものかね、と一瞬だけ思ったけど、簡単に答えることにしよう。
「いえ、この子がお城の中、ちょっと気になるって」
「ああ。我がコーリマはイコン国より特使をお迎えしておりますんでな。黒の気配を感じるのであれば、おそらくその方でしょう」
「一応その話は聞いてます。まあ、この子も俺と一緒でユウゼを出るの初めてなので、敏感になってるかもしれないですね」
「なるほど。いやいや、黒の気配に敏いのは良いことですよ」
うんうん、と楽しそうな顔して頷くフウキさんに、俺も他の皆もそうかーと何か納得させられてしまった。いやまあ、いつも城の中にいるこの人がそういうんなら、そうなんだろうなあ。
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