37.ミーティング

 その日の夕食後、俺たち……というか傭兵部隊の全員が、食堂に呼ばれた。普通に集会所みたいな使われ方をしてるらしく、基本的にごっついおっさんたちがぞろぞろと集まる光景は結構圧巻だ。中にはタクトみたいな若い子や、アオイさんもいるんだけどな。

 そのアオイさんにくっつくようにして、俺と……同じくらいかな、の年の子がいる。ものすごく短いけど髪の色もアオイさんと同じで顔立ちも似てるから、多分弟さんだろう。


「アオイも戻ってきたことだし、皆に話をしておこうと思う」


 その推定弟さん、とアオイさんを従えて、カイルさんは全員の顔を見渡すと口を開いた。うわ、真剣な表情ってこうやって見ると結構怖いな。迫力がある方が、いいんだろうけどさ。


「ジョウを保護した黒の神の神殿跡だが、再び信者が集結している兆しがある。ムラクモ」


「は」


 名前を呼ばれて、ムラクモが立ち上がる。こほんとひとつ咳をして、それから話を始めた。


「先日、『子猫の道具箱』から魔術道具が盗まれるという事件が発生した。伝書蛇の卵など重要なものは取り返せたが、一部が流出したままだ」


「しゃー」


「お、お前は例外だぞ? タケダくん」


 はいそこ、頬を赤らめるな。ほら、あちこちでくすくす笑われてるじゃねえか。ああ、いつものことだなーという雰囲気になっちまったろうが。まったく。

 まあ、その表情はほんの僅かな間だけで、すぐにムラクモはきりっと顔を引き締めた。


「しかし、あの店の店主はかのネコタ・アキラ殿だ。当然のように追跡魔術をかけていてな、黒の連中の動きを知りたいからしばらく放っておけ、と店主殿からの申し出があった」


 追跡魔術。要するにGPSとかに当たる魔術なんだけど、当然のように掛けてたのかよ、アキラさん。つか、囮にしやがったな。


「それで、割り出した地点が神殿跡ということですか」


「その通りだ。あそこは一度我々が掃除しているから、逆に盲点と考えたのだろう」


 ハクヨウさんの質問には、カイルさんが答えた。ああそうか、一度見つかってるところをもう一度使うなんて普通は考えない、ってことか。

 しかしまあ、バレた以上はもう一度でも『掃除』に行くんだろう。また、俺みたいな奴が出ないとも限らないから。マジ、冗談じゃねえや。


「ジョウ」


「はい」


 カイルさんが、不意に俺の名前を呼んだ。慌てて視線を合わせると、何か心配そうな顔でこっち見られてる。

 あと、他の皆はこっち見んな。緊張するだろうが。


「君には、こちらに残ってもらう。黒の神殿に入って、悪影響が出ないとも限らないからな」


「……はい。それはしょうがないです」


 そう言い渡されて、俺は素直に頷いた。もともとあんなとこに戻りたくないし、それに何しろ俺は、黒の神の生贄にされるためにこんなことになっちまったわけだしな。あそこに戻って、何かあったりしたら大変だ。


「ああ。残ってもらうからといって、休みなわけじゃない」


 ここで微笑む、ってのはイケメンの特権だな。俺が中身まで女だったら、どきっとしてる可能性はある。おのれ中身までイケメンめ。

 ま、それはともかくとして。カイルさんは、幾人かの名前を挙げていった。


「アオイ、ノゾム、コクヨウ、タクト、グレン、ランド、スウセイ、ミキオ」


「はっ」


「はいっ」


「は」


「はい!」


「へい」


『おす!』


 最後のおす、は脳筋トリオが一斉に発言。分かりやすいな、お前ら。あと、推定アオイさんの弟さんはノゾムくんというのか。よし……後で紹介してもらおう。あっちも俺のことは初めてだろうし。


「お前たちも街に残り、警備を頼む。他にももう少し置いていくが、恐らく街中でも騒ぎを起こすはずだ」


「了解しました」


 代表して、アオイさんが返事をする。副隊長がOK出したんだから当然、その他の皆さんも従わざるを得ない……というか、アオイさんがいなくてもカイルさんの指示だしなあ。


「ラセンは連れて行くからジョウ、君も頼むぞ。これが初仕事になるが……」


 カイルさん、俺にそんなことを言ってきた。そうしてちょっとだけ何かをためらった後、言葉を付け加える。


「……覚悟は、できているか」


「はい」


 気を使うなってーの。その意味も込めて俺は、頷いてみせた。

 この場合の覚悟っていうのは、あれだ。人殺し。

 カイルさんは、俺が人殺しなんて珍しい、そんなことしなくても生きられる世界から来たことを知ってる。だから、気を使ってくれてるんだと思う。

 いやまあ、俺だって怖いよ? ていうか、実際やっちまった時どう思うのかとかさっぱり分からないし。けど、こういう世界で傭兵部隊にいる以上、いつかはやっちまうことだと思ってるから。

 実際にそうなった時に、足が震えない自信はないけれど。

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