33.風呂で対面
「はー、あったまる……」
「やっぱり、冬はお風呂最高ねえ」
魔術の訓練をある程度こなした後、俺とラセンさんは『ユズ湯』に来ていた。俺は巡りの物が終わったばかりなので、まあこう綺麗に洗いたいしな。しかし、股間洗うのって間抜けなポーズになるな、男でも女でも。
で、まあ当然というか今俺が入ってるのは女湯である。一応一週間に一回くらいは来てるので、今日は都合三回めか。なお、本日はリンゴっぽい感じの香りがついたお湯である。
それはともかく、だ。お客さんさほど多くないとはいえ、右を見てもおっぱい左を見てもおっぱいついでに下を向いたら自分のおっぱい、という光景は正直、まだ慣れないというか目の毒というか健全な青少年には刺激が強い。あと下もな。
「……いい加減慣れなさいよ。これからずっと見ていく光景なんだから」
「分かってるんですけどねえ……」
そんな俺を見て、ラセンさんは魔術教えてくれてる時とは別の意味で大変楽しそうである。中身知ってるからこそ、なんだろうけどさ。ほんと勘弁してくれよ。
「中身に準拠するなら、それこそラッキーじゃないの。遠慮無く見られるのよ?」
「恥ずかしいもんは恥ずかしいんですって」
お風呂入ってる人って、隠さないんだよね。まあ周囲みんな同じすっぽんぽんってこともあるんだろうけど、まさか中身は男でーすなんて人間がいるとは思わない、か。
目の前で胸ぼーんと張ってるラセンさんをガン見するのもあれなので、俺は湯船の横にちょこんと置いてある桶に目を移した。
『まま、ぬくぬくー』
「しゃー」
伝書蛇は湯船に入れなければOKとのことで、タケダくんとカンダくんは仲良く桶に収まっている。……伝書蛇も風呂入るのな。いやあ、羽生えた蛇が目の保養になるなんて思わなかったよ、うん。
「冬眠はしないけど、寒いのは意外と苦手だからねえ」
「蛇は蛇ですもんねえ。タケダくん、寝床大好きだし」
「カンダくんなんか、ほとんど冬眠してるんじゃないかってくらい寝床から出てこないわよ」
二人で、それぞれの伝書蛇の頭を指先で撫でてやる。おお、気持ちよさそうだ。
……って。
「すいません、当たってます」
「当ててんのよ。というか、マジ慣れなさい」
「二週間で慣れるかー」
いやもうほんと、勘弁して下さい。俺はそうほいほい、中身まで女になれるような器用さは持ってないんだから。
「あら、あんたたち」
不意に、前に聞いた声だと思って顔を上げる。途端目に入ったのはふわふわした感じのぼんきゅっぼーん。その上に、前に会ったことのある顔が載っていた。そりゃそうだ。
「あ、ハナビさんこんにちはー」
「こんにちはー。お仕事終わり?」
「今日はオフよー。ちょうどアオイが帰ってきたんで、ひとっ風呂浴びに来たところ」
コクヨウさんご執心の彼女、ハナビさんは明るい笑顔のまま湯船に入ってきた。その背後から、ハナビさんとは違うタイプのぼんきゅっぼーんが登場する。
どう違うか。ハナビさんにぎゅっとされたら、ふわふわふにふにもふもふという感じ。後ろの人にぎゅっとされたら……絞め落とされそうな感じ。うむ、つまり筋肉質なんである。いや、冷静に分析してる場合か、俺。
「あら副隊長、帰って来てたんですか。お帰りなさい」
「ただいまー、ラセン。何ハナビ、こっちの娘も知り合い?」
「ラセンちゃんのお弟子さんだあよ? 何、まだ顔合わせてなかったの」
「さっき帰ってきたとこっつっただろ。街の入口であんたにとっ捕まったんだから、まだ宿舎にも戻ってないよ」
ラセンさんとも知り合いらしい筋肉質のお姉さん、アオイさんは、ハナビさんに続いて風呂に入ってくると何かまじまじと俺を見ている。ちょい青っぽい感じのサイドテールにまとめられた髪の毛が、あーこの世界って異世界だったんだっけと俺に再確認させた。
いや、今まで見てきた髪の色で一番派手なの、真っ白なハクヨウさんか赤毛のグレンさんだもんよ。
「そっか。するとジョウさんのことは知らないわけか」
「ジョウ、っていうの? この子」
「スメラギ・ジョウです。二週間ほど前に、カイルさんたちに助けてもらいまして」
「さん?」
名乗った途端、アオイさんのちょっと太めの眉がぴくりとはねた。いや、名前じゃなくてカイルさんのさん、に反応したみたいだな。……隊長って呼ばなきゃいけなかったかな、もしかして。
「アオイー、この子が隊長さんをどう呼ぼうが勝手じゃないかい? てか、あんたらが様付けするのも白黒コンビが若呼ばわりするのも、隊長さん嫌がってるじゃないか」
「そ、それはそうだけど」
「大人げないんだよ、ったく」
俺が怯んでいる間に、ハナビさんがアオイさんをたしなめる。そういやコクヨウさんやハクヨウさん、カイルさんのことを若って呼んでたよな。カイルさんは隊長って呼べ、って言ってたっけ。
俺がカイルさんって呼ぶのは何も言われなかったからそのまま呼んでるけど……ちょっと考えとこう、うん。
で、一体彼女が何者か、というのはラセンさんが教えてくれた。
「あーえーと、彼女はうちのサクラ・アオイ副隊長。カイル隊長とは幼なじみなのよ」
「あ、いたんですか副隊長……そりゃそっか」
何か、すげえ納得した。
あの面倒な一団を、真面目なカイルさんだけでまとめられるわけないよなあ。白黒コンビもいるとはいえ。
そうか、この人がいるから何とか……なってるんだろうな、うん。
「サクラ・アオイっていう。カイル様のことを名前で呼んでるなら、あたしもアオイで構わないよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
しぶしぶという感じで名乗ってくれたアオイさんに、軽く頭を下げる。うわー何かびりびりするよう、このひとの視線怖い。
というかアオイさんって、ムラクモと同じでカイルさんに様付けなのな。部下だから当然なんだろうけど……うーん。
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