123.異母兄弟の事情

「かーいーるー!」


「……は」


 墓参りが終わって、手漕ぎ船で王都に戻ってきて、桟橋に着く前に聞こえた声。

 そこそこ若い兄ちゃんが、向こう岸で両手ぶんぶん振っております。明るい金髪で、何かどっかで見たような顔で、いかにも王子様チックな高そうな礼装で。ついでに後ろに数名、おつきらしい兵士さん従えてるよ。


「うわあ……」


「あーあ……」


 顔をひきつらせてるカイルさんの横でハクヨウさんは額を抑え、ムラクモはものすごく遠い目になっている。俺も口の端ひくひくさせながら、まあ一応尋ねてみた。名前呼ばれて凍ってるカイルさんじゃなくて、ハクヨウさんに。


「あの、予想はつくんですけどどなたですか」


「お前さんの予想通りだろうな。……ミラノ王太子殿下、若の兄上だ」


 やっぱりか。カイルさんの名前呼び捨てできる人であのくらいの兄ちゃんなんて、該当人物そこしかないもんなあ。そうか、どっかで見た顔ってカイルさん……と、王姫様だ。双子なんだし、似ててもおかしくないよな。

 そんなことをやってる間に船は無事到着。船から降りたところで、カイルさんは王太子殿下にがっつり抱きしめられた。そういうとこまで似てるのか双子、後継者二人がこれで大丈夫かコーリマ王国。


「だああっ! お戯れはおやめください、王太子殿下!」


「酷いよ、王都に来てるなら何で城に来てくれないんだよ! 僕もセージュも寂しいじゃないか!」


「そ、そう言われましても!」


「まだ他人行儀なのか? ちゃんと兄弟じゃないかー!」


 あ、おつきの皆がうわあって顔してる。いや、気持ちはわかるよ。仕えてる人がこれじゃあなあ。

 にしても地味に押しが強くねえか? あの王太子殿下。いくら双子だからって変なところ王姫様と似てるんじゃねえよ、まったく。

 何か、お城にいたくなかったカイルさんの気持ちの一部が、分かったような気がした。お母さんのことはともかくとしても、兄貴も姉貴もこれじゃそりゃ疲れるだろう。

 でまあ、ひとしきり久しぶりの弟を堪能したらしい王太子殿下は、ものすごくスッキリした顔でこっちをやっと見た。カイルさん、えらく疲れてる感じがするなあ。いやほんと、おつかれさん。


「ハクヨウ、ムラクモ。カイルが世話になってるね」


「はあ……いや、若はよくやっておられますが」


「そうです、殿下。カイル様は我らの長として、しっかりしておられます」


「そうなんだ。ならいいんだけど」


 あ、こっちは割と淡白。それだけ信頼してるのか、単純に弟らぶなのかはまあ考えないことにする。

 それから、王太子殿下の目がこっちに向いて。


「それで、こちらの彼女はカイルの奥さん?」


『何でですか!』


 こっちの四人全員、綺麗に台詞がハモった。恋人とかならともかく、何でいきなり奥さんになるんだろうか。いや、俺まだまだ中身男だし、恋人っつーのも無理だけど。

 というか、分かりやすく魔術師スタイルしてるだろ、俺。しょうがない、自己紹介しますか。


「その……カイルさんの部下の、魔術師です。まだ駆け出しなんですが」


「魔術師? だって、ラセンがいるだろう?」


「ラセンさんの弟子として、修行中なんです。ジョウと言います」


「へえ、ラセンの弟子……うわ」


『こんにちはー』


 ああ、さすがにラセンさんの事は知ってるのか。まあ、当然だろうな。カサイ一族の今の長、なんだから。

 で、そのラセンさんの弟子ってことで王太子殿下は、まじまじと俺をガン見。肩の上に乗ってるタケダくんを見て、さすがに驚いたみたいだ。


「白の伝書蛇連れてるなんて、カイルもえらい子部下に持ったねえ。あ、僕はカイルの兄でオウイン・ミラノ。どうぞ、お見知り置きを」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。……無作法があったらすみません」


「僕はそこら辺、気にしないから」


 ここらへんは分かりやすく、カイルさんのお兄さんって感じがする。王姫様と双子ってのもばっちりで、ただ何となく頼りない感じがするかな。いや、王姫様が頼りになりすぎるんだろうけど。

 で、ふと気がついたようにハクヨウさんが、軽く割り込む感じで口を開いた。ほっといたら王太子殿下、またカイルさんに絡みそうだもんなあ。


「そういえばミラノ殿下。正妃殿下がお身体の調子がすぐれないと伺いましたが」


「うん、ちょっと寝込んじゃってる。でも、夏前から来てくれてるメイドがよく見てくれててね」


「そうなんですか?」


 あ、カイルさん、気になってたんだ。まあ、お母さんと正妃殿下、仲よかったって言ってたもんなあ。カイルさんがお城出るまで、きっといろいろ気にかけてくれてたんだろう。

 そのカイルさんに、王太子殿下はニコっと笑って答えた。


「うん。何なら、カイルも見舞いに来ればいいのに」


「いえ、俺は……」


「やっぱりかあ。ほんと、気にしなくていいのに。カイルは僕やセージュの弟なんだし、母上もカイルのこと結構気にしてるんだよ」


「そのお言葉だけで、十分です」


 ……こりゃ、当分無理そうだな。俺にしてみればほんと気にしないで見舞いにいきゃいいのに、とか思うんだけど。

 それができるなら、墓参りなんかもほいほい来てるよね、うん。

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