127.秘密の事情

 それから、フウキさんとはとりとめもない世間話をした。

 黒の信者が勢力盛り返してたりとか、ゴート王が元気よく拳で黒ぶっ飛ばした話とかまあ、いろいろ。すげえな、オウイン・ゴート王。ほんとにカイルさんのお父さんか。王姫様のお父さんなのは分かるけど。

 ああそうそう。イコンの特使さんは、穏健派である国を守るためにコーリマの協力を得たいらしい。黒の信者でも、過激派の行為は目に余るみたいだな。


「やっぱり、過激派が暴れてると穏健派の人は大変なんですか」


「それはそうだなあ。同じ神を崇めているとはいえ、過激派が行う戦や陰謀のせいで自分たちまで嫌な目で見られたり、差別的な扱いを受けたりするわけだから」


「イコンの人は、国の中でおとなしく崇拝してるだけですからねえ」


 ハクヨウさんが肩をすくめて、やれやれと溜息をつく。メイドさんが持ってきてくれたお茶はふんわりと柔らかい花の香りがして、さすが王都のお茶だなーと思った。いつも飲んでるお茶も好きだけど、たまにはこういうのもいいよな。

 で、みんなで一息入れたところでムラクモが、気になってたらしいことを切り出した。


「そういえば、フウキ殿の使い魔は? 確か、ソーダくんとか言ったが」


「元気も元気。ソーダくん、おいで」


「しゃあ」


「しゃー」


 相変わらず使い魔スキーだな、まったく。

 それはともかく、呼ばれて出てきた伝書蛇は、濃い目の青緑色でサイズからしてもわりかし蛇っぽい蛇だった。いや、翼はついてるんだけど。

 で、同じ伝書蛇同士タケダくんとしゃーしゃー会話を始めた。まだチョウシチロウよりは話しやすい相手だろうな、サイズがサイズだし。


「ああ、やはり伝書蛇は可愛らしくていい……」


「ムラクモのほうが愛らしくていいけれどね、私としては」


「……ほどほどにしてくれよ? 城の中で魔術師と忍びが対決でもしたら、かなり洒落にならないし」


 なんか、カイルさんが色んな意味で遠い目になってるよ。というか、伝書蛇スキー対可愛い女の子スキーなんて、どういう対決になるのやら。戦闘以外で。


「そうそう。伝書蛇といえばジョウ殿、コンビネは上手く扱えるようになりましたかな?」


「あー。タケダくんがまだまだ先走りしすぎる面がありまして。指示すればそれなりには従ってくれるんですが、ママに何するんだーってやっちゃうことも」


「幼い子にはよくあることですなあ。我慢を覚えさせないといけんですよ、それが主たるあなたを守ることにもなるのだから」


「そうですね……」


 言われて頷く。うん、俺正直、タケダくんに魔力だけ渡してあと適当とか多い感じがする。ちゃんと計画立てて使わせないといけないし、タケダくんにもチャンスまでしっかり我慢してもらわないといけないし。

 いかんなあ、すっかり親馬鹿炸裂してやがる。とはいえ、ソーダくんとの会話中断してこっちガン見してるタケダくんには、しっかり言い聞かせないと。


『え、ぼくがまんしないといけないの?』


「そうだぞ。俺の指示にしっかり従わないと、俺に何かあったりしてな」


『わー! ぼくがまんおぼえるー!』


 じたばたするタケダくんに再び「ああ、可愛い……」とほんわかするムラクモ、そのムラクモ見て「うむ、愛らしい」と鼻の下伸ばすフウキさん。マジ大丈夫かコーリマ王国。


「……性格と実力は、別物だからな」


「ま、ゴート陛下からしてそうですからねえ……」


 カイルさんとハクヨウさん、思いっきり遠い目してるじゃねえか。王姫様に思い切り面倒押し付けまくってるだろうが、あんたら。




 そんな感じで、お昼前までほぼお茶会状態だった。さすがにこれ以上はフウキさんもお仕事があるので、残念ながらといいつつおっさんは重い腰を上げる。

 あー助かった、正直値踏みされてるような視線感じまくってたからさ。いや、フウキさん可愛い子好きだっつーから、一応可愛い子に入る俺もガン見されてたってだけなんだろうけど。


「それじゃ、ありがとうございました」


「うんうん。またいつでもおいで、可愛い子は大歓迎だからね」


 扉のところで挨拶すると、フウキさんはやっぱりそんな返しをしてきた。そこに、ムラクモがかなり真面目な顔してとんでもない応戦してくる。


「次その台詞を口にしたら、新しいやり方を試させてもらいたい」


「阿呆か、相手選べ相手」


「フウキ殿も、相手を選んで頂きたく」


「ははは、申し訳ない」


 ムラクモにはハクヨウさんが、フウキさんにはカイルさんがそれぞれツッコミ入れてくれた。いや、さすがにどう応戦していいか俺、困ってたんだよねえ。とりあえず、ユウゼに帰ったらラセンさんにぶっちゃけようとは思ってるけど。


「しゃー」


『ばいばーい』


 伝書蛇同士の簡単な挨拶を最後に、フウキさんの書斎の扉は閉められた。




 王姫様もお仕事大変らしく、見送りには来なかった。で、兵士さんに通用門まで送ってもらって、そこから一歩出た瞬間。


『まま、まま』


「何?」


 妙に焦った感じで、タケダくんが俺の頬つついてきた。思わず立ち止まった俺に気がついて、皆も数歩進んでからこっちを振り返る。


『あのね、そーだくんがね、はやくおうちにかえりなさいって。あんまりおうとにいちゃ、だめだって』


「え?」


「ジョウ?」


 カイルさんの不思議そうな声にも、俺は反応できなかった。

 いや、それ、どういうことだよ?

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